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7.騎士団見学2
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「ここが騎士団の演習場です。騎馬兵の訓練は右手、歩兵の訓練は左手で行っています。騎士団は五つにわかれて各部隊に部隊長がいます。訓練の細かい指示は部隊長が出しています」
「すごい……みんな真剣だわ」
私は兵士たちの訓練に見入った。子どものころは遠くから眺めるだけだったけど、今は兵士一人一人の表情も流れる汗も良く見える。
「こうやって鍛えているから、国の平和が守られるのですね」
私の言葉にトリスタン様は目も合わせずに返事をした。
「ええ」
トリスタン様は厳しい目で各部隊の演習を見つめている。トリスタン様が剣を振る兵士に声を飛ばした。
「そこ、動きに無駄が多い!」
「はい!」
きびきびとした兵士の動きに見とれた私はため息をついた。
「ブラッドは演習には参加されないのですか?」
私の問いかけにトリスタン様が渋い顔をして、吐き出すように言った。
「ブラッド様は国王の護衛をしています。演習には、私と交代で参加しています。今私は、あなたの見学の付き添いを頼まれていますから、ブラッド様はいらっしゃることができません」
いまいましいという表情で私を見るトリスタン様。
「そうでしたか。申し訳ありませんでした。私、そろそろ帰りますね」
「お帰りの準備を整えます」
トリスタン様は私の乗ってきた馬車の馭者に声をかけた。
「ブラッド様には私から、ローラ様が帰られたことをお伝えします」
「……ありがとうございます。騎士団の皆様にもよろしくお伝えください」
「はい。お帰りはあちらです」
私はせかされるように馬車に乗り、帰宅した。
その日の夜、ブラッド様は帰ると私の部屋に来て開口一番こう言った。
「騎士団の見学はどうだった?」
「皆さん、とても頑張っていらっしゃって、格好良かったです。トリスタン様にもお世話になりました」
「そうか。満足したか」
ブラッド様は微笑んだが、その笑顔はぎこちなかった。
「私以外に、美しいローラを見せることになるとは……。心配だ。もしローラに思いをよせるようなものがあれば、消さなくてはならない。たとえトリスタンだとしても」
私はめずらしく冗談を言うブラッド様に笑って答えた。
「トリスタン様は、ブラッドを尊敬していらっしゃるみたいでしたよ」
ブラッド様は曇った表情のまま言った。
「そうか? まあ、いい。ローラが楽しんだのなら……私もローラに会うのを我慢したかいがあったというものだ」
ブラッド様は眉間にしわを寄せ、渋い顔をしたまま私を抱きしめた。
「本当は私以外の誰のそばにもいかせたくないんだぞ?」
「まあ、大げさですよ? ブラッド」
私が微笑むとブラッド様は私の頬を両手で優しく挟み、おでこにキスをした。
「ローラ、君のことを見つめるのは私だけでいいし、君が見つめるのは私だけでいい」
ブラッド様はもう一度私を抱きしめてから、なごりおしそうに私の部屋を出て行った。
「すごい……みんな真剣だわ」
私は兵士たちの訓練に見入った。子どものころは遠くから眺めるだけだったけど、今は兵士一人一人の表情も流れる汗も良く見える。
「こうやって鍛えているから、国の平和が守られるのですね」
私の言葉にトリスタン様は目も合わせずに返事をした。
「ええ」
トリスタン様は厳しい目で各部隊の演習を見つめている。トリスタン様が剣を振る兵士に声を飛ばした。
「そこ、動きに無駄が多い!」
「はい!」
きびきびとした兵士の動きに見とれた私はため息をついた。
「ブラッドは演習には参加されないのですか?」
私の問いかけにトリスタン様が渋い顔をして、吐き出すように言った。
「ブラッド様は国王の護衛をしています。演習には、私と交代で参加しています。今私は、あなたの見学の付き添いを頼まれていますから、ブラッド様はいらっしゃることができません」
いまいましいという表情で私を見るトリスタン様。
「そうでしたか。申し訳ありませんでした。私、そろそろ帰りますね」
「お帰りの準備を整えます」
トリスタン様は私の乗ってきた馬車の馭者に声をかけた。
「ブラッド様には私から、ローラ様が帰られたことをお伝えします」
「……ありがとうございます。騎士団の皆様にもよろしくお伝えください」
「はい。お帰りはあちらです」
私はせかされるように馬車に乗り、帰宅した。
その日の夜、ブラッド様は帰ると私の部屋に来て開口一番こう言った。
「騎士団の見学はどうだった?」
「皆さん、とても頑張っていらっしゃって、格好良かったです。トリスタン様にもお世話になりました」
「そうか。満足したか」
ブラッド様は微笑んだが、その笑顔はぎこちなかった。
「私以外に、美しいローラを見せることになるとは……。心配だ。もしローラに思いをよせるようなものがあれば、消さなくてはならない。たとえトリスタンだとしても」
私はめずらしく冗談を言うブラッド様に笑って答えた。
「トリスタン様は、ブラッドを尊敬していらっしゃるみたいでしたよ」
ブラッド様は曇った表情のまま言った。
「そうか? まあ、いい。ローラが楽しんだのなら……私もローラに会うのを我慢したかいがあったというものだ」
ブラッド様は眉間にしわを寄せ、渋い顔をしたまま私を抱きしめた。
「本当は私以外の誰のそばにもいかせたくないんだぞ?」
「まあ、大げさですよ? ブラッド」
私が微笑むとブラッド様は私の頬を両手で優しく挟み、おでこにキスをした。
「ローラ、君のことを見つめるのは私だけでいいし、君が見つめるのは私だけでいい」
ブラッド様はもう一度私を抱きしめてから、なごりおしそうに私の部屋を出て行った。
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