【完結】婚約破棄は突然に

山葵

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「スーザン!君との婚約は破棄させて欲しい。」

婚約者のドレスト様の言葉に私は言葉もなく固まってしまった。

ど、どうしよう…お、お父様に叱られてしまうっ!?

ギギギッと音が鳴るのではないかと思うくらいに固まった身体を動かし、お父様の様子を伺うと…あれ?

あれあれ?

何でヴァミリオ伯爵家のドレスト様に婚約破棄されたというのに、お父様はニコニコと笑っているの?

「ドレスト様ぁ~。お義姉様との話しは終わったぁ~?」

そう言って夜会にでも行く様な露出度の高い派手なドレスを着て妹のマリアがお義母様と一緒に部屋に入って来た。

マリアは、ドレスト様の腕にしがみつき胸を押し付けて、上目遣いでドレスト様を見上げ「遅いからぁ~来ちゃった♡」と笑った。

「今、終わったよ。待たせて、ごめんね♡」と言っているドレスト様の顔はデレデレしていて、はっきり言って気持ち悪い。

しかし何この状況?
一体どういう事なのだろうか?

お父様は、親の前でもイチャイチャしている2人を落ち着かせる為か、咳払いをすると私に向き直った。

「ヴァミリオ伯爵子息は、お前との婚約を破棄し、マリアとの婚約を希望している。我が家としてはマリアと結婚し、ライナ伯爵家に婿に来てくれるならば断わる必要もない。」

「ごめんなさいね、お義姉様。ドレスト様は、地味でつまらない堅物なお義姉様よりもマリアの方が良いんですって。ねぇ~ドレスト様ぁ~♪」

そう言って、また胸を押し付けている。
ドレスト様も胸を見過ぎじゃない?
仮にも伯爵家子息よね?
大体、堅物と言うけれど、結婚前なのにベタベタ触らせたり、触ったりするのが可笑しいのよ!?
あぁマリアは、お義母様の子だものね。

「畏まりました。婚約破棄は受け入れます。」

私が受け入れたのを見届けたお義母様が私を嘲笑い前に出て来た。

「ドレスト様とマリアが結婚するとなれば、元婚約者の貴女が居ては2人も気不味いでしょう。ねぇあなた、スーザンみたいな堅物な女は、この先、婚約者なんて中々見付からないわよ。それにマリアの結婚式にお金が掛かるんですもの、この子に持参金を使うなんて勿体ないですわ。この子にはライナ伯爵家から出て行って貰いましょうよ?」

後妻であるお義母様は私を嫌っていた。
お父様とお義母様は幼馴染みだった。
いつも一緒に行動していた。
当然、自分がお父様と結婚するのだと信じていた。
けれど、学園に入学したお父様は、お母様に恋をしお祖父様に頼んで婚約してしまったのだ。
お父様が先にお母様を好きになったのに、お母様を恨むなんて可笑しい。

結婚後、直ぐに私を授かったお母様。
産まれてくる日をお父様と2人で楽しみにしていた。
まさか出産で命を落とす事になるなんて思いもしないで…。
愛する人を奪った私は、お父様から愛される事はなかった。

悲しみに暮れるお父様を慰めたのがお義母様だ。
マリアは、2人が結婚する前に授かってしまった子。
慌てて結婚式を挙げたと聞く。

「そうだな。持参金を出すくらいなら勘当して出て行かせた方が良いな。スーザン、お前は勘当だ。荷物を纏めて出て行くが良い。二度とライナ家に戻って来るなっ!」

この家から出て行って良いの!?
二度とライナ家に戻って来るな?
願ったり叶ったりよ!
何があっても戻るわけがない!

やったー!私は自由なのよー!!

