転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族と生徒会4

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 微に呼び出されたていりと生徒会たちは、現在傾子の病室にいた。

「お久しぶりです、傾子さん」
「久しぶりね、対ちゃん。弦君と記君も元気?」
「はい」
「お陰様で」
「初めまして、積元先輩の後輩の三角ていりです。先輩には部活でお世話になっています」
「あら、よろしくね。微にこんな可愛い後輩ちゃんができるなんて嬉しいわ。」
「、、、、、!あ、ありがとうございます」
「で、何でお前もここにいるんだよ」

 対が睨みつけた先には、縦軸がいた。

「あら、縦軸君は最近よくお見舞いに来てくれてるのよ。記君に教えてもらったって」
「は⁉︎ちょっと記、聞いてないわよ?」

 今度は記の方を驚いた様子で向く対。

「まあお見舞いに行くだけだから大したことはないと思ったので。話さなくてもいいかなと」

 少し困惑しながら答える記。



 話は1週間前に遡る。微が先に帰ってしまったため、縦軸は校門で生徒会メンバーを待ち構えていた。そこに出くわしたのが記であった。

「左位先輩でしたよね?ちょっとお訊きしたい事があるんですが」
「おや、君は確か1年の虚君だったね。どうしたんですか?」
「積元先輩のことです」

 その一言で記は縦軸の考えを察した。

「やはり、気になりますか」
「はい。教えてください、積元先輩に何があったんですか?生徒会の皆さんと積元先輩はどんな関係なんですか?」
「……分かりました。話しましょう」

 そして、記は縦軸に、微と彼女の母傾子の話を聞かせた。対がていりに話した内容と同じだ。

「……分かりました。ありがとうございます」



 その後、縦軸はその足で鳩乃杜病院へ向かった。傾子の病室は記に教えてもらっていた。

「失礼します」
「あら、こんにちは。えっと……どちら様かしら?もしかして、微の知り合い?」

 そこにいたのは、元気こそ無いものの微と雰囲気のよく似た女性だった。

「初めまして、微さんの後輩の虚縦軸です。先輩にはいつも部活でお世話になってます」
「まあ後輩くんだったの。微、学校だとどんな感じ?あの子いっつも異世界の話ばっかりだから」
「あはは、学校でもそんな感じですよ。僕以外にもう1人1年で入部した人がいるんですけど、彼女の話を熱心に聞いてますよ」

 その発言を聞いて、傾子は少し驚いた様子だった。

「それって、微の話を信じてくれてるの?」
「もちろんです。僕も信じてますよ」

 平然と言ってのけた縦軸。その発言に、傾子は目を見開いた。

「……あの子があんなことを言い出して以来、信じてくれる人は誰もいなかったわ。でも私には分かったの、あの子は本当のことを言ってるって。そう、親子揃って狂ってた訳じゃなかったのね」

 そう言う傾子の目は、少し潤んでいた。


 それから1週間、縦軸は傾子のもとへ通い、微のことを話していた。たまに縦軸自身のことも尋ねてきたのでその話もした。



「……まさか傾子さんと仲良くなってるとはな。まあいい、微、結局何の用だ?」

 微は悪戯でも考えてるかのような顔で言う。

「見てて。スキル〈天文台〉!」


 微の発言とともに、縦軸たちの視界が一瞬で切り替わる。微のスキルはこの1週間でLvを上げ、自分以外にもその景色を見せられるようになったのだ。

 そこに広がっていたのは、中世ヨーロッパのような街並みのどこかだった。VRのそれとはリアリティが桁違いだ。

「な、何だこれ⁉︎」
「ここは一体?僕たちは確かに病院に」
「対、弦、落ち着いてください」
「まあまあ見てなさい3人とも。ほいっ!」

 すると、また景色が移り変わる。今度はどこかの森の中だった。
「こ、今度はどこだよ……て、あれ!」

 対が指す先では、水色のブヨブヨとした物が数名の人間と対峙していた。それは間違いなく動いていた。

「虚君、あれって」
「スライムだろうね」

 その時、対峙していた人間の1人が手に持っていた杖を掲げる。杖は光り輝き、どこからともなく現れた炎の球がスライムに降り注いだ。そして、スライムは消え去っていた。

「な、何だあれは?」
「まじかよ。まるで微の言ってた……」
「魔法だよ」

 微が説明する。

「最後はこれ!」

 再び景色が移り変わる。縦軸たちは空に浮かんでいた。

「うおおおっ!何だこれ⁉︎微、何なんだこれ⁉︎」

 慌てふためく対。するとそこに、巨大な影が迫る。それは巨大なトカゲのようだが、その背中には巨大な翼が生えていた。

「おっ、ドラゴンだ!ラッキー!」

 対たちが怯える中、ドラゴンは縦軸たちにぶつかったかと思うと、すり抜けて飛び去っていった。

「私ね、お母さんと対たちに、ずっとこの景色を見せたかったんだ。ゲームの中で見たみたいな世界、こんなのが、いーっぱい広がってるんだよ!」

 微はこれまで以上に楽しそうだった。

「じゃあ今日はこれでお終い!」


 縦軸たちは再び病室にいた。厳密に言えば、ずっとそこにいたのだが、微のスキルにより異世界の景色を見ていたのだ。

「お母さん、どうだった?」
「んふふ、微の言った通りの世界だったわね。あんなのが見れるなんて羨ましいわ」
「いひひ、いいでしょ。ねえねえねえねえ、対たちはどうだった?」

 呆然としていた生徒会の3人の中で、対が最初に口を開いた。

「微は、本当に見てたんだな。こんなすげーのを、あの頃から」
「うん」
「なあ微、虫のいい話だとは思うけど、許してほしい。今まで微の話を信じなくてごめんなさい!」
「僕もすまなかった!」
「すみませんでした」

 頭を下げる生徒会。そんな彼らに対し、微は当たり前のことを言うように言った。

「もちろん!だって対たちは私の友達だもん!」



 微が生徒会の3人と仲直りしてから数日後、傾子は家族に見守られながら旅立った。その顔はとても安らかだったらしい。

「さようなら傾子さん。よい来世を」

 病院の前には、そう呟く縦軸の姿があった。



 傾子の葬儀から数日後、民間伝承研究部(民研と呼ぶことにしたらしい)は廃部を免れていた。弦たちも流石にを見せられた後に廃部にするなんて到底できなかった。

 その民研の部室では、

「よっしゃ!後輩諸君、準備はいいかね?」
「オーケーです」
「いつでもいいですよ、先輩」
「ふふっじゃあいくよ、〈天文台〉!」

 彼らにとって当たり前の日常が流れていた。
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