上 下
4 / 6

4

しおりを挟む
デイジーのお陰なのだろうか魔物に会う事なく、4人は森の奥までやって来ていた。

開けた所に小さな湖。
水を飲む動物達の姿も見える。

「ここって魔森なんだよね?なんか普通の森みたい。
緑も湖もキラキラしていて、とても綺麗だね。」

デイジーの言う通り、空気も清んでいて、とても魔物がいるとは思えない。
けれど油断は大敵だ。
大昔に魔物が森から出て人を襲ったと言い伝えがある。
もっと奥に潜んでいるのか、それともこの森を捨て離れたのか分からない以上、気を引き締めないと。

カインとロビンは、早速、持ってきたテントを張っている。
当面はテント生活だが、ゆくゆくは家を建てたい。
時間は、たっぷりあるのだ。
のんびりと遣っていけば良い。

アリッサは湖の水を確かめに行くと、水は清んでいて魚も泳いでいる。

「水も飲めそうだし、魚もいるから食料にも困らなそうだね。種を持ってきたから、畑も作り、ここでの生活も何とかなりそうだ。」

1年半位をここで暮らして、その後は隣国にでも行けば良い。

この国の忌まわしき迷信の為に、捨てられた命。
デイジーが聖女を嫌がるのならば、この国よりもデイジーを守りたい。

元々、双子が不吉だと言い始めたのも、遥か昔の王族や貴族達。
平民は、双子が産まれても喜び育てたのだ。

「愚かな迷信のせいで、双子だからとデイジーを捨てたんだ。知らなかったとはいえ、この国は、その時に神に逆らったのさ。罪を犯せば罰は下る。この国は、聖女を殺そうとした罪に問われるのさっ。」

カインもロビンもデイジーも頷いた。

「お父さんが見付けてくれなければ、あたしは死んでた。王様が今でも双子の1人が忌子として処分されている事を知らないのなら愚かな王としか思えない。今更、聖女と言われても、そんな王様も捨てた親も守りたいなんて思わない!」

捨てられ拾われた者達。
カイン以外の3人は親の顔も自分が誰なのかも分からない。
名前さえ付けて貰えず死を望まれた者達。

何も分からぬまま、ただ双子だからと忌み嫌われた者達。

国が迷信を信じるなと、赤子を殺せば重罪だと法を変えてくれれば、捨てられる事も殺される事もなかったのに…。


◈◈◈

「大神官長、一体新聖女は何処に居るのだ?後2ヶ月で1年になるぞ。聖女も日に日に弱って結界も綻び始めようとしている。早く見付けねば、この国は終わってしまうぞっ!」

大神官長も頭を抱えていた。
小さな村の外れに住む家族の作った煎り薬が奇跡を起こしたと報告が有った。
早急に家に向かえば、家はもぬけの殻。
国境を出た報告も無い。

一体どこに消えたのか?
まさか村の外れにある魔森に?
いや、わざわざ魔物に喰われに行く訳がない。
あそこに入るという事は死にに行くという事だ。
聖女が嫌で家族で死ぬなんて有り得ない。
ならば一体どこに行ったのだ?
誰かが匿っているのか?

何としても見付けねば。


◈◈◈

「村外れの家の娘が怪しいと?ならば連れ来い!平民なんて僅かな金を渡せば娘さえも売る。売らないと言うのなら拐ってこい!!神殿より先に話をつけるのだ!」

バーロック侯爵も、従者からの報告で聖女かも知れない娘が居ると報告を受けていた。

魔森に近い村の娘だと、まさか…いや、そんな事はあるわけがない。
あの時、馭者は、森の中に捨てたと言った。
誰も近寄らない魔森だ。
森の中に入る者など居る筈がない。
偶然、同じ年に産まれた子がいたのだろう。


だが、実際は馭者は、魔物が出ると自分が危ないと森の中までは入らずに森の入り口に赤子を置いたのだ。
どうせここでも誰にも見付かる事なく飢え死ぬと思い、主には指示通り森の中に捨てたと嘘の報告をしていた。

バーロック侯爵家の従者は、神殿の使いよりも1日早く村外れの家に着いた。
家の中に入れば先程まで人が居た気配が残っていた。
家族で何処かに出掛けたのだろうか?

夜まで待ったが、誰も帰ってこない。

逃げたのか?
主の激怒した顔が浮かんだ。

ああ帰りたくない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!

れもん・檸檬・レモン?
ファンタジー
私には双子の妹がいる この世界はいつの頃からか妹を中心に回るようになってきた・・・私を踏み台にして・・・ 妹が聖女に選ばれたその日、私は両親に公爵家の慰み者として売られかけた そんな私を助けてくれたのは、両親でも妹でもなく・・・妹の『婚約者』だった 婚約者に守られ、冒険者組合に身を寄せる日々・・・ 強くならなくちゃ!誰かに怯える日々はもう終わりにする 私を守ってくれた人を、今度は私が守れるように!

処理中です...