優秀すぎる令嬢を助けたのは神ではなく、悪魔と呼ばれる青年紳士でした。

茜カナコ

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51.婚約者

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「……そんなに怒ることかなあ?」
 アルフレッドは方眉を上げ、トレヴァーに尋ねた。

「怒ると思います」
「そっか。悪いこと言っちゃったな」
 アルフレッドはしょんぼりとした様子だ。
「そう思うのなら、謝ることです」
「はいはい」
 アルフレッドは両手を上げて、ため息をついた。

「アルフレッド様、もう一通手紙が届いております」
「ん? 誰から?」
「さあ、見たことのない名前です」
 アルフレッドはトレヴァーからもう一通の手紙を受け取ると差出人の署名を見て首を傾げた。

「イーディス・ライトフット? 僕も知らない人だなあ……」
 アルフレッドは手紙を開けて便箋を取り出した。几帳面そうな字で文章が書かれている。

<ジェリー・ダグラス様にご紹介いただきました、イーディス・ライトフットと申します。この度のご縁、誠に嬉しく思います。ジェリー様からアルフレッド様のお屋敷に一週間ほど滞在し、お互いを知るよう言われました。お会いできる日を楽しみにしております>

「なんだって? ジェリー伯母さんからの手紙にそんなこと書いてなかったよね?」
 アルフレッドは眉を顰め、訴えるようにつぶやいた。
 トレヴァーが怪訝な顔で、青ざめたアルフレッドを見つめている。

「イーディス様はいつ、いらっしゃるのですか?」
「ちょっと待って。……いつ来るかは……あ、ここに書いてあった。『今週末にお伺いします』だって? 週末って、明日じゃないか!?」
「そのようですね」
 トレヴァーは眉一つ動かさず、アルフレッドの嘆きを聞いている。

「勘弁してくれ! 僕は自分のペースを乱されるのは苦手なんだよ!」
 アルフレッドは天を仰いだ。
「存じております。しかし、今からお断りするのは難しいかと」
「……やられたよ。ジェリー伯母さん、最近は静かだったから油断してた」
 アルフレッドは椅子の背もたれに体をあずけて、目をつむり、顔の前で両手を合わせた。

「それではお客様がいつ、いらっしゃっても大丈夫なようにゲストルームを準備しておきます」
「……頼んだよ、トレヴァー」

 アルフレッドはため息をつきながら立ち上がると、食堂を後にした。

***

「アルフレッド様