転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族のむかしむかし2

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 縦軸が慌てて向かった先には、手首からは血を滴らせる少女がいた。足元には、刃に血のついたカッターナイフが転がっていた。

「先輩、保健室に向かってください!まだ先生いると思うから連れてきてください!」
「分かった!」

 微が保健室へと走り去っていく。

「虚君、どいて!」

 ていりが縦軸を下がらせる。すると彼女はカバンから包帯を取り出した。

「何でそんなの持ち歩いてるのさ⁉︎」
「昔の名残よ」


 そこからのていりの対処は早かった。どうやら応急処置の心得があったようだ。


 その後少女は保健室へ連れて行かれ、命に別状がないことが確認された。

「君たちの対処が早かったおかげだわ。特に三角さんの応急処置は完璧よ。他の2人もありがとうね」
「そうですか、良かったです」
「じゃあ私ちょっと用事あるから、その子見ててちょうだい。よろしくね」

 そういって先生は去っていった。

「取り敢えず、助かってよかったね、三角さん。……ってどうしたのさ?」

 不審者を見つめる目をしたていり。

「虚君、あなたどうして彼女があそこにいるってことが分かったの?まさか……彼女をったのって……」
「待て待て待て待て。ミステリーは作者の頭脳では書けないって!」
「わあっ、メタ発言だ!」
「じゃあ何で分かったの?」
「ええと……最初に言っておくと、初めてなんだ。〈転生師トラックメイカー〉の力だよ」
「どういうことかしら?」
「さっきも話したよね?このスキルは死人を異世界転生させる能力だ。それ故か、近くで死にかけている生命がいると何となく分かるんだ。それもどんな風に死にそうかも。まあ今まで感じたのはせいぜい虫とか、ご近所さんのペットが老衰で死にかけてるとか、そんなもんさ。今回はやばいと思ったよ。人が死にかけててしかも自殺なんだから」

 そう話す縦軸は、安心感と嫌悪感の混じったような表情に見えた。ていりにとっては、〈転生師トラックメイカー〉の新たな能力が分かったこと以外はどうでも良かったが。

「縦軸君?大丈夫?」

 そう言って縦軸を見つめる微。両手を縦軸の頬に添え、顔を少し上に向けて(縦軸の方が背が高いのだ)、縦軸と目を合わせている。

「縦軸君、すっごく怖い顔だよ?どうしたの?」
「先輩……いえ、何でもありません。心配してくれてありがとうございます」

 咄嗟に笑顔になる縦軸を見て、微はむしろ余計に心配になった。

「ねえ待って、何でもなくないよ。何かあるなら話して。私もていりちゃんも縦軸君の味方だよ。」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
「で、でも……」
「あのー?」

 その声の主はていりではなかった。ベッドの上で、件の少女が縦軸たちを見ていた。

「あら、起きてたの。元気そうね」
「ええ、おかげさまでね」

 「おかげさま」の言い方が、皮肉と強調の積のように感じられた。場に不穏な空気が満ちる。

「と、取り敢えず2人とも落ち着いて!ま、まずは自己紹介でもしようよ!ね?」
「……1年7組、三角ていり」
「同じく1年7組の虚縦軸です」
「2年5組の積元微だよ!あなたは?」
「……1年1組、十二乗ひとめぐりおと。あんたたち何者?」

 取り敢えず最も普通に話のできる縦軸が相手をする。

「僕たちは民間伝承研究部っていう部活をやってるんだ。ちなみにそこの積元先輩が部長だよ」
「そう、よろしくね。まあ取り敢えず礼を言うわ。助けてくれてありがとね」

 その言葉で縦軸は混乱した。

「……?えっと、何でお礼?」
「あんたたち馬鹿?死にかけてたところを助けてもらったのよ。普通感謝するでしょ」
「え、ええと……十二乗さんって……その……死のうとしたんだよね?」
「まあね」
「なのに助けてもらって感謝するの?」
「ああ、それで混乱してるのね。感謝してるわよ。実はね、自殺しようとしたのに明確な動機は無いの」
「え?それはどういう?」
「何となくよ。今までの人生での小さな小さな不平不満が溜まりに溜まって今回に至ったってわけ。別にいじめとかは受けてないわ。まあいっそ死んだ方が良かったかもって思っちゃって、つい敵意剥き出しにしちゃったけど」
「そう……良かったよ」
「んで?これから私どうなるわけ?PTAとか先生との面談とかあったら面倒くさいから嫌なんだけど」
「ああ、ええと、先輩?」

 縦軸が微に話を振る。

「さっきウチの顧問に連絡しといたよ。取り敢えず今から来てくれるって」
「そういえばウチの顧問って会ったことありませんね。何でですか?」
「弦君がね、『あいつには基本的に好きにさせてやれ』って頼んでたみたいだよ」
「「……」」

 弦というのはこの学校の生徒会長だ。そして生徒会の会長、副会長、書記の3名は微の幼馴染でもある。つまり微には元々甘いのだ。

「……ええと、じゃあそういうことだから。その先生に言ってみれば?『面談云々は面倒くさいから嫌です。』って。向こうからしてみれば、君は自殺願望のあった人物だからね。あまり君が嫌な思いをするような対応はしないと思うよ」
「そう。分かったわ」



 しばらくして、件の人物がやって来た。

「ごめん!遅くなった!」

 若い女性だった。

「1年のみんなは初めましてだね。私は顧問の原前もとさき作子つくるこ。よろしくね」
「初めまして、1年7組の三角ていりです」
「うん、よろしく。そんでそこの男子がもう1人の……て、え?」

 作子はまだまだ新人で、しかも緊急事態のためとても焦っていた。だから気づかなかったのだ。

「えっと……何であんたがいるのよ?」
「いや、こっちの台詞だよ。何でいんだよ?入学式で見なかったけど?」
「あはは、病欠で」
「まあいいや。そういうことだからよろしく。んで、この人が例の生徒、十二乗音さん」
「うん、よろしくね、十二乗さん」
「あ、はい、よろしく……」

 自然な流れで会話を進める縦軸と作子にていりが突っ込む。

「待ちなさい虚君」
「ん?どうしたの?」
「あなた、この先生と知り合いなの?」
「ああ……まあね」
「あはは……まあ色々とね」

 作子も、縦軸の様子を見て話すのはやめておこうと思った。彼女の脳裏に、あの頃の光景が蘇る。



「うぐっ……ひぐっ……ごめんね、ごめんね」
「泣かないでください。作子は悪くありません。悪いのはあいつらです」
「でも、私だって、もっと何かできるかもしれないのに、なのに……」
「作子……」
「ごめんね、愛。助けてあげられなくて……」
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