上 下
3 / 53

3、冒険者ギルド

しおりを挟む
 俺たちは冒険者ギルドへ向かって歩き続けた。
 街並みはシンプルな石造りで、道は少しほこりっぽい。
 すれ違う人たちは、『異国の服』を身にまとった俺たちをチラリと見る。
「健(たける)、冒険者なんて……やったことないけど大丈夫かな?」
 大翔は不安そうに俺の目を見上げた。やや小柄な体を丸めているから、俺より頭一つ分目線が下がる。やや茶色い髪の奥に、茶色の瞳がキラリと光った。

「俺もないよ。だけど大翔(ひろと)、とりあえず仕事と寝る場所を確保しないと……」
 二人で話しながら歩いていると、大通りから一つ入った路地に、重そうな扉の大きな建物が見えた。
「ここか?」
 俺がそう言って扉を開けると、中にはいろんな鎧や服、ローブをまとった人々がざわめいていた。壁には賞金首の絵が描かれた張り紙が何枚も貼ってあった。

「そうみたいだね」
 大翔は俺の背中に隠れるようにして立っている。俺よりも小さな大翔の手が、俺の手を掴んで離さない。
「あら、見ない顔ね。その服も見たことないわ? どこから来たのかしら、坊や達?」
 大柄で、セクシーな服を着た女性がカウンターの中から話しかけてきた。体の線が丸見えで、胸元も強調されていて目のやり場に困る格好だ。俺は女性の体から目をそらして言った。

「俺たちは、仕事と住むところを探しに来た。こいつは酒井(さかい)大翔(ひろと)俺は山城(やましろ)健(たける)だ」
 俺がそう言うと、女性はニヤニヤ笑って言った。
「あらー。あなたたちは恋人同士?」
「ちっ違います!! 親友です!!」
 大翔は俺とつないでいた手を離すと、真っ赤な顔で強く否定した。

「うふふ。照れちゃって可愛い」
 俺は大翔を守るように、女性に向かって立つ。
「あらあら、ごめんなさいね。怒らないで頂戴。私はこの冒険者ギルドのマスター、レン・ソローよ。レンって呼んでね」
 レンは俺たちを頭から足の先まで一通り眺めると、首をかしげた。

「あなたたち、何が出来るの? 職業は? 剣士? 魔法使い?」
「まだ、こちらの世界にきたばかりで……正直なところ、自分達も分からない」
「あら、そうなの?」
 レンは、面倒くさそうな表情を浮かべ、ため息をついた。
「あ、あの! 僕たち料理ができます!!」
 大翔が俺の背中から顔をぴょこっと出して、レンに言った。

「あら、料理人志望? それなら丁度、廃業した宿屋が町外れにあるわ」
 レンは町の地図を棚から出し、町外れの元宿屋を指さした。
「建物は好きに改装して良いわよ。ただし、ちょっとお高いかしら?」
 レンの言葉に俺は反応した。
「いくらだ?」
「金貨一枚。でも、それだけじゃ足りないわね……」

 レンは俺たちを値踏みするように見つめている。
「あなたたちの言う料理が通用するか、確かめたいわね……」
「……どうすれば良いですか?」
 大翔が遠慮がちに、レンに訊ねた。
「そうね。ここの厨房を貸してあげるから、なにか作ってみて頂戴」
「え!?」
 大翔が声を上げた。

「私の舌を唸らせることが出来たら、宿屋を売ってあげる」
 俺は不安そうな大翔に微笑んでから、レンに答えた。
「……分かった。大翔と一緒に料理を作ろう」
「ちょっと、健!?」
「大丈夫だ。大翔の腕なら問題ないだろ? 小さい頃から家の食堂の手伝いをしてるし」
 大翔はそれを聞いて、俺に言った。
「でも、この世界にどんな食材や調味料があるか分からないし……」

 二人で離していると、レンが声をかけてきた。
「今日はもう遅いから市場も閉まってるし……。明日のお昼に料理の腕を見せてくれる?」
「……そうしよう。良いな、大翔」
 大翔はもじもじとしながら、地面を見ている。
「……僕、自信ないよ?」
 俺は大翔の肩に手を乗せて、安心させようとした。

「大翔、俺も手伝う。それに、ここの料理のレベルなら、きっと楽勝だ」
「健がそこまで言うなら……分かった」
 レンがニヤリと笑って俺たちに聞いた。
「話はまとまった?」 
 俺はレンを見つめて答えた。

「ああ。明日、厨房を貸してくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

BL学園の姫になってしまいました!

内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。 その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。 彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。 何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。 歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...