私の好きなお兄様

山葵

文字の大きさ
上 下
16 / 39

16

しおりを挟む
「…………」

 魔術師の男の、後ろ姿を睨み付ける。そして、その男に手を引かれる、戸惑った表情の女学生に視線を向けた。

「(アイツは……)」

 初めは変なヤツだと思っていた。妙に俺に突っかかってくるし。だが、それらはきっと彼女なりの心配だったに違いない。態度の忠告とか。
 彼女に出会ったのは運命だと思った。さっき、あの腕をつかんだ時に、そう感じた。
 触れた温かみが、もっと触れていたいと思えるようなその心地が、間違いなくそうだと思わざる得ない。

 彼女に触れた手を握り締める。
 あの女学生はなぜか、やけに背の高い視察の魔術師に付きまとわれているようだった。確かに、顔も整っている……というより、整い過ぎて作り物のような顔をしているし、それでいて明るく素直な様子だからな。
 よく一緒にいる友人達との会話によると、少しおっちょこちょいで天然な部類に入るらしい。
 見た目の良さや性格の可愛らしさも相まって、男達もあまり放っておいてくれなさそうだ。しっかりと好意を示しているヤツや遠巻きに見ているヤツも割といるようだし。

 そして、あの魔術師の男は危険な部類だ。妖艶、というか怪しい雰囲気の、女性のような顔の男。
 初めて見た時からあの男は危険だと、そう直感が告げていた。
 だから、思ったのだ。あのまま、彼女のそばに置いているとやがて彼女が危険な目に遭うだろうと。

「(彼女は、守らなければならない)」

 他にもならない、『勇者』である自分が。

 今まで『勇者』として生まれ、前世の記憶を頼りに生きてきた。これからも、そうするつもりだ。

「(……それの中に、アイツが加わるだけだ)」

 二人の後ろ姿は、いつのまにか見えなくなっていた。

×

「(どうすれば、アイツをあの男から守れるだろうか)」

 そう考えながら、街の中を歩いた。今日歩いた街の中には剣やナイフなどを販売している店の姿はなかったものの、きっと何処か少し離れた場所で売られているはずだ。

 俺が通っている魔術アカデミーには、門限が存在している。夕方の6時だ。時間の感覚は前の世界とほとんど同じで、俺は特に不自由は感じていない。
 なぜ夕方の6時までに帰らないといけないのかというと、それは簡単に、魔獣が出るからだ。逆を返せば、魔獣を倒せるならば夕方6時を過ぎても外を出歩いてもいいわけだが……。

「(門限を破るのは、あんまり良くないよな)」

 うっすらと、赤く色付き始めた空を見上げる。前世の世界よりも、紫っぽい色の夕焼けだ。

 記憶の中の世界は、この世界とは違い魔法はなかったけれど、魔法に似た科学力があり、それはこの世界のものを凌駕していた……ような気がする。この世界にも家電製品のようなものはあるが。

「(テレビのような、画面に映像を映し出す技術はあるんだよな)」

 店じまいをするのか、映像を映し出していた看板の色が消えた。

 逆に、何時から外に出ても良いことになっているのかというと、法律では『太陽が出始めた頃』となっているらしいが、魔術アカデミーでは朝5時からだ。

「……!」

 そこで、ふと彼女を守る方法を思い付いた。

 身体を鍛えて、自分自身が更に強くなれば良いのだと。
 とりあえず、体力をつける為に早朝の走り込みを始めることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】夫の心がわからない

キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。 夫の心がわからない。 初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。 本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。 というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。 ※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。 下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。 いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。 (許してチョンマゲ←) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

リリーの幸せ

トモ
恋愛
リリーは小さい頃から、両親に可愛がられず、姉の影のように暮らしていた。近所に住んでいた、ダンだけが自分を大切にしてくれる存在だった。 リリーが7歳の時、ダンは引越してしまう。 大泣きしたリリーに、ダンは大人になったら迎えに来るよ。そう言って別れた。 それから10年が経ち、リリーは相変わらず姉の引き立て役のような存在のまま。 戻ってきたダンは… リリーは幸せになれるのか

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

処理中です...