転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族と生徒会3

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 生徒会長の入江弦が、民間伝承研究部の廃部を宣言してきた。

「ま、待ってよ弦君! どういうことなの⁉︎」
「君の部は昨年創設されたばかりとはいえ、全く活動らしい活動をしていない。続けるだけの理由が無いんだよ」
「でも、部員だって新しく入ったし……」
「そんな2人の入部届がここにある」

 弦が見せてきたのは、間違いなく縦軸とていりの出した入部届だった。

「な、何で弦君がそれを持ってるの!」
「生徒会権限ってやつだ」
「この高校、生徒会の権力が強い学校だったのか。そんな所本当にあるとは……」

 今度は対が、微を見つめて話しかける。

「なあ微、いい加減やめろよ。だって……傾子さん、もう長く無いだろ?」
「……! 今その話は関係ない!」

 明らかに微が動揺する。廃部宣言の時点から既に顔が青くなっていたが、今はそれ以上に切羽詰まっている。

「関係なくないよ微。君にこの1年間好きにさせてきたのはそうすれば飽きると思ったからだ」
「う、うそ……信じてくれたんじゃなかったの?」
「でも君は変わらなかった。それに傾子さんももう長くない。だから僕たちは思い切った行動に出ることにしたんだ。微、いい加減その妄想はやめないか?」

 ここまで来て、縦軸とていりもこれは彼らなりの優しさなのだと何となく勘付く。弦のやっていることは側から見たら横暴だが、彼の語り口には微のことを思うものがあった。
 それでいて尚、ていりは反論する。

「入江先輩、1つよろしいでしょうか?」
「ていりさんだったね。どうしたんだい?」
「事情はよく分かりませんが、私はこの部が廃部になると困ります」
「そうかい、でもこれは決定事項だよ。君たちがどう言おうと、最終的な決定権は僕たちが握っている」
「だったらせめて、猶予をくれませんか?その間に廃部を撤回してみせます」
「…………いいだろう。1週間だ。それ以上はどう足掻こうと、待つことはできない」
「分かりました」

 こうして、縦軸たちの部の存続をかけた1週間が始まった。



 翌日、縦軸と微は学校を休んでいた。よって今部室にいるのはていりのみである。

「うん、この月は中々おもしろいわね」

 とはいえ特にすることがないため、ていりは本棚のオカルト雑誌を読み漁っていた。


 あの後、微はやることがあると言って帰ってしまった。そこで縦軸とていりは生徒会の様子を窺うことにした。彼らと微の間の事情を探るためだ。微がいる時に本人に訊くのが最も手っ取り早いが、生徒会室での会話からそれは微を傷つけるかもしれないと考えたのだ。

 しかし、微に加えて縦軸も何故か休んでいた。

「虚君、体調でも崩したのかしら。せめてスキルの詳細教えてもらうべきだったわね」

 そんな時、部室のドアが開く。

「すまん、ちょっといいか?」

 それは、あの指村対だった。

「指村先輩、どうしました?まだ約束の日じゃないですよ」
「そうじゃねえよ。確かにあたしは生徒会副会長で廃部にも賛成だが、その前に微の友達だ」
「あなた副会長だったんですか。ていうか、友達にしては随分と積元先輩への態度が酷くないですか?」
「まあ聞け。事情は話す。今日はお前たちと話をしに来た。つーかもう1人いただろ」
「虚君は学校休んでます」
「そうか、まあいいや。お前だけでも聞け」
「何をですか?」
「あいつの、微の話だよ」

 そう言って対は話し始めた。



 微と生徒会の3人は幼馴染だった。微の家庭はどこにでもある平凡なものだったが、対たちのこともとても可愛がってくれ、彼らは家族ぐるみで仲良くしていた。
 だが、ある日その日常は崩れ去った。微が7歳の時、微の母が重い病気を患ったのだ。彼女こそ、対たちが話していた人物、積元傾子けいこである。傾子は治療のために入院を余儀なくされ、微の父も仕事で家を空けることが多かったため、微は家族が離れ離れな時間を過ごした。
 対たちが微を心配し、以前よりも一緒にいるようになったが、傾子の容態が良くならないことが微のことを静かに追い詰めていった。
 そんな生活が1年ほど続いたある日、微に変化があった。スキルを手に入れたというのだ。それから彼女は、魔法の存在する異世界の話を対たちや傾子にもするようになった。対たちは、微が壊れてしまったと思った。
 対たちは微の妄想をやめさせようとしたものの、彼女に変化は見られず、それが今日まで続いている。



「……と、こういう訳だ。だからあんたたちも、ただの遊びで微の妄想を肯定しないでくれ。傾子さんだっていつまで保つか分からない。だから、頼む」
「……1週間という期限はもしかして」
「それだけやべえってことだよ。せめて微には傾子さんとの時間を大事にして欲しい。せめてその間だけは、あの妄想を忘れて元の微に戻ってほしいんだ」
「……分かりました。1週間待ってください。それで彼女は変わります」
「そうか、分かってくれて嬉しいよ」

 この時、ていりが言った変化は決して対が期待したものではなかった。



 約束の1週間が経った。その間、微と何故か縦軸もずっと学校に来なかった。

「……で、こうしてあたしらがわざわざ来てやったってのに、なぁんで微がいねぇんだ?」
「私が知る訳ないでしょ」
「まあまあ、落ち着きなよ対」

 生徒会とていりが民間伝承研究部の部室に集まる中、ふいに、対の携帯電話が鳴る。

「って、微⁉︎」
「え、積元先輩?」
「微がどうしたんだい?」
「対、早く微を呼んでください」
「おめえらちょっと黙れ!んで、微、お前今どこに……て、あんた何でそこに、分かった、すぐ行く」

 そう言って対は電話を切った。

「対、微は何て?」
「鳩乃杜病院に来てくれって」
「……それって!」
「傾子さんの元へ来い、ということですか⁉︎」
「先輩方、とにかく行きましょう」

 ていりたちは病院へと向かった。



 一方その頃病院では、

「お母さん、もうすぐみんな来るからね」
「そう、賑やかになりそうね」

 微は母の病室にいた。

「先輩、準備はいいですか?」
「まっかせっなさーい!」

 そして何故か縦軸もいた。
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