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12.帰宅

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「……」
 ブラッドが無言で帰宅すると、ハロルドがドアを開けブラッドを迎え入れた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ハロルドか。今日のローラはどんな様子だった?」
「奥様は、今日は本を読んだり、クッキーを焼かれたり、家でゆっくりされていました」
 ブラッドは険しい顔から一転、優しい笑みを浮かべて言った。
「そうか」

「ブラッド! おかえりなさいませ!」
 私は部屋で読んでいた本を置いて、玄関に駆け付けた。
 ブラッド様は嬉しそうな顔をした後、表情を曇らせた。
「まだ寝ていなかったのか? ローラ。私を待っていると遅くなるから、早く寝るようにいつも言っているだろう?」
 子どもに言い聞かせるような優しい口調でブラッド様は言った。

「でも……早くブラッドに会いたくて」
 私の一言でブラッド様の顔が急に赤くなる。んんっと咳払いをしたブラッド様は私の頬を指先で優しくなでると口づけをした。
「ローラ、君の一言で、私がどれだけ心を躍らせるか分かっているのか?」
「え?」

 ブラッド様は私をじっと見つめると、深い口づけをした。
「ローラ、これから町に行くときは警備のものを付けよう。けっして一人で家から出てはいけない。わかったな?」
「はい、ブラッドがそう言うなら……。何かあったんですか? ブラッド?」
「ちょっとな……」

 ブラッド様は外套をハロルドに渡し、着替えるために私から離れ自室に向かった。

 私は食堂へ行き、ブラッド様が夜食を食べに来るのを待った。
「ローラ、まだ寝ていなかったのか?」
「すこし、お話をしたいと思いまして」
「なんだ?」
「明日、買い物に行きたいのですけれども、良いでしょうか?」

 ブラッド様は少し考えた後、頬杖を突き私を見つめて言った。
「それなら私がついて行こう。午後からなら一緒に動ける」
「いいんですか? ありがとうございます」
 私はブラッド様と外出できるのが嬉しくて、ほおが緩んだ。

「二人で町に出るのは初めてですね」
 私の言葉に、ブラッド様も頷いた。
「ああ、そうだな」

 ブラッド様は食事をとりながら、小さな声で言った。
「気が滅入ることが多かったからな。町に出るのはいい気分転換になりそうだ」
「楽しみですね」
「君と一緒なら、いつでも楽しいよ、ローラ」

 ブラッド様は食事を終えると、部屋に戻った。
 私も部屋に戻り、ベッドに入る。
「一緒のお部屋なら良かったのに……」

 目を閉じると、体が重くなったように感じる。私はすぐに眠りに落ちた。
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