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プライム伯爵令嬢のカレンには婚約者がいた。

ラングラン侯爵家の嫡男ガイラルト様だ。

ガイラルト様は、私との婚約に不服だった。
私の方が1学年上なのと、顔が好みではないからだ。

私だって、そんな不満を顔に出してくる婚約者なんて嫌だ。
相手が侯爵家でなければ、お父様に頼んで縁談を断って貰っていた。

学園では学年が違うので滅多に会う事は無い。
普通の婚約者なら、同じ学園に通う者達は男性が女性を送り迎えしているのだが、私の婚約者はそれもしない。
学年も違うし話す事も無いし、気まずい雰囲気になるなら我が家の馬車で1人で通学した方が楽だから良いんだけれどね。

だけれどね、最近、ガイラルト様が男爵令嬢のイルバさんと一緒に登校していると噂になっている。

私がガイラルト様と婚約しているのは皆さん知っているから哀れみの目で見られるのが嫌なのよね。

私としては、ガイラルト様がイルバさんが好きなのなら私と婚約解消してくれないかと淡い期待を抱いているのだけれど。

あのラングラン侯爵が男爵家の令嬢など絶対に許さないだろう。
ガイラルト様も次期侯爵家当主としての自分の立場を分かって要るだろうし流石にイルバさんとの婚約はないか…。

そう思っていたのだが…。

今日はガイラルト様の誕生日パーティー。

私は見知った方々に挨拶をしていた時だった。

会場内に私の名を怒鳴り付ける様に叫ぶガイラルト様の声が響いた。

「カレン!カレン・プライム!!お前がイルバが今日着るはずだったドレスを破いたと聞いた。なんて卑劣な奴なんだ!いくら俺がイルバと仲良くしているからと嫌がらせし虐めるとはっ!大体、なぜ俺がお前の様な歳上ババアと婚約しなければならないんだ。お前の様なババアで性悪女とは結婚なんて出来ない!婚約は破棄だ!!俺にはイルバが相応しい!俺は愛するイルバと婚約し結婚すると宣言しよう」

「嬉しい♪」と言ってイルバさんはガイラルト様に抱きついた。
ガイラルト様も嬉しそうに抱き締め返す。

招待された方々はその光景を冷めた目で見ている。

「ガイラルト様…ラングラン侯爵家嫡男様。婚約破棄は慎んでお受け致します。けれどババアと言われましたが、わたくしはラングラン侯爵家嫡男様より2ヶ月早く産まれただけです。学年が1学年上だからと人を歳上だ、ババアだと本当に失礼な方ですわ。まぁもう関係有りませんが。それとイルバさんのドレスの件ですが、わたくしは遣っておりません。何故わたくしがイルバさんのドレスを破く必要が有るのです?わたくしはイルバさんに嫉妬などしておりませんよ。有らぬ疑いを掛けるのは止めて頂きたいですわ」

慌てた様にラングラン侯爵夫妻がやって来た。

「ガイラルト、貴様は何をしているのだ!?お前の誕生日パーティーでカレン嬢を断罪し婚約破棄などしおって!!その上、その男爵令嬢と婚約するだと?お前は私の命に逆らうと言うのだな!?」

「ち、父上、カレンは人を虐める女です。そんな女はラングラン侯爵家に相応しく有りません。それに比べてイルバは優しく私を何時も立ててくれて…」

「そうか、分かった」

「父上、分かってくれましたか?ありがとうございます」

「本日は、愚息の誕生日パーティーに参加して頂いたが、これにてお開きとさせて貰う。グラン、後の事は頼む。プライム伯爵夫妻、カレン嬢は応接室へ来て欲しい。お前と横のも来い!」

招待された貴族達もパーティーどころではない事を理解しているので家令のグランから土産を貰い帰って行った。

応接室に通されると私達はソファーに座る様に言われる。
向かいのソファーにはラングラン侯爵夫人と次男のマクロス様。
真ん中の1人掛けにはラングラン侯爵が座った。

ガイラルト様は、マクロス様の横に座ろうとしたが、そうなるとイルバさんの座る所が無い。

使用人に椅子を持って来る様に指示を出そうとした所でラングラン侯爵に「お前達は、床に正座しろ!」と言われ、ガイラルト様は抗議したが、侯爵の激怒した「早く座れ!!」に驚き従った。

ラングラン侯爵は、私達にお茶とお菓子を勧めながら「男爵を呼んでいるので、お茶を飲んでもう少し待ってくれ」と言った。

30分位すると従者と共に顔面蒼白の男爵夫妻がやって来た。

「男爵に聞きたい事があり呼び出させて貰った。君の娘がドレスを破かれたと聞いたのだが、それは何時の事か教えて欲しい」

「ド、ドレスですか?マリア、イルバのドレスが破れたのを知っていたか?」

「いいえドレスが破けたとは聞いてないわ。ドレスは高額でなかなか買えないから大切に扱っているもの、破けたらイルバもミレンも大騒ぎをし私に言うと思うけれど、そんな事はなかったわ」

