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12.再会

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 ガサガサ、と墓地の隅の茂みが動いた。
「……?」
 私が身構えると、ウォルター王子が声を上げた。
「誰だ? 出てこい!」
「……」
 私は茂みに歩いて近づいた。何かが、いる。
「……!? シフォン!?」
「くうん」

 白くてふわふわだった私の愛犬は、薄汚れて灰色になり、やせ細っていた。思わず抱き上げる。シフォンは両腕の中におさまり、私の顔に鼻を当てた。
「ああ、シフォン……生きていたのね……ごめんなさい、置いて行ってしまって……」

 シフォンは私の腕の中で、短い尻尾を振っている。
「リネ?」
「ごめんなさい、ウォルター王子……。私が城で飼っていた犬です」
「名前は?」
「シフォン」
「そうか」

 ウォルター王子は私の腕の中のシフォンの頭をなでようとした。しかし、シフォンはその王子の手をかんだ後、低い声でうなった。

「やめなさい。シフォン。……この人は敵ではないわ」
 たぶん、と私は小さな声で言った。
 ウォルター王子はかまれた手をさすりながら、私に言った。

「この犬を……城内で飼ってもいいぞ」
「え?」
 私は思いがけない言葉に顔を上げた。
「かわいがっていたのだろう?」
「……はい」

 ウォルター王子はそれだけ言うと、墓地に背を向け、ペアデ城に向かって歩き出した。
「……ありがとうございます……。行こう、シフォン」
「ワン!」
 シフォンは小さなしっぽがちぎれそうなほどふり、よろこんで私の顔をなめた。
「くすぐったい、シフォン」

 私が笑うと、ウォルター王子が優しい声で言った。
「ようやく笑ったな、リネ」

 私はウォルター王子から目をそらし、返事をしなかった。
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