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私には婚約者が居る。

ランドル伯爵家の次男のハリー様だ。

彼は先触れもなく、度々シャロルド侯爵家にやって来る。

いくら婚約者とはいえ非常識なのでは?と思うのだけれど、私の一目惚れからの婚約。

あまり強気に出れないでいる。

今日も突然屋敷を訪ねて来たと思えば、応接室で婚約者の私とお茶をする事もなく私の衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している。

「ふぅー。こんなものかな?じゃあこれらのドレスは僕が責任を持って処分しておくから。それじゃあ僕は忙しいから、これで失礼するよ。またね、グロリア嬢。」

いきなり屋敷に来たかと思えばお茶を飲む事なく会話をするでもなく、人のドレスを物色して持ち帰る婚約者ってどうなの!?…と最近は思い始めているわよ。

使用人達にも、ランドル伯爵子息様の行動がおかしいです!と言われているしね…。

でも惚れた弱みなのか、強く出れないのよ。

皆にはお父様やお兄様達には言わないように口止めしているけれど、こんなに頻繁に来られると流石にバレるのも時間の問題じゃないかと不安になる。
もしバレたなら、私とハリー様の婚約は白紙になってしまうかも知れない。
今度、ハリー様に突然の訪問や私の衣装室への立ち入りを控えてもらえる様に、やんわりとお願いしてみよう。

なんて思っていたら、シャロルド侯爵家主催の晩餐会で、ハリー様がマイヤ男爵令嬢をエスコートしてやって来た。

婚約者の私以外をエスコートしている事だけでも驚いているのに、あろう事か彼女が着ていたドレスはハリー様が私の衣装部屋から持っていった物。

「やあグロリア嬢。紹介しよう。こちらは僕の幼馴染みのマイヤ男爵家のリズだ。リズ、彼女がシャロルド侯爵家のグロリア嬢だよ。」

「貴女が、嫌がるハリーと無理矢理婚約したグロリアさん?貴女のせいでリズとハリーは婚約出来なくなったのよ!ハリーをリズに返してよっ!ハリーは、今でもリズの事を愛しているのよ。今日のドレスだってハリーがリズの為に用意してくれた物なの。このドレスだけじゃなく何枚もプレゼントしてくれたのよ。ねぇ~ハリー♡」

ドレスをプレゼントねぇー。

ハリーを睨みつければ冷や汗をかいている。

「あれぇ~?この令嬢のドレスは、お姉様のドレスだよねぇ?なぜ貴女が着ているの?」

「カインが言う通りグロリアのドレスだな。おかしいな事だ?それに何故ランドル伯爵子息は、婚約者のグロリアをエスコートせずに他のご令嬢をエスコートしているのだ!?」

お兄様と弟のカインがわざと大声で騒いだので、周りの人達が何事かと注目した。

勿論、私の両親とハリー様の家族も。

ハリー様の家族は、彼の隣にリズさんが居るのに気が付き慌てて此方に向かって来た。

「はぁー。初めまして、マイヤ男爵令嬢。おかしいわね?貴女に招待状が間違って届いてしまったのかしら?今日のパーティーは、伯爵家以上の方々を招待したはずなのだけれど?もし手違いで届いたのなら申し訳ないけれどご退場いただいても宜しいかしら?」

私は帰る様に促した。
事が大きくなれば、お父様が出て来てしまう。
それだけは避けたかった。
 
「なっ!リズは僕の幼馴染みなんだ。侯爵家のパーティーに出た事がないと言うから、僕のパートナーとして連れて来た。僕が伯爵家なのだから問題ないだろう!?」

「そうよ!リズはハリーのパートナーなの!貴女と違ってハリーに望まれてパートナーとしてやって来たのよっ!主催者はお客様を大事に持て成すものじゃないの!?シャロルド侯爵家も大した事がないのねっ!!」

「ほうっ。小娘、我がシャロルド侯爵家を侮辱するとは良い度胸だ!ランドル卿、子息の教育がとても良く出来ている様だ。」

ランドル伯爵も夫人も小伯爵も、お父様の嫌味な言葉に青ざめて行く。

「あたしは小娘じゃないです。マイヤ男爵家のリズです。でもぉ~おじさまは、ハリーを褒めてくれたから許しちゃう!良かったねぇ~ハリー。」

リズさんにはお父様の嫌味も通じない。
自分から家名を名乗ってしまって馬鹿な子。

ハリー様もお父様が出て来た事で、少しは自分の置かれた立場を理解した様だけれど、腕にリズさんの胸が押し付いているのが気になるのか顔が緩んでる。

私、こんな人を今まで好きだったの?

私のドレスを勝手にリズさんにプレゼントして、婚約者の私をエスコートしないで、招待もしていない男爵家のリズさんを連れて来る非常識な男。

これって、婚約破棄しても私に非は無いわよね?
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