上 下
7 / 51

7、王宮に呼び出されました

しおりを挟む
「あおい様、いらっしゃいますか?」
「はーい」

 あおいがドアを開けると、兵隊が立っていた。
「こちらのお手紙をアレックス王子から預かって参りました」
「ありがとうございます」
 あおいが手紙を受け取ると、兵隊は帰っていった。

「なんの手紙かしら? 蝋で封がされてる」
 あおいは緊張しながら、丁寧に手紙を開けた。
 手紙には、今日のお昼過ぎに王宮まで来るように書いてあった。
「どうしよう、服なんて普段着しか持ってないよ」
 あおいは困りながらも、一番まともそうなグレーのワンピースに着替えた。
 
 昼過ぎになった。
 あおいは、食事を軽く済ませると王宮に向かった。

「こんにちは、王宮に来るようアレックス王子から手紙を頂いたのですが」
「あおい様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
 メイドが出てきて、あおいを応接室に案内した。

「やっぱり、王宮はひろいなあ」
 あおいが感心していると、ドアがノックされ、アレックスが現れた。
「こんにちは、あおい。呼び出したりして申し訳ありません」
「いいえ、アレックス様。きょうは何のご用でしょうか」

「先日、クレープの代金をお支払い出来なかったので、お詫びにお茶をご馳走しようと思いまして」
 アレックスがそう言うと、執事がやって来てお茶とケーキをテーブルに置いていった。
「そんな、気を遣わなくても大丈夫なのに」
 あおいが恐縮すると、アレックスは微笑んで手を出した。
「はい、100シルバーです」
「ありがとうございます」
 あおいは100シルバーをポケットにしまった。
 
「綺麗なケーキ。薔薇の細工が細かくて本物みたい」
「あおいの口に合えば嬉しいのですが」
「いただきます」
 あおいはケーキを一口食べた。バタークリームがふんわりと、とろけて良い香りがした。
「美味しい」
「よかった」

 アレックスもケーキを一口食べた。
「ところで、あおいはロイドと冒険に行ったそうですが、本当ですか?」
「ええ、本当です」
「男性と二人きりになるなんて、危険ですよ」
 アレックスは真面目な表情でそう言ってから、紅茶を飲んだ。
「ロイドとは何でもありませんよ。友人です。それにローラも一緒でしたし」
「それなら良かった」

 アレックスはホッとしたようにため息をついた。
「あら? もしかして、嫉妬されていたりして」
 あおいがふざけて言うと、アレックスは紅茶を吹き出しそうになった。
「そ、そんなこと、ありません」
 アレックスが真っ赤になっているのを見て、あおいも顔が赤くなった。

「私も冒険で役に立ったんですよ」
「錬金術で作ったポーションゼリーにエリクサー金平糖ですか?」
「え!? そんなことまでご存じなんですか?」
 アレックスは笑いをこらえて、話し続けた。
「あおいらしい、可愛らしい錬金術ですね」
「もう、笑わないで下さい! 私だって真剣に作ってるんですから」

 アレックスはあおいの言葉を聞いて、真面目な顔をしようと努力した。
 しばらく、ロイド達との冒険の話や、市場での出来事を話しているとあっという間に時間が過ぎた。
「あおい、今日はありがとう。申し訳ないが、そろそろ時間が……」
「あら、本当。私ばかりしゃべって、ごめんなさい」
「いいえ。あおいが楽しそうで何よりです」

 アレックスは王宮の門まであおいを送った。
「あおい、またお店へ遊びに行ってもかまいませんか?」
「はい、おまちしています。でも、お店じゃなくて家ですから」

 あおいはアレックスと別れると、ぼろ屋へと帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白花の咲く頃に

夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。 《シレジア》に帰りたい、と。 一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。 これは、そんな彼の旅と成長の物語。 ※小説になろうでも公開しています(完結済)。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。 前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。 でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。 新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。 ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。 りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。 ……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。 ※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

ひとりの獣人と精霊

わんコロ餅
ファンタジー
「ひとりの少年と精霊ののんびりライフ」の続編になります。 こちらから見ていただいても大丈夫ですが、前作のネタバレが含まれます。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

【完結】魔獣に喰い殺されたくないので、婚約者ではなく幼馴染の立場を希望します!

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
ファンタジー
魔獣に喰い殺される未来を変えていた筈が、ストーリー通り魔獣の森に捨てられて・・・どうなっちゃうの⁉︎ 【0歳〜10歳】攻略対象と出会ったり 【11歳〜16歳】ヒロイン出てきたり 【16歳〜】プロローグ後のお話  異世界あるある、幼児の頃からの教育のお陰?で早熟  年齢+2歳くらいの感覚で読んで頂けると良い感じかもしれないです。  感想欄は、完結後に開きますね。  ◇◇◇ 【あらすじ】  フェリシアは、ヒロインを虐め抜き、婚約者に見切りをつけられて、魔獣の森に捨てられる。  そして、フェリシアは魔獣の森で魔獣に喰い殺される。  と言うのが、乙女ゲームでの私の役割。  フェリシアの決断で、ゲームのストーリーは徐々に変わっていく・・・筈が、強制力とは恐ろしい。  結局魔獣の森に捨てられてしまう。  ※設定ふんわり  ※ご都合主義  ※独自設定あり   ◇◇◇ 【HOT女性向けランキングに載りました!ありがとうございます♪】  2022.8.31 100位 → 80位 → 75位  2022.9.01 61位 → 58位 → 41位 → 31位  2022.9.02 27位 → 25位

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

転生したらデュラハンだった。首取れてたけど楽しく暮らしてるん。

Tempp
ファンタジー
*試しにタイトル変更(旧:デュラはんは心の友 【あらすじ】 俺、デュラハンのデュラはん。 異世界にトラック転生したら、何故かデュラハンになってた。仕事放り出してプラプラしてたら拾ってくれたのがキウィタス村のボニたん。ボニたんめっちゃええ人で、同僚から匿ってくれるん。俺は代わりに村の周りの魔物倒したりしてるん。 でもなんか最近不穏なんよな。

この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
ファンタジー
天寿を全うしたチヒロが生まれ変わった先は、なんと異世界だった。 目が覚めたら知らない世界で、少女になっていたチヒロ。 前世の記憶はある。でも今世の記憶は全くない。 そんなチヒロは人々から『空の子』様と呼ばれる存在になっていた! だけど『空の子』様とは《高い知識を持って空からやってくる男の子》のことらしい。 高い知識なんてない。男の子でもない。私はどうしたら? 何が何だかわからないまま、それでも今を受け入れ生きていこうとするチヒロ。 チヒロが現れたことで変わっていく王子レオン、近衛騎士のエリサ。そしてシンを 始めとするまわりの人々。そのうち彼女の秘密も明らかになって?  ※年ごとに章の完結。  ※ 多視点で話が進みます。設定はかなり緩め。話はゆっくり。恋愛成分はかなり薄いです。   3/1 あまりに恋愛要素が薄いためカテゴリーを変更させていただきました。     ただ最終的には恋愛話のつもり……です。優柔不断で申し訳ありません。  ※ 2/28 R15指定を外しました。  ※ この小説は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...