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少し遅れて誕生日パーティーの会場に現れた婚約者のビアン伯爵家嫡男レオナルド様は、大きな花束を抱えていた。

会場に居る人達は、レオナルド様が皆の前で婚約者であり今日の主役であるハイラルド侯爵家のカトリーヌ嬢にプレゼントするのだと思っていた。

しかし会場に入ってきたレオナルド様は誰かを探しているのかキョロキョロと辺りを見回している。

会場の中心に居る私が見えないのかしら?

私は仕方なく友達と離れレオナルド様を迎えに行こうと歩き出そうとした。

しかし賑わう人混みからレオナルド様に手を振り近付くご令嬢の姿が見え、私は動きを止める。

2人は寄り添い、私の元へとやって来た。

「やあカトリーヌ。流石に筆頭侯爵家のご令嬢の誕生日パーティーだね。伯爵家のパーティーとは偉い違いだ。ああ忘れていた。はい、君への誕生日プレゼント。」

そう言って渡されてのは大きな花束ではなく、1通の封書。

「中を確認しても?」

封筒の中から取り出した1枚の紙には『婚約解消届』の文字。
ご丁寧にレオナルド様のサインも入っている。

「ハハハ、喜んでくれたかい?僕からのプレゼントに驚いて口もきけないかい?君が僕を好いているのは知っている。けれど僕は君を好きになる事は出来ない。なぜならば僕には運命の相手ナタリーと出会ってしまったからね。僕を好きな君が願うのは僕の幸せだろう?そんな君へのプレゼントは僕が幸せになる為の物だ。最高のプレゼントだろう!」

はっきり言って目の前の人が何を言っているのか分からない。

私達の結婚は親が決めた政略結婚。
多額の負債を抱えたビアン伯爵家の負債を我が家が返済する代わりに、ビアン伯爵家にある港をタダで使用する権利を得た。

そこに私達の感情など関係ない。

勿論、これから一生を共にするのだ。
より良い関係になる様には接してきたつもりだった。
こんな形で裏切られるなんて思いもしないで。

レオナルド様と腕を組んでいるのは、私の従姉妹のナタリー。
母方の従姉妹でランバ男爵家の娘だ。

ランバ家とハイランド家は、親戚とはいえ叔母も亡くなっている事から殆んど交流がなかった。

ナタリーと久し振りに再会したのは学園に入学してから。
彼女は私の侯爵家の立場を利用して、周りの人達に傲慢な態度で接していたので、注意すると怒って私と距離を置いた。
この時も、自分の置かれている立場を弁えない者だとは思っていたけれど、まさか人の婚約者に手を出すなんてね。

「クスクス…カトリーヌ。誕生日おめでとう。ごめんなさいねぇ~、まさかあたしがレオナルドの運命の相手なんて思いもしなかったのよ。レオナルドにはカトリーヌの婚約者なのだから、あたしの事は諦めてカトリーヌと幸せになる様に言ったのよ。でもねぇ~真面目ちゃんな婚約者よりも、あたしの方が魅力的で良いんですって♪ねぇ~レオナルド♡」

そう言ってレオナルドの腕に胸を押し付けた。

私の側にやって来たお父様の顔を見ると黙って頷いてくれた。

「ビアン伯爵令息様。わたくしカトリーヌ・ハイランドは、今をもって貴方との婚約を破棄しますわ!」

「「やったぁー!!」」

「これで伯爵夫人になれるぅ~♪」

「これでナタリーと結婚が出来る。ナタリー・ランバ令嬢、僕レオナルド・ビアンと結婚して下さい!」

そう言ってレオナルドは、手に持っていた花束をナタリーに渡した。

喜ぶ2人だけれど、その喜びも何時までかしらね。

激怒しているお父様により誕生日パーティーは終わりを告げた。

人の誕生日パーティーを台無しにしてくれて本当に腹が立つ。

お父様の抗議文と慰謝料請求を受け取ったビアン伯爵家とランバ男爵家は慌てて我が家に謝罪に来ていた。

それはそうよね、筆頭侯爵家であるハイランド侯爵家を怒らせてしまったんですもの。
これからの事を考えたら土下座でも何でもしてお父様の許しを得ないとやっていけなくなる。

ビアン伯爵家には、肩代わりして支払った負債金の一括返済とレオナルドの不貞を働いての婚約破棄の慰謝料。
お陰で、ビアン伯爵家は没落寸前。
優しいお父様が、ビアン伯爵の領地の一部を買い取って差し上げました。
勿論、一部の中に港が含まれているのは言うまでも有りませんね。

ランバ男爵家にも同じく多額の慰謝料を請求させて頂きました。
こちらは、当然没落しましたわ。
男爵は爵位を返上し、領地を全て売って、残ったお金で夫婦2人が住む小さな家を買ったそうです。

男爵が爵位を返上すれば、平民となるナタリーと結婚する事が出来なくなるとレオナルド様は我が家に抗議しに来ましたが、門の中に入る事無く追い返されていましたわ。

そんな心配しなくても、直ぐにレオナルド様もナタリーと同じ立場になりますのに。

私を傷付けた人をお父様が黙ってそのままにしている訳が有りません。
伯爵との契約書の際に、次期当主がレオナルドになるならば契約は交わさないと告げると、伯爵は次期当主は次男のジモンにする。レオナルドは勘当すると言ったそうですわ。


そうそう、皆さん気が付きました?
レオナルド様は1度も婚約解消の言葉を発せられませんでしたの。

私からは、皆さんも御存知ですが「婚約破棄します!」と宣言させて頂きましたわ♪

今回の婚約解消は、ハイランド侯爵家から不貞を働いた愚息が嫡男のビアン伯爵家へ言い渡したという事になりましたわ。

浮気されていただけでも醜聞ものですのに、婚約破棄されたなんて私のプライドが許しませんわ。

「カトリーヌ、何を考えているんだい?」

「…ああ、申し訳御座いません。目の前の御方との縁談をどうやって断ろうかと…。」

「アハハ、面白い事を言うね。王族からの婚姻を断ろうなんて普通の令嬢は考えないよ。」

「ならばわたくしは普通では無いのでしょう。そんな者と縁を結んでしまいますと殿下のお立場も…。」

「無理!留学から帰ってみれば君はクズ…元ビアン伯爵子息と婚約しているし。父上から君を諦めて早く婚約しろと説かれるし。でも待ってて良かった。これでカトリーヌと結婚が出来る。」

元々、私は第4王子のジルフィード殿下の婚約者候補に挙がっていた。

けれど、それでなくとも筆頭侯爵家として多大な権力を持つハイランド家。
周りからの貴族家からの抗議を避ける為に候補から外れた。

まさかジルフィード殿下が私に好意を寄せていてくれたとは…。

陛下もお父様も知っていたなら、もっと上手くジルフィード殿下から私を遠ざけて欲しかった。

「父上からの承諾は取ったから、今頃ハイランド侯爵が呼ばれてるはずだよ。カトリーヌ・ハイランド嬢、私ジルフィード・フォン・リンベランと結婚して下さい。」

膝を付きプロポーズされてしまえば断る事は出来ない。

「結婚をお受け致します。」

ゆくゆくは臣籍降下するとはいえ王族。
これから王子妃教育が待っている。

キラキラと嬉しそうに微笑む殿下を見ながら私は小さく溜め息を吐いた…。



end

最後まで読んで頂き ありがとうございます。
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