4 / 15
4、新たなパーティーを目指して
しおりを挟む麗夜たちと戦った公園、家族の思い出があった公園。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる