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第一章
第5話 追放
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俺が去ったあと、その村と周辺の町との間でトラブルが起きていた。
原因は村が急発展したからだ。
多くの村が金にならない農作は自分たちの分しか作らなくなり、狩猟に力を入れるようになった。
それにより農作物の価格が高騰し、一部の魔物の肉や素材が値崩れを起こした。
さらに村では自給自足で薬を作れるようになり、目聡い商人はそれを村まで買い取りに行くようになった。
そのせいで町の薬屋は商売あがったり。
しまいには商人が村を訪れなくとも、護衛もつけずに自分たちで商品を持ってくるようになって、護衛の仕事まで減ってしまった。
そうやって町との経済バランスに軋轢が生じてしまったのだ。
特に衝撃だったのは最初の村での事件。あの村は夜盗の襲撃で壊滅していた。町の人間の差し金じゃないかと言われているが、真相は分かっていない。
そして俺に処分が下った。
辺境の村からさらに3日かかる森の中。強力な魔物が生息する魔境にほど近く、誰も来ることのない場所にあるこの教会。
こんな場所に教会があることさえ、最近まで知られていなかったが、俺と因縁深いある司祭が見つけたらしい。
そしてその司祭が『神が祀られている以上は誰かが管理するべきだ』と上層部に進言し、俺はこの教会に来るに至ったのだ。
「ちょっと待ってくれ。おかしいじゃないか。君は教会が救いきれない人たちを救おうとしただけじゃないか。それなのに……ただ君の力を疎ましく思って言いがかりをつけているようにしか、私には思えないよ」
「なんでこんな森の中にいて、そんな人間の心理までわかるんだよ」
鼠の言うことがあまりに的を射ていたので、思わずつっこんでしまった。
実際、俺の行動を称賛する声も上がっており、むしろ俺の活動をバックアップするように教会が動くべきだという人も現れ始めていた。。
保守派ばかりの教会上層部は、それが1番面白くなかったのだ。
「やはり、君の志に心を打たれた者もいたんじゃないか」
鼠がそう言ってくれたが、俺は首を横に振った。
「志なんかじゃない。ただの勘違いさ。さっきも言ったけど、俺は自分にしかできないことを見つけた気になっていた。でもよく考えたらそんなことはないんだ。俺にしかできないのはさして役に立たないジョブを授けるだけ。戦い方も薬の作り方も俺じゃなくとも教えられた」
そう、俺は何にも特別じゃなかった。
ただ勘違いしていただけ、転生‘sハイが続いていただけだった。
その浅はかさが、1つの村を壊滅させる元凶を作ってしまったのだ。
そんな自分に失望した俺は、教会が下した処分に不服を申し立てる気さえ起きず、事実上の追放を受け入れた。
「それでも君は特別だったんだ」
鼠はなおも俺を励ますように声をかけてくれる。
「たとえそうだとして、いや、そうだったのなら尚更、俺は思慮深く行動するべきだった」
たとえ不遇職であっても、ジョブを授ける力をみんな特別に思ってくれた。
そんな俺の言動がみんなに与える影響をもっと考えなければいけなかった。
「私が言いたいのは君の力のことじゃない。特別なのは君そのものだ」
「異世界からの転生者ってことか?」
意図を汲めない俺に、鼠は小さくため息をついてから続けた。
「君だけが私たちを見つけてくれたんだよ。私たちの存在に気づいて、名乗って、食事を置いて、ここにいることを認めてくれた」
「それは……孤独に押しつぶされそうだっただけで――」
「理由なんていいんだ。大事なのは君の行動だ。君は矮小で弱い私たちをちゃんと見てくれた。話をしてくれた。それぞれの料理を、それぞれに皿を盛りつけてくれた。寝る場所を作ってくれた。存在を認めてくれた。君は私たちの希望なんだ」
希望? 俺が……
「彼らも同じだったはずだ。自分たちを見て、何ができるか考えてくれたことが嬉しかった。そしてそこに希望を見た。その後の顛末はそれとはまた別の話だ」
鼠は、俺の膝の上に乗って、俺の眼をじっと見た。
「ありがとう」
鼠の言葉に同調するように、蛇は腕に巻き付き、鴉たちはそっと身を寄せてくれた。
その温かさに俺は思い出した。俺が訪れた村の人たちもそう言って、俺の手を強く握ったり、抱きしめたりしてくれたことを。
咄嗟にこみ上げてくるものを、こぼさぬ様にと夜空を見上げた。
「さて、さすがに眠くなってしまった。私たちは先に寝床につくよ」
鼠は俺の心情を察したのだろう。膝から降りて寝室へと向かう。
鴉たちと蛇も寝室へと戻っていく。
「あ、そうだ。一つ頼みたいことがあったのだ」
思い出したように立ち止まった鼠に、俺は鼻をすすってから「なに?」と聞き返した。
「この前、夕食を作っている時にカレーという食べ物の話をしていただろう?」
確かに、キッチンの棚が完成した時に、空間に収納してあった自慢のスパイスを並べながら、青眼にカレーの話をした。
大好物なので本当はいつだって作りたいのだが、米の代わりになる穀物が希少で、あと数回分くらいしか残っていないので、いい肉が狩れた時にでも作るつもりだった。
「それを食べてみたいのだが、明日、作ってもらうことはできるか?」
急だなとも思ったが、こんな話を聞いてもらったお礼にはいいかと思い、俺は快く了承した。
