転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生少女の始まり

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 ああ、やっと楽になれる。そう思っていた時期が私にもありました。

 トラックにぶつかったことによる激痛が全身を駆け巡る中、私の意識はだんだんと薄れていき、やがて真っ暗などこかへ落ちていきました。

 なんだか不思議な気分です。ふわふわとどこかを漂っているかのようで、まるで体なんてものを捨てて魂だけ残っているようです。なるほど、これが死後というやつですか。もうこうなったら楽にしていましょう。なるようになります。



 どれくらいそうしていたでしょうか。ある時、突然意識が覚醒しました。

 ここはどこでしょうか。なんだか手足の感覚も少し変です。さっきからすぐ近くで泣き声が聞こえます。ん?この泣き声、もしかして私ですか?何故私はこんなに泣きじゃくっているのですか?

 目を開けると、そこはどうやら木造の家のようで、病院ではありませんでした。そして私を見下ろす外国人の男女2人がいました。女性の方は金髪に青い目で、男性の方は目の色は普通ですが赤毛どころじゃない真っ赤な髪。

 誰ですかこの人たちは⁉︎私をどうしようっていうんですか?その時、女性の方が私を持ち上げました。驚いたことに、彼女は私を両手で抱き抱えると、その両腕で包み込むように抱いたのです。それって赤ん坊抱く時のそれですよね?私身長は150cmくらいあるんですよ、あなたどんだけでかいんですか?やめてください、下ろしてください!

 そうして抵抗しようと腕を突き出した時、私は気づきました。私の両腕がとても小さくぷにぷにとしていることに。それは、私の体が赤ん坊のそれだということを教えていました。

 ああ、なるほど、生まれ変わったのですね、私。

 何となく合点がいきました。あの臨死体験のような感覚、泣くことしかできない赤ん坊の体、生まれ変わったとしか考えられません。
 となると、私をやけに微笑ましそうに見つめている彼らは私の両親ということでしょう。彼らは何処の国の人でしょうか。話してる言葉は英語ではありません。

 まずは言葉を覚えないといけませんね。と、考え事をしていたらお腹が空きました。自然と泣き喚いてしまいます。母親と思わしき女性が何事かと考えた後、胸元をさらけ出して私の顔をそこへ近づけていきます。

 訂正します。目下の課題は食事ですね。ありがとうございますお母様、おっぱいいただきます。



 生まれ変わってから3年後、私は3歳になりました。ハイハイは少し前に卒業して今は歩けるようになりました。さらに、私の成長はこんなものではありません。

「リリィ、こっちよー」
「ほらほら、リリィ、おいで」

 なんと言葉もわかるようになったのです。母さんと父さんの話している言葉をよく聞いていた甲斐がありました。まだおしゃべりした事はありませんが。


 ヨチヨチと歩きながら母さんへ向かって抱きつきました。

「よしよし、いい子ね、リリィ」

 どうやら私の名前はリリィというらしいです。因みに母さんと父さんはセシリアとゴードンといいます。

「リリィ、ほらほら、パパだよー」
「リリィ、ママよー」

 父さんが私の顔を覗き込みます。彼らは私をとても可愛がってくれていて、私はとても幸せです。

「マ、ママ」

「「え⁉︎」」

 あ……。

「あ、あなた、今リリィ話さなかった?」
「ああ、確かに話したぞ!もうおしゃべりできるなんて、やべえ、リリィは天才だーーー!」


 母さんと父さんが狂喜乱舞しています。こうして私は3歳でおしゃべりできるようになりました。

「リリィ、ほらほら、パパって言ってごらん」
「パ、パパ」
「うおおおーーーーーー!リリィにパパと呼んでもらえたぞーーー!」
「リリィ、ほら、もっかいママって呼んでごらん」
「ママ」
「きゃーーー!幸せだわ!」

 私はしばらくママとパパの名を呼び続けることになりました。



 初めてのおしゃべりから数週間後、私の語彙はどんどん進化しています。

「母さん、あそぼ!」
「いいわよ、じゃあ今日は何して遊ぼうかしら」

 今ではこうして母さんや父さんとお話しできるようになりました。

「うーんそうね、じゃあ今日は魔法を見せちゃおうかしら。」
「まほー?」

「ええそうよ、母さんはね、魔術師って言って、魔法っていうのが使えるのよ」

 魔術師ですと……!生まれ変わりを体験した私が言うのもあれですけど、そんなものあるんですか?

「じゃあ見てて。光魔法 光球オーブ

 すると、母さんの掌の上に光の球が浮かび上がりました。これは凄い!魔法なんて本当にあったんだ!

「わあ、すごいすごい!」
「ふふ、ありがとう、リリィ」
「他にどんなのがあるの?もっと見せて!教えて教えて!」
「いいわよ。じゃあどれから話そうかしら」

 そうして母さんは私に魔法のことをいろいろ教えてくれるようになりました。



 母さんが魔法を見せてくれるようになってから数日

「じゃあ行ってくるよ」
「気をつけてね、ゴードン」

 父さんが仕事に出かけていきます。何故か剣を持って防具をつけています。というか剣なんてあるんですね。

「ねえ、母さん、父さんて何のお仕事してるの?」
「あら、気になる?」
「うん」
「そうねえ、リリィは冒険者って分かる?」

 このとき、私は初めて冒険者という仕事を知りました。あとこの後知ったのですが、ここは私が以前いた世界とは別の世界だったのです。どうりでたまに母さんが一緒に買い物へ連れて行ってくれた時に、やけに中世のヨーロッパみたいな場所だなあと思いました。

 つまり私は異世界転生したのでした。
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