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3.ウォルター王子の部屋

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「ここです」
 ウォルター王子は私を大きな扉の前に立たせた。
 彼はドアを開け、中に入ると私に言った。
「入って」
「……はい」

 私が中に入ると、ウォルター王子は部屋の奥に立っていた。
 ウォルター王子の部屋には大きな本棚が二つ並び、ウォルター王子と同じ色の髪と目をした美しい女性の肖像画が飾られていた。私が部屋を見回していると、ウォルター王子は「扉を閉めてくれませんか?」と私に言った。
 ウォルター王子は私が重い扉を閉めて二人きりなったことを確認してから、私に話しかけた。

「私には……貴方を救うのが精いっぱいだった。……申し訳ない」
「……え?」
「リネット王女、ご両親のことは……謝って許されることじゃない」
 私は身を固くした。ウォルター王子は私がペアデ国の王女だと言うことを見抜いている。
「いつから……分かっていたのですか?」
 私がたずねると、ウォルター王子は暗い表情で言った。

「やはり、そうでしたか……。あんな場所にメイドが隠れているなんて不自然だと思いました」
 ウォルター王子の言葉を聞いて、私は「しまった」と思った。ウォルター王子は私が王女だと知っていたわけではなく、疑っていただけだったのだ……。
「私が王女だとわかったら、今すぐ殺すのではなくて?」

 私は声が震えるのを何とか抑え、ウォルター王子をにらみながら言った。ウォルター王子は力なく答えた。
「……人殺しはもうたくさんです。……私はペアデ国の王と王妃を尊敬していました。我が国も……ペアデ国のように平和な国にしたいといつも思っておりました……」
「なら、なぜこのようなひどいことを!?」

 私は涙をこらえきれずに、泣き叫んだ。
「お静かに! 人に聞かれたら、あなたまで殺されてしまう!」
 ウォルター王子が私に歩み寄り、私の口を左手で抑えた。私はウォルター王子の手にかみついた。
「……!?」
 ウォルター王子は私から手を離すと、憂いに満ちた目で私のことを見つめた。

「あなたのことはこれからなんとお呼びすれば良いですか?」
「……リネ……とお呼びください」
 私は小さな声で答えた。
「では……リネと呼びます。父上と兄上に知られたらあなたを守ることが出来なくなりますので、あなたのことは私のメイドとして扱います。……お許しください」

 私はウォルター王子をどこまで信じてよいのか分からないまま、頷いた。
「それでは、我が家のメイドたちに紹介します。分からないことがあれば、メイド長に聞いてください」
「……分かりました」
 私が生きていくには、ウォルター王子の言うことに従うほかないと思った。
 ウォルター王子はメイド長を呼んだ。

「お呼びでしょうか、ウォルター王子」
「ああ。こちらがメイド長のレイラだ。レイラ、新しく入ったメイドのリネだ。よろしく頼む」
「はい」
 レイラは胡散臭そうに私を頭の先から足の先までじろりと見ると、ため息交じりに言った。
「メイド室はこちらです」
「……はい」

 私はレイラについて行った。
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