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18.ウォルター王子の思い

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 ウォルター王子は仕事を終え、自室で休んでいた。
 ウォルター王子の部屋のドアをノックし、私は声をかけた。
「ウォルター王子、そろそろ夕食の時間です」
「わかった」
「……少し、お話をしてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫だ。入れ」
 私がウォルター王子の部屋に入ると、ウォルター王子の足元にいたシフォンが私のもとへ駆け寄ってきた。
「シフォン!」
 私はシフォンを抱き上げ、ほおずりした。シフォンが私の鼻を舐める。

「シフォンと遊びたくて来たのか?」
 ウォルター王子は、微笑んでいた。
「いえ、違います」
 私はシフォンを足元に座らせてから、単刀直入に話し始めた。

「何故、貴方は私を特別扱いするのですか?」
「……」
 ウォルター王子はベッドに腰かけて、私を見上げた。
「私が幼かったころ、父と兄と共にペアデ国を訪問したことがあった。ペアデ国の王家は皆やさしく、穏やかで笑いが絶えない幸せな空気に包まれていた。私の育ったフォルツァ国とは大違いだ。その中でも、リネットは……一番幸せそうに笑っていた。その穏やかな日々に、私はあこがれていた。しかし……」

「ウォルター王子?」
 私はウォルター王子の眉間に深いしわが刻まれていることに気づいた。
「私の父は、裏切りと言う形で、その穏やかな日々を打ち砕いてしまった。私にできることは少なかった……」
 シフォンがウォルター王子の足にじゃれついている。ウォルター王子はシフォンを優しくなで、小さな声で言った。
「私は、ペアデ国にあこがれを抱いていた。そして、リネットも……私には眩しかった」
「……」

 私は何といえばよいのかわからず、立ち尽くしていた。
「リネ、そろそろ食堂に向かおう。食事が冷めてしまう」
「はい」

 立ち上がったウォルター王子は、私の横を通った時に軽く私の肩に手を乗せた。
「……?」
 私がウォルター王子を見つめると、ウォルター王子は寂しげに微笑んだ。
「許してほしいとは思わない。ただ、協力してほしい」
「……」
 ウォルター王子は食堂に向かって歩いて行った。私も部屋を出て、ウォルター王子の後を追いかけた。
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