思い出にしたいキス

茜カナコ

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クラゲの水族館

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「蓮、今日の午後空いてる?」
 湊が話しかけてきた。湊は小動物みたいに可愛らしい仕草で首をかしげる。
「ああ、いいけど、どうして?」
 湊は水族館のチケットを二枚取り出した。

「おじさんにもらったんだ。二人分」
「そっか、デートする相手は居ないのか?」
 俺の問いかけに、湊は気まずそうに笑った。

 学校が終わった後、駅で待ち合わせをした。
「おまたせ、蓮」
「待ってないよ、湊」
 一緒に水族館に向かう。
 電車は混んでいて、俺と湊は密着していた。
「悪いな、痛くないか?」
「大丈夫」
 気のせいか、湊の顔が赤いように思った。

 水族館前。
 湊は二枚のチケットを財布から取り出した。
「高校生、2枚」
「はい、どうぞ」
 湊は返されたチケットを受け取ると俺にいった。
「なんか、デートみたいだね」
 湊は上目遣いで俺を見た。俺はちょっと、ドキリとした。

「ここ、クラゲで有名な水族館なんだよ」
「そうなんだ」
「はぐれないように手をつないでおこうか?」
 俺が手を出すと、湊はズボンで自分の手を拭いてから、俺と手をつないだ。

「クラゲって綺麗だな」
「そうだね」
 俺たち以外は、男女のカップルばっかりだった。
 キスしてる奴らもいる。
「ロマンチックだね」
「ああ」

 湊は言った。
「そろそろ、ソフトクリームでも食べない?」
「半分で良いな」
「じゃあ半分こ、しよう」
 湊はチョコレートのソフトクリームを買ってきた。

「先に半分食べて良いよ」
「じゃあ、お先に」
 俺は半分ソフトクリームを食べて、湊に渡した。
「なんか、間接キスになっちゃう」
「え?」
 湊は少し嬉しそうだった。

「僕、連のこと好きだったんだ」
「好きって、恋愛感情?」
「うん」
 俺は困った。
 湊のことは好きだったが、そう言う目で見たことはなかった。
「今日のこと、思い出にするから、今日だけ付き合って欲しい」
 湊は真剣だった。
 俺は頷いた。

「明日からは普通にするから」
「分かった」
 湊から、キスされた。
 俺は戸惑いながらもそれを受け止めた。
 つないだ湊の手は震えている。

「怖くなかったか? 俺が拒否するかもしれなかっただろ?」
「怖かったよ」
 湊は泣きそうな顔で笑った。
 俺は無意識に、湊にキスをした。
「今日だけの秘密だね」

 湊と俺は、つないでいた手を離した。
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