上 下
1 / 53

1、新世界

しおりを挟む
「健(たける)、今日暇?」
「ああ、大翔(ひろと)。空いてるよ」
「じゃあさ、新しくできたラーメン屋行かない?」
「いいな」
 高校の帰り道、人なつっこい笑顔で大翔は頷いた。

 俺はいつもの交差点に向かうと、遠くからふらついて進んでくるトラックに気付いた。
「あ!? なんだ? あのトラック……信号赤なのに止まる気配ないじゃねえか!」
 焦って交差点の横断歩道を見ると、黄色い帽子をかぶった小学生の姿が見えた。
「ちっ!!」
「健!?}
 俺が急いで小学生に駆け寄ると大翔もついてきた。

「お前は待ってろ! 大翔!」
「健だけを危ない目にあわせられないよ!!」
 俺が小学生の手を引っ張って、道路の向こう側に投げ飛ばした瞬間、辺りが真っ暗になった。
 頭がぐわん、と打ち付けられた気がした。
「うっ・・・・・・」
「・・・・・・健・・・・・・」
「大翔・・・・・・・」

 どれくらいの時間が経ったのだろう。
 俺は目を覚ました。 
 辺りを見回すと、土の道と草原が広がっていた。
「なんだ? ここは・・・・・・。っと! 大翔!?」
 俺の隣に、大翔が倒れている。
 特に外傷は無いようだ。

「ここ、どこだろう……?」
「さあ……」
 俺たちは見たことのない風景と、わりあい近くにある街並みを見てため息をついた。
「ん? なんか声が聞こえない? 健」
「……ああ、あっちから聞こえるな」
 俺たちは茂みの方に足音を立てないようにして近づいた。

「助けて!」
「こんな所に誰も来ないぜ?」
 女性が、いかにも悪そうな男に襲われていた。
「おい! お前、何してるんだ!?」
「ああ! 助けて下さい!!」
「なんだ!? 貴様ら」
 
 男は健に飛びかかってきた。
 健は男の持っていたナイフをたたき落とすと、男の腕を掴んで組み伏せた。
「くっ……」
「お前、盗賊か!?」
「ちっ!!」
 男は健の事を蹴り上げて、逃げ出した。
「待て!」

「健! 今はこの人の手当の方が先だよ」
「……大翔……そうだな。怪我はありませんか?」
「……はい、ありがとうございます」
 女性はお礼を言うと、健と大翔に微笑みかけた。
 日に透けるブロンドヘアが波打ち、うすい青色の目が美しかった。

「お嬢様!!」
「あ!」
 町の方から、付き人らしき二人組が駆けつけてきた。
「……ご無事でよかったです。一人で町を抜け出してはいけないとあれほど申し上げておりましたのに……」
「申し訳ありません。……盗賊に襲われたところをこの方達に助けて頂きました」
 二人の付き人は健と大翔に礼をしてから、小袋を鞄から取り出し大翔に渡した。
「これは……お礼です。今回のことはどうぞご内密に」

「……?」
 大翔と健が小袋を開けると、そこには金貨が10枚ほど入っていた。
「え!? こんなもの頂けません」
「そうだ。俺たちは困っている人が居たから助けただけだ」
 女性はそれを聞いて、にっこりと笑った。
「私を助けて頂いたお礼です。どうぞ受け取ってくださいませ」
「それでは、お嬢様。町に戻りましょう」
「……はい。それでは失礼致します……」

 女性は付き人に囲まれて、町に向かっていった。
「健、どうしよう……」
「くれるっていうんだから貰っておこう、大翔。……俺たちも町に向かおう」
 大翔は俺の顔と遠ざかっていく女性の姿を見てから頷いた。
「うん、そうだね」
 俺たちはとりあえず町に向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム「3日間だけ生き延びろ!」の世界。~兄上お願いだからそんなに簡単に死なないで!~

野々宮なつの
BL
第二王子であるルーサーは、この世界が自分で作っていたゲーム「3日間だけ生き延びろ!」の世界だと気が付く。 兄が死ぬ度に繰り返す世界。脱出するためには、3日後にある立太子の儀式まで兄を守ること!それなのに何度も死ぬ兄。 ゲームを作ったのは自分だけど、ちょっと死に過ぎじゃないですかぁ⁉ 腹違いの兄×弟 物語の設定上、何度も死にます。 ※週1更新

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

僕がサポーターになった理由

弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する 生きている人全員に何らかの力がある 「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから) でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった だけど、僕には支えがあった そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す 僕は弱い 弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい だから、頑張ろうと思う…… って、えっ?何でこんな事になる訳???? ちょっと、どういう事っ! 嘘だろうっ! 幕開けは高校生入学か幼き頃か それとも前世か 僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

処理中です...