転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生少女と学園1

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 6歳になりました。私は今からある場所は向かいます。その名も『エウレアール冒険者学園』。私の住んでいる国がエウレアール王国といい、そこにある冒険者を育成するための学園ということだそうです。



 話は1年前に遡ります。

「いいかいリリィ、今日から父さんと母さんでお前を徹底的に鍛え上げる。そして6歳になったら冒険者学園に入るんだ」
「冒険者学園?」
「冒険者になるための学校だ。ここで6年間ちゃんと授業を受けて、ちゃんと卒業すればとってもすごい冒険者になれるんだぞ!」

 つまり卒業すれば将来冒険者になったときにそこの卒業生というだけでステータスになるらしいです。これは頑張らねば。

「分かった。私冒険者学園に行く!」
「よしその意気だ!ただし気を付けろ、学園に入学するには試験がある。とっても厳しい試験だ」

 何と……この世界にもお受験が存在するとは。

「安心しろ、父さんと母さんが鍛えてやるからには絶対に合格させてやる!今から俺たちのことは師匠と呼べ!」
「はい、よろしくお願いします、師匠!」

 こうして私は1年間特訓漬けの毎日を過ごしました。



 そして今日はその入学試験当日というわけです。現在私は玄関で両親に見送られています。試験では不正防止のため保護者の同行は禁止されています。

「リリィ、気をつけてね。」
「寄り道するんじゃないぞ。あと悪い大人に気をつけるんだ。まあリリィなら大抵は倒せると思うが」
「うん、分かった。それじゃいってきます!」
「「いってらっしゃーい!」」


 学園までの道のりは予め教えられています。私は特に問題なく到着しました。

「なんと、すごい人だかりです」

 そして全員が私と同い年であろう子供たちです。職員の方に手続きをしてもらい、試験会場へと向かいます。

 試験会場の場所はわかりやすくいうと運動場のような場所です。そしてその中央には中年の男性が木製の剣を持って立っていました。

「よし、全員集まったな。俺はお前たちの試験官グラッドだ」

 グラッド先生が大きな声で叫びます。

「今から全員俺と戦え。その実力で合否を決める。予めチームを組んでる奴らはまとめてかかってこい」

 周りを見てみると何やら数人で話し込んでいる子たちがほとんどです。なるほど、実践を想定して支援職の人も活躍できるようにしているというわけですか。

「それじゃあ順番にかかってこい!」

 こうして試験は始まりました。



 数十分後、子供たちは全滅していました。大抵が一撃も与えられずにやられ、運悪く怪我をした者は医務室送りとなっていました。グラッド先生はあれでも大分手加減している様子です。

「なんだ、この程度か?他にはもういないのか?」
「あの、私、まだです!」

 残るは私のみとなりました。

「ほう、ソロか。名前は?」
「リリィです!」
「……なるほど。ところでリリィ、その装備は何だ?」

 私が今着ているのは紛うことなき普段着です。他の子たちは年齢の割にはそれなりの装備をしていましたが私は間違いなく最強の舐めプ装備でしょう。
 強いて言うなら、伊達眼鏡をかけて片手にヒノキの棒を持っています。

「お前、この試験を舐めてるのか?」
「とんでもありません。これで勝てると確信したからこの装備で来たんです」
「ほう、どうやら相当調子に乗っているようだな。いいだろう、全力で叩きのめしてやる。来い!」

 グラッド先生が剣を構えます。木製とはいえ、中々の迫力です。実際この場で彼に何人もやられているんですから。

「よろしくお願いします!」

 挨拶を済ませると同時に、私はヒノキの棒を構え、全身に魔力を漲らせます。

 私が今つけている装備はどれも魔力量最底辺、つまり〈能力授与プレゼント〉の真価が発揮された物たちです。
 道具に宿るスキルは、道具自身の魔力か使用者の魔力を消費して発動します。尤もこの武器たちはほとんど魔力が無いので全て私の魔力で負担するのですが。ですが私の魔力量はS。この程度なんてことありません。

「な、何だこの魔力は?」
「いきます!〈超音速メロス〉!」

 靴に宿したスキルを発動、一気に加速してグラッド先生に近づきます。グラッド先生はまだ反応できていません。今度はヒノキの棒のスキルを使います。

「〈筋力増強ブースト〉!はあああっ!」

そしてそのままグラッド先生の腹にヒノキの棒を叩きつけます。

「ぐあああああっ⁉︎」

 悲鳴を上げながらグラッド先生が数メートル吹っ飛びます。これは、やりすぎました?