「よし、頑張れる理由ができたよ」
いったい何を頑張る気なんだ、と思いながら鼠を見ると、鼠の向こうが一瞬透けて見えた気がした。
原因は村が急発展したからだ。
多くの村が金にならない農作は自分たちの分しか作らなくなり、狩猟に力を入れるようになった。
それにより農作物の価格が高騰し、一部の魔物の肉や素材が値崩れを起こした。
さらに村では自給自足で薬を作れるようになり、目聡い商人はそれを村まで買い取りに行くようになった。
そのせいで町の薬屋は商売あがったり。
しまいには商人が村を訪れなくとも、護衛もつけずに自分たちで商品を持ってくるようになって、護衛の仕事まで減ってしまった。
そうやって町との経済バランスに軋轢が生じてしまったのだ。
特に衝撃だったのは最初の村での事件。あの村は夜盗の襲撃で壊滅していた。町の人間の差し金じゃないかと言われているが、真相は分かっていない。
そして俺に処分が下った。
辺境の村からさらに3日かかる森の中。強力な魔物が生息する魔境にほど近く、誰も来ることのない場所にあるこの教会。
こんな場所に教会があることさえ、最近まで知られていなかったが、俺と因縁深いある司祭が見つけたらしい。
そしてその司祭が『神が祀られている以上は誰かが管理するべきだ』と上層部に進言し、俺はこの教会に来るに至ったのだ。
「ちょっと待ってくれ。おかしいじゃないか。君は教会が救いきれない人たちを救おうとしただけじゃないか。それなのに……ただ君の力を疎ましく思って言いがかりをつけているようにしか、私には思えないよ」
「なんでこんな森の中にいて、そんな人間の心理までわかるんだよ」
鼠の言うことがあまりに的を射ていたので、思わずつっこんでしまった。
実際、俺の行動を称賛する声も上がっており、むしろ俺の活動をバックアップするように教会が動くべきだという人も現れ始めていた。。
保守派ばかりの教会上層部は、それが1番面白くなかったのだ。
「やはり、君の志に心を打たれた者もいたんじゃないか」
鼠がそう言ってくれたが、俺は首を横に振った。
「志なんかじゃない。ただの勘違いさ。さっきも言ったけど、俺は自分にしかできないことを見つけた気になっていた。でもよく考えたらそんなことはないんだ。俺にしかできないのはさして役に立たないジョブを授けるだけ。戦い方も薬の作り方も俺じゃなくとも教えられた」
そう、俺は何にも特別じゃなかった。
ただ勘違いしていただけ、転生‘sハイが続いていただけだった。
その浅はかさが、1つの村を壊滅させる元凶を作ってしまったのだ。
そんな自分に失望した俺は、教会が下した処分に不服を申し立てる気さえ起きず、事実上の追放を受け入れた。
「それでも君は特別だったんだ」
鼠はなおも俺を励ますように声をかけてくれる。
「たとえそうだとして、いや、そうだったのなら尚更、俺は思慮深く行動するべきだった」
たとえ不遇職であっても、ジョブを授ける力をみんな特別に思ってくれた。
そんな俺の言動がみんなに与える影響をもっと考えなければいけなかった。
「私が言いたいのは君の力のことじゃない。特別なのは君そのものだ」
「異世界からの転生者ってことか?」
意図を汲めない俺に、鼠は小さくため息をついてから続けた。
「君だけが私たちを見つけてくれたんだよ。私たちの存在に気づいて、名乗って、食事を置いて、ここにいることを認めてくれた」
「それは……孤独に押しつぶされそうだっただけで――」
「理由なんていいんだ。大事なのは君の行動だ。君は矮小で弱い私たちをちゃんと見てくれた。話をしてくれた。それぞれの料理を、それぞれに皿を盛りつけてくれた。寝る場所を作ってくれた。存在を認めてくれた。君は私たちの希望なんだ」
希望? 俺が……
「彼らも同じだったはずだ。自分たちを見て、何ができるか考えてくれたことが嬉しかった。そしてそこに希望を見た。その後の顛末はそれとはまた別の話だ」
鼠は、俺の膝の上に乗って、俺の眼をじっと見た。
「ありがとう」
鼠の言葉に同調するように、蛇は腕に巻き付き、鴉たちはそっと身を寄せてくれた。
その温かさに俺は思い出した。俺が訪れた村の人たちもそう言って、俺の手を強く握ったり、抱きしめたりしてくれたことを。
咄嗟にこみ上げてくるものを、こぼさぬ様にと夜空を見上げた。
「さて、さすがに眠くなってしまった。私たちは先に寝床につくよ」
鼠は俺の心情を察したのだろう。膝から降りて寝室へと向かう。
鴉たちと蛇も寝室へと戻っていく。
「あ、そうだ。一つ頼みたいことがあったのだ」
思い出したように立ち止まった鼠に、俺は鼻をすすってから「なに?」と聞き返した。
「この前、夕食を作っている時にカレーという食べ物の話をしていただろう?」
確かに、キッチンの棚が完成した時に、空間に収納してあった自慢のスパイスを並べながら、青眼にカレーの話をした。
大好物なので本当はいつだって作りたいのだが、米の代わりになる穀物が希少で、あと数回分くらいしか残っていないので、いい肉が狩れた時にでも作るつもりだった。
「それを食べてみたいのだが、明日、作ってもらうことはできるか?」
急だなとも思ったが、こんな話を聞いてもらったお礼にはいいかと思い、俺は快く了承した。
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