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15.手紙
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チチチ、と鳥が鳴いている。
「もう、朝?」
ミスティアは眠い目をこすり、窓から外を見た。
空は青く澄み渡り、気持ちの良い朝の陽ざしが顔を照らしている。
「早朝の散歩も……いいかもしれませんね」
ミスティアは着替えると、森に向かって歩き出した。
木々の葉から零れ落ちた朝日は、水の中を思わせる輝きを放っている。
「木や草の香りが心地よい……」
ミスティアは小川のそばの大きな木にもたれかかると目を瞑り、水の流れる音や風の音、生き物たちの息遣いを感じていた。
「今日もいい一日になりそうですね……」
ミスティアは早朝のさわやかな空気を胸いっぱいに吸い込んで、屋敷に戻った。
屋敷に入り、食堂を覗くと両親が楽しそうに話していた。二人はミスティアに気づくと、声をかけた。
「おはよう、ミスティア。朝の散歩かい?」
「はい、お父様」
「そろそろ食事の時間ですよ」
「はい、お母さま」
ミスティアが席に着いたとき食堂のドアから、リリアが興奮した様子で顔をのぞかせた。
「お姉さま! やっと見つけた!」
「どうしたのです? リリア、落ち着きのない……」
「お姉さま! これを見てください!」
リリアはミスティアに手紙を差し出した。
「あら? お手紙? それが何か……?」
「ミスティアお姉さま、差出人を見てください!」
「……ブライアン・エイムズ公爵……!」
「ほら、言っていた通りでしょう? きっと演奏会の招待状だわ!」
手紙を胸に押し付け、目を輝かせているリリアを見て、父親のライズは苦笑した。
「リリア、よろこんでいるところに水を差すようだが……招待状だと決まったわけではないだろう? 今は食事の時間だ。手紙は後にしなさい」
「……はい、お父様」
リリアはテーブルの隅にブライアン公爵からの手紙を置いた。
「今日もお恵みを感謝いたします。祝福にあふれる一日になりますように……」
食前の祈りが終わると、ミスティアたちはスープとパンを口に運んだ。
「ああ、はやく手紙を開けたい! きっと招待状に違いないわ」
リリアはいつもより早いペースで食事をすすめている。
「リリア、落ち着いて食べるのですよ?」
ミスティアはリリアをたしなめたが、リリアの持ってきた手紙が気になるのは否定できなかった。
(私も……誘われているのかしら? いえ、きっと……リリアだけね)
「ごちそうさまでした!」
リリアは食事を終えると、手紙を素早く、しかし丁寧に開いた。
「『リリア・ノーム様、先日の舞踏会では楽しい時間をありがとうございました。今月末に我が家でごく身内だけの演奏会を開く予定です。よろしければ、ミスティア様とご一緒にいらっしゃいませんか? ミスティア様のフルートもお聴きできればうれしいです』……ですって!」
リリアは興奮で顔を赤く染めている。
「お姉さま、行きますよね?」
「私は……遠慮したいです……。ところで、どうしてブライアン公爵は私がフルートを演奏することをご存じなのかしら?」
「私が言いましたもの。お姉さまは、とても繊細で可憐な、すてきなフルートの音色を奏でますって、ブライアン公爵に自慢しましたもの」
「まあ! ……なんてことを!」
ミスティアの背筋に冷たい汗が流れた。
「お姉さまと二人で演奏会にお伺いいたしますとお返事を書きますわ。いいですよね?」
「だから……私は……」
話を聞いていたライズが言葉をはさんだ。
「ミスティア、ブライアン公爵からのお誘いを断ることはできないぞ」
「お父様……わかりました」
「それじゃあ、私は部屋でブライアン公爵にお返事の手紙を書いてきます。お姉さまは何の曲を演奏するか、考えてくださいませ」
「……」
ミスティアは深いため息をついてから、自分の部屋に戻っていった。
「もう、朝?」
ミスティアは眠い目をこすり、窓から外を見た。
空は青く澄み渡り、気持ちの良い朝の陽ざしが顔を照らしている。
「早朝の散歩も……いいかもしれませんね」
ミスティアは着替えると、森に向かって歩き出した。
木々の葉から零れ落ちた朝日は、水の中を思わせる輝きを放っている。
「木や草の香りが心地よい……」
ミスティアは小川のそばの大きな木にもたれかかると目を瞑り、水の流れる音や風の音、生き物たちの息遣いを感じていた。
「今日もいい一日になりそうですね……」
ミスティアは早朝のさわやかな空気を胸いっぱいに吸い込んで、屋敷に戻った。
屋敷に入り、食堂を覗くと両親が楽しそうに話していた。二人はミスティアに気づくと、声をかけた。
「おはよう、ミスティア。朝の散歩かい?」
「はい、お父様」
「そろそろ食事の時間ですよ」
「はい、お母さま」
ミスティアが席に着いたとき食堂のドアから、リリアが興奮した様子で顔をのぞかせた。
「お姉さま! やっと見つけた!」
「どうしたのです? リリア、落ち着きのない……」
「お姉さま! これを見てください!」
リリアはミスティアに手紙を差し出した。
「あら? お手紙? それが何か……?」
「ミスティアお姉さま、差出人を見てください!」
「……ブライアン・エイムズ公爵……!」
「ほら、言っていた通りでしょう? きっと演奏会の招待状だわ!」
手紙を胸に押し付け、目を輝かせているリリアを見て、父親のライズは苦笑した。
「リリア、よろこんでいるところに水を差すようだが……招待状だと決まったわけではないだろう? 今は食事の時間だ。手紙は後にしなさい」
「……はい、お父様」
リリアはテーブルの隅にブライアン公爵からの手紙を置いた。
「今日もお恵みを感謝いたします。祝福にあふれる一日になりますように……」
食前の祈りが終わると、ミスティアたちはスープとパンを口に運んだ。
「ああ、はやく手紙を開けたい! きっと招待状に違いないわ」
リリアはいつもより早いペースで食事をすすめている。
「リリア、落ち着いて食べるのですよ?」
ミスティアはリリアをたしなめたが、リリアの持ってきた手紙が気になるのは否定できなかった。
(私も……誘われているのかしら? いえ、きっと……リリアだけね)
「ごちそうさまでした!」
リリアは食事を終えると、手紙を素早く、しかし丁寧に開いた。
「『リリア・ノーム様、先日の舞踏会では楽しい時間をありがとうございました。今月末に我が家でごく身内だけの演奏会を開く予定です。よろしければ、ミスティア様とご一緒にいらっしゃいませんか? ミスティア様のフルートもお聴きできればうれしいです』……ですって!」
リリアは興奮で顔を赤く染めている。
「お姉さま、行きますよね?」
「私は……遠慮したいです……。ところで、どうしてブライアン公爵は私がフルートを演奏することをご存じなのかしら?」
「私が言いましたもの。お姉さまは、とても繊細で可憐な、すてきなフルートの音色を奏でますって、ブライアン公爵に自慢しましたもの」
「まあ! ……なんてことを!」
ミスティアの背筋に冷たい汗が流れた。
「お姉さまと二人で演奏会にお伺いいたしますとお返事を書きますわ。いいですよね?」
「だから……私は……」
話を聞いていたライズが言葉をはさんだ。
「ミスティア、ブライアン公爵からのお誘いを断ることはできないぞ」
「お父様……わかりました」
「それじゃあ、私は部屋でブライアン公爵にお返事の手紙を書いてきます。お姉さまは何の曲を演奏するか、考えてくださいませ」
「……」
ミスティアは深いため息をついてから、自分の部屋に戻っていった。
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