「あ、あの……先生、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ……。君の、試験は、終了だ」

 蚊の鳴くような声で答えたグラッド先生はそのまま気を失ってしまいました。

 その直後、別の先生がグラッド先生を医務室へと運んで行き、私は大量の視線を浴びながら試験会場を後にしました。



 その日、エウレアール冒険者学園の職員たちは入学試験の結果を審査していた。

「なるほど、今年の受験者はそれなりに豊作ですね。グラッド先生、そちらはいかがでしたか?」

 入学試験にはいくつかの種類がある。筆記試験を受けることもできるが、中にはまだ読み書きを習っていない子供も多くいる。そのような者たちは実技のみの試験を受ける。今年はグラッドが担当であった。彼はすでに引退した身ではあるが、かつては腕利きの冒険者であり、引退後は教育の場でその才能を発揮している。

「うーん……まあ例年通りって感じだったな」
「左様ですか」
「あっ、でも1人やべー奴がいたな」
「ほぅ、それはどのような?」
「まず魔力がやばかった。あの魔力量はSクラス相当だぞ」
「何と!」
「魔力量Sとなるとそれだけで魔術師としての才能は申し分ありませんな」

「しかもそれだけじゃねえ。彼女は魔法ではなく武術で俺に挑んできやがった。油断してたもんだから一撃で吹っ飛ばされちまったよ」
「グラッド先生が一撃で……?何か不正を働いたのでは?」
「いや、少なくとも特別な道具は持ってなかった。驚いたことに普段着にヒノキの棒1本で来やがったんだぞ」
「何ですって⁉︎信じられません。その受験者は何者です?」
「ええっと……あ、こいつだ」

 グラッドは机に並べられた願書の中から1枚を手に取る。願書は大抵保護者が代筆しており、事前に学園に送られている。

「受験番号1729番、リリィ、平民の子ですね。ん?こ、これは……!」

教員たちはその少女の、両親の名に愕然とした。

「なるほど……ゴードンとセシリアの子でしたか。グラッド先生、あなたも運が悪かったですね」

 彼女の規格外の実力にその場の全員が納得した。



 試験から2日が経ちました。今日は合格発表の日です。ちなみに筆記試験はありませんでした。どうやら試験の種類がいくつあって、私は実技オンリーのものを受けたようです。

「よし、じゃあ行こうか!」
「リリィ、忘れ物は無いわね?」
「うん、大丈夫。でも、うぅ……緊張する」
「何言ってるの?自分を信じなさい。リリィなら絶対合格してるわよ」

 母さん、そんなにフラグ立てないで。


 2人に連れられて私は学園へと向かいました。学園に着くと、入り口に合格者の番号が張り出されています。私は読めないので代わりに母さんと父さんが探してくれます。

「おおっ、あった、あったぞ!1729番、やったなリリィ、合格だ!」
「本当⁉︎や、やったーーー!」
「リリィ、おめでとう!」

 両親と共に、私は合格に歓喜しました。異世界転生から6年、私の第二の青春が始まろうとしていました。



 合格発表から数日後、今日はついに入学式です。私も両親も、今日はいつもよりおめかししています。2人ともかっこいいです。

「ふふ、リリィも似合ってるわよ」
「本当?母さんありがと!」

そんな話をしているうちに私たちは学園に到着しました。職員の方に案内され、私たちは講堂のような場所へやって来ました。

 私は新入生の席へ着き、母さんと父さんは他の子の保護者と一緒に後ろの席に座っています。何でしょう?何やら周りの方々が2人に話しかけています。知り合いなのでしょうか?


 そうこうしているうちに入学式が始まりました。

「これより、エウレアール冒険者学園入学式を開始する!一同起立!」

 ああはいはい、前世もこんな感じでした。

 その後も新入生代表やら学園長やらの挨拶が長々と続きました。正直内容は全然頭に入ってきませんでした。



 その後私たち新入生は先生に連れられて教室に向かいました。私のクラスはAクラスです。

「よし、みんな集まったな。今日から1年、このAクラスの担任を務めるグラッドだ。何人かは試験で会っていると思う。よろしくな」

 何と私たちの担任はグラッド先生です。ここで少しでも顔見知りの人というのは有り難いです。


 この日は必要な教科書などなどを渡されたのち放課となりました。重たい荷物は両親に預けて、私は現在教室で単独行動中です。
 どうやら卒業後の人脈作りも兼ねて、新入生たちで交流を深め合っているようです。

「うぅ、同年代の子とは遊んだことがなかったから緊張します」

 そうして私が話しかけるのを躊躇っていたところ、ある声が耳に入りました。

「や、やめて!」
「うるせえ!生意気な口きいてんじゃねえよ!」

 何事ですか?
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