急いで部屋に戻ると必要な物だけを鞄に詰めていく。
元々、ドレスも貴金属類も必要最低限しか買っては貰えなかった。
数着のワンピースと僅かな貴金属類を鞄に詰め終えると、私はワンピースに着替えて、急ぎ足で玄関に向かう。
そこには執事のトールと、トールの奥さんで私を育ててくれた乳母のミナが待っていた。

「スーザンお嬢様、こんな事になるとは…とても残念です。」

「スーザンお嬢様…どうして旦那様は…」

「トールもミナも私を思ってくれてありがとう。私は大丈夫だから心配しないで。2人とも元気でね!」

屋敷を出る私の足どりは軽い。

だって毎日が地獄だったライナ伯爵家と縁が切れたのよ。
お父様やお義母様の顔色を伺わなくて良い生活が出来るなんて幸せだわ。

私は、トールが用意してくれた馬車で、お母様の生家リンデロン侯爵家へと向かった。

先触れもない突然の訪問に、当主の伯父様と先代当主のお祖父様は驚いていたけれど、私がライナ伯爵家から勘当されたと聞いて憤慨したいた。

お祖父様は、何回もお父様に私を引き取りたいと申し入れてくれたが、お父様は私を渡さなかった。
私がライナ伯爵家に居る限り、リンデロン侯爵家からの融資が得られるからだ。
ライナ伯爵家は、お義母様とマリアの散財でお金に余裕がないのだ。

それなのに私を追い出した。
これからはヴァミリオ伯爵家に融資を頼むのだろう。

伯父様にリンデロン侯爵家に住めば良いと言って貰ったけれど断わった。

だって私には住む所の心配なんてないんですもの。

王都で人気の雑貨店マーガレットは、私がお祖父様を隠れ蓑にして経営している。
店の名マーガレットは、お母様の名前を付けた。

いつ追い出されても良い様に2階建ての店舗にしたのだ。

3年前に私が店をやりたいと言った時に投資をしてくれたお祖父様と伯父様には感謝しても仕切れない。

雑貨店に行けば、店を住み込みで任せていたケイナが喜んで迎えてくれた。

彼女に任せっきりで本当に申し訳なかった。
今度、臨時給金を出そう。

「ヴァミリオ伯爵家ですか?噂では、あそこは傾きかけていると聞きましたよ。ライナ伯爵家もそんななら共倒れですね。いい気味です!」

どうやらヴァミリオ伯爵家もライナ伯爵家からの融資を期待して私とドレスト様を婚約させた様だ。

数ヶ月するとお祖父様が店を訪ねて来た。

「繁盛している様で何よりだ。先日、ライナ卿が訪ねて来た。スーザンの居場所を知っていたら教えてくれと言って来よった。大方、スーザンの勘当を取り消し、我が家からの融資を狙っての事だろう。怒鳴り追い返してやった。」

お義母様の生家とは結婚前にマリアが出来た事から絶縁状態。

それにお義母様とマリアが生活基準を下げない限り、いくら融資してもライナ伯爵家が火の車なのは変わらない。
あの2人が変えるとも思えないし、借金は増える一方だろう。

「ライナ伯爵家は終わりね…。」

お祖父様は、私の頭を撫でた。
泣きそうな顔でもしていたのかも知れない。

泣くはずがない。
お父様に愛された事はない。
ライナ伯爵家は、お父様とお義母様とマリアだけの家族だった。
そこに私の居場所はなかった。

ドレスト様と婚約が決まった時は、次期当主として認められたのだと思っていた。
けれど、それは私の思い違いで、その時にマリアには想いを寄せていた人が居ただけ。
その人が嫡男だったので、私がドレスト様と婚約しただけだった。
結局、マリアの想いは届かず、ドレスト様に手を出したのだ。

「スーザンお嬢様ぁー!手を貸して頂いても良いですかぁー!?」

どうやら学園帰りの生徒達がやって来た様だ。

お祖父様は「また顔を見に来るよ!」と言って帰って行った。

「今、行くわー!」

鏡を覗き、問題ない事を確認すると私は店へと急いだ。


End

最後まで読んで頂き ありがとうございます。

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