「い、嫌だわ、お母様。わ、忘れてしまったの?ブルーのドレスが破かれたと言ったじゃない!?」

「ブルーのドレス?そんな事はないわよ。だって今、ミレンが着ているけれど破けていないじゃない」

男爵夫妻と一緒に来た妹が夫妻の後ろから現れ、彼女が着ているドレスは確かにブルー。

「ミレン!またあたしのドレスを着たのね!そのドレスはあたしのお気に入りだと言ったでしょう!」

「イルバ、何を言っているの!?うちは何着もドレスを買う余裕なんて無いんだから姉妹共有といつも言っているでしょう」

「ほう、ドレスを共有しているのか?ミレンとやら他のドレスで破かれたドレスは有ったか?」

「あ、ありません。ドレスは高額で買って貰えないから私もお姉ちゃんも大切に着ています。破けたら大騒ぎになると思います」

イルバさんは顔を蒼くし俯き震えている。

「ガイラルト、これでどちらが嘘を言っていたか分かったなっ。男爵、そなたの娘はプライム伯爵令嬢を貶め、我が愚息に誕生日パーティーで断罪させた。我が侯爵家と男爵家はプライム伯爵家に慰謝料を払う事になる。はぁーお互い馬鹿な子を持つと苦労するなぁ。ああ、それと愚息とそなたの娘は誕生日パーティーで婚約宣言をした」

男爵夫妻は慰謝料と聞いて顔が更に蒼くなったが、侯爵家子息と婚約と聞いて一瞬顔が綻んだ。
侯爵家と親類になれば援助してくれるのではないか?と淡い期待を持ったのだ。

「男爵、私は、私の決めた事に逆らったガイラルトが許せんのだよ。自分の欲望の為に人を騙した娘も悪いが、騙された愚か者が自分の息子だと思うと反吐が出る。よってガイラルトを廃嫡しラングラン侯爵家から即 出て行って貰う。2度と侯爵家の敷居は跨ぐ事は許さん!男爵、そういう事だからガイラルトはそっちで引き取ってくれ」

男爵にしてみれば、侯爵家に捨てられた男など何の価値も無い。
それでも侯爵に引き取れと言われ断われば男爵家など潰されてしまう。
馬鹿な娘の為に男爵はガイラルトを連れて帰るしかなかった。

「ち、父上、本気で俺を捨てるのですか?カレンと婚約破棄しただけで息子の俺を追い出すと言うのですか?」

「婚約破棄だけじゃない。今回お前は私や侯爵家にも泥を塗った。愚かな女に騙される様な者が侯爵家当主が務まるわけがないだろう?お前は自分で自分の首を絞めたのだ。自業自得だ。男爵、当面のガイラルトの生活費だ。コイツと娘を連れて帰ってくれ」

グランから、お金が入った封筒とガイラルト様の鞄を渡され男爵は、お辞儀をすると2人を連れて帰って行った。
ガイラルト様は「嫌だ!」と言って暴れたので従者に縛られ馬車に乗せられた。

「さぁガイラルトの事は片付いた。それでだねー私はカレン嬢はこのままラングラン侯爵家に嫁いで貰いたいんだ。君は優秀だし、プライム伯爵家と協力していけばラングラン侯爵家もプライム伯爵家も安泰だ。マクロスと婚約するのはどうだろう?」

マクロス様と?彼は私と2つ違い。
ガイラルト様の言った「ババア」が頭の中で浮かんだ。

「カレン様が良ければ私は構いません。侯爵夫人教育をされている姿を見て素敵だと思っていました」

「わたくしとマクロス様とは歳が2つも違います。マクロス様には同い年か年下の方がお似合いになりますわ」

「兄上の言った言葉を気にしているのなら、私は兄上と違います。私はカレン様を歳上だからと卑下しません。あっ!ごめんなさい。カレン様が歳下の私が嫌なんですよね」

「そんな…違います!ラングラン侯爵様、マクロス様がわたくしで良いのであれば婚約をお受け致します」

こうして私は兄であるガイラルト様に婚約破棄された日に、弟のマクロス様と婚約した。

マクロス様は、ガイラルト様とは違い、歳上の私を見下す事もなく同い年の様に接してくれた。
寧ろ頼もしくマクロス様の方が歳上に思える時もあるくらいだ。

結婚式は、マクロス様が学園を卒業してからになる。
それまで私は、お義母様に付いて社交界で人脈を広げ、お義父様の補佐として学び、マクロス様が当主となった時に支えられる様に頑張っている。

男爵家に引き取られたガイラルト様は、イルバさんと結婚した。
無理矢理ガイラルト様を押し付けられた男爵はガイラルト様とイルバさんが許せなかったのだろう。
跡継ぎをイルバさんではなく妹のミレンさんにしたのだ。
彼等は市井の小さな長屋に住み、毎日、お互いを罵り喧嘩ばかりしているらしい…。



END

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最後まで読んで頂き ありがとうございます。

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