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「おかあたまぁ~!」

2歳になる息子のナイゼルが走って私に抱きついた。

「お帰りなさい。お父様とのお出掛けは楽しかった?」

「うん!これおかあたまにぃ~。これはぁ~あかたんにぃ~♪」

アイザックは、宰相となり多忙な身だが、身重の私と息子の為に、休日を無理矢理もぎ取っている。

遊び疲れ眠たそうなナイゼルを乳母に預け、私とアイザックは、お茶にしていた。

「旦那様。客人がいらしているのですが、どうなされますか?」

休日のアイザックは、極力仕事の予定は入れない。
臨月が近い私を気遣い、親しくしている者にも遠慮させて貰っている。

「今日は来客の予定はなかった筈だが?」

「それが、先触れもなく奥様に会わせろと喚いておりまして。門番が追い返そうとしても居座っている様です。少し手荒な…」

「私に会いたいと言っているの?誰かしら?」

「モイツ伯爵夫妻と仰っております」

モイツ伯爵夫妻とはランセルとキリナ。
今更2人が私に何の用が有ると言うのか?
少し興味を持った私はアイザックに会ってみたいと頼んだ。

アイザックは、渋ったが私の頼み事に弱い。
自分も同席して良いのならと言って了承した。

応接室に入れば、態度でかく座るランセルとお菓子を頬張るキリナが居た。

「お久しぶりね。私に用が有ると聞いたのだけれど、よく私の前に姿を出せたものね」

この位の嫌味を言っても良いだろう。

「セシリアぁ~、久しぶりぃ~!元気だった?相変わらず綺麗なドレスが着れて羨ましいわぁ~。私なんてランセルと結婚したばかりに伯爵夫人だというのにドレスもまともに買えないのよ。これじゃあ男爵家と変わらないじゃない!本当に外れくじを引いてしまったわ」

ランセルは、ハズレかもしれないが、モイツ伯爵家は決してハズレでは無かった。

「キリナ。貴方はランセルが好きで私から奪ったのよね?それに今のモイツ伯爵家にしたのは貴方達2人が原因よ。それは分かっているのかしら?」

「私のせい!?違うわ!私が嫁いだ時は、もう傾き掛けていたもの。知っていればランセルと結婚なんてしなかったわよ!それにセシリアもいけないのよ!あんな高額な慰謝料を請求してっ!貴女はお金に困っていないのだから、あんな金額を要求しなくても良かったじゃない!!それに私のお陰で、ハズレのランセルと結婚しなくて済んだのだから私に感謝して欲しいわぁ~。そうよ!感謝して慰謝料を減額してよっ!!」

キリナは何を言っているのだろう?
私にはとても理解が出来ない。
こんな人を親友だと思っていたのか…。
アイザックも呆れている。

「それでモイツ卿は、我が妻に何用だ?」

何も言わないランセルに痺れを切らしたアイザックが尋ねる。
ランセルは、アイザックが同席するとは思っていなかったのだろう。恐縮し縮まっていた。

「あ、あの…セシリアにモイツ伯爵家への援助をマブラス卿に頼め…」

「我が妻を呼び捨てにするのは止めて貰おう」

「す、すみません。マブラス夫人にお願いしたく」

「嫌よ、お断りするわ!なぜ私が貴方達の為にアイザックに頼まないと行けないのかしら?」

「酷いわ、セシリア!!私達が困っているのよ!助けるのが友達という物でしょう!?ああ~アイザック様は可哀想です。こんな冷たい女と結婚して本当にお可哀想。私が慰めて…」

席を立ちアイザックに触れようとしたキリナをアイザックは容赦なく突き飛ばした。

「はぁー。モイツ伯爵。援助をしても我がマブラス家には何の得もないわよね?それにいくら援助をしても貴方では今のモイツ伯爵家を立て直す事など不可能だと思うわ。みっともなく足掻く事などせずに爵位降下し贅沢せずに暮らしていきなさい。アイザックに頼んで借金と慰謝料が返せる分だけ伯爵家の領地を買い取ってあげるわ。男爵位になるでしょうけれど平民になるよりは良いでしょう?」

私の言葉に最初は憤りを感じたランセルだったが、一口、冷めたお茶を呑むと冷静になったのか「マブラス卿、マブラス夫人。どうか我が領地の購入をお願いします」と頭を下げた。

どうやらランセルは、この3年、何も学ばずに当主をしていた訳では無かった様だ。

「えぇー男爵家なんて絶対に嫌よぉー!!ランセルなんてもう要らない!!ランセルはセシリアにあげるから、私にアイザック様を頂戴!!」

「キリナ、マブラス卿を怒らせないでくれ!はぁーもう限界だ。お前とは離縁する!!」

ランセルは、暴れるキリナを引き摺り連れ帰った。

アイザックは、私を抱き寄せて、お腹を撫でた。

「騒がしかったね。大丈夫かい?」

「アイザックが一緒に居てくれたから大丈夫よ。ありがとう」

お腹の中で子供がボコボコと蹴った。

「うふふ。あなたも守ってくれていたのね。ありがとう」

「この子は男の子かな?ナイゼルと私と3人で君を取り合いになりそうだね♪」

アイザックが微笑み、私に優しく口付けをした。

あの日、アイザックの蒼い瞳を信じ手を取った事に間違いは無かった。
彼は、私をとても愛してくれて幸せにしてくれている。



End

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最後まで読んで頂き ありがとうございます。

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