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13.アイラ

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 大翔の手の中で、アイラはきょろきょろと周りを見ていた。
「アイラちゃん、どうしたの?」
「人と一緒にいるの、はじめて。どこに行くの?」
 俺が大翔の代わりに答えた。
「俺たちの家だ。元宿屋だから空き部屋もある」

「ふうん」
 アイラは大翔の手から羽を広げ、飛んで俺の肩にとまった。
「健、大翔、これからよろしくね」
「よろしく」
 俺が答えると、大翔も返事をした。
「よろしくね、アイラちゃん」

 家に着くと、アイラは空を飛んで家の周りをぐるりと回った。
「大きい家ね」
「ああ、そうだな」
 俺がアイラと話している間に、大翔はドアを開けて家に入っていった。
「ただいま」

 大翔はカバンの中に詰め込んでいた野草や木の実、キノコをキッチンに広げた。
「いっぱいとったね」
「ああ、そうだな」
 アイラはキッチンの椅子の背もたれに腰かけている。
 大翔が採取したものをキッチンの収納にしまっていくと、アイラのおなかがきゅうとなった。

「あれ? まだ、おなかすいてたのかな?」
 大翔はそう言ってから、キッチンで簡単に作れそうなものを考えているようだった。
「俺も腹が減った」
「そうだね。ちょっと早いけど、夕食にしようか?」
 大翔はそう言って、作ってあったパスタと、トマトソースをキッチンの台の上に並べた。

「夕食はミートソースパスタでいいかな?」
「ああ。手伝うことはあるか?」
「じゃあ、健は玉ねぎとトマトを刻んで。僕は肉をミンチにするから」
 アイラが俺たちの会話を聞いて、口をはさんだ。
「私にできることはある?」

 大翔は少し考えてから言った。
「それじゃ、この香草の葉っぱだけとって、こっちのお皿に入れてくれる?」
「わかった」
 アイラは香草を大翔から受け取ると、キッチンのわきで作業を始めた。

「刻み終わったぞ」
「ありがとう、健。それじゃ、ちょっとあっちで待ってて」
「分かった」
 俺は食堂に移動して、大翔の背中を見ていた。アイラも大翔に香草の葉っぱを渡した。
 大翔はフライパンに材料を入れて炒め始めたらしい。いい匂いが部屋にただよってきた。

 すこしすると、大翔が言った。
「それじゃ、盛り付けるね」
「ああ」
 俺はキッチンに移動した。大翔がミートソースパスタを一人分の皿を二つと半人分の皿一つに盛り付けていた。

「できたよ」 
 大翔はミートパスタの入った三つの皿を食堂に並べた。
「あと、野菜スープもどうぞ」
 大翔がスープの入ったカップを添える。
「ありがとう」

 食卓がととのったところで、大翔と俺は向かい合わせで席に着いた。
 アイラは俺と大翔の間の机の上にちょこんと座って、おおきなフォークを両手で握っている。
「いただきます」
 俺と大翔が食事を始めると、アイラも一生懸命、ミートソースパスタを食べ始めた。
「……美味しい!!」
 アイラはフォークと使うのをあきらめて、顔を突っ込んでパスタを食べている。
「そんなに慌てて食べなくても、誰も取らないよ」
 大翔が笑って言った。

 俺もパスタを食べ始めた。香草のいい香りと、肉のうまみがいいバランスで美味しい。
「大翔は料理がうまいな」
「ありがとう」
 大翔もパスタをほおばっている。

「ところで、アイラはどこか住む場所のあてはあるのか?」
 俺が聞くと、アイラは暗い表情で答えた。
「ううん。今までは森にひとりですんでたけど……ゴブリンが私の家を壊しちゃったから……」
 大翔の表情が曇った。
「ゴブリンがいるんだ……」

「じゃあ、一緒に住む? いいよね、健」
 大翔がすがるような眼で俺を見ている。
「……俺は構わないぜ」
「よかった。アイラちゃん、よかったら一緒に暮らそう?」
「……ありがとう」
 アイラは恥じらうように、顔を赤くして笑った。
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