優秀すぎる令嬢を助けたのは神ではなく、悪魔と呼ばれる青年紳士でした。

茜カナコ

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52.婚約者2

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 コンコン、とフローラの部屋の扉がノックされた。

「はい?」

「僕だよ、フローラ。ちょっといいかな?」

「アルフレッド様?」

 フローラは急いで扉を開けた。

 そこにはしょんぼりとした顔のアルフレッドがいた。

「何か?」

 少し冷たい態度のフローラの前で、アルフレッドは胸のところで両手を組み、うつむいている。

「さっきはごめん。それでも……どうしてもフローラに婚約者のふりをしてほしくて……。ダメかな?」

 アルフレッドは顔を上げ、すがるような眼でフローラを見つめた。

「人をだますのは良くないと思いますが」

 フローラが答えるとアルフレッドは「僕は自分の生活を守りたいんだ。フローラのこともね」と言った。

「……分かりました」

 フローラが了承すると、アルフレッドの表情が明るくなった。

「アルフレッド様、フローラに婚約者のふりをしてもらうのなら、何着かドレスが必要だと思いますよ?」

 アルフレッドの背後から現れたトレヴァーが口をはさんだ。

「トレヴァ―!」

「以前、フローラ様に数枚の普段着を用意されていましたが、あれでは伯爵の婚約者には粗末すぎるかと」

 トレヴァーの指摘に、アルフレッドは頭を抱えた。

「それは気付かなかった。さっそく町まで馬車を出してくれるかい?」

「承りました」

 トレヴァーは馬車の準備をするため、屋敷の裏口に向かった。

「あの……」

 フローラはどんどん話が進んで行くことに戸惑っている。

「フローラはメイド服じゃなくて、今ある普段着から好きな服に着替えてくれるかな? その間に馬車の用意ができると思うから」

「でも、お金が」

「そんなの僕が払うんだから気にしないで。これでも伯爵だからね」

 フローラは頷き、衣裳棚から青色のドレスを選んだ。

「アルフレッド様、着替えるので……」

「ああ、失礼」

 アルフレッドはフローラの部屋から出ると、ドアを閉めた。

 フローラの着替えが終わって少しすると、トレヴァーが戻ってきた。

「馬車の準備が出来ました」

「それじゃあ、ドレスを買いに行こう」

 アルフレッドはフローラの手を取って、屋敷を後にした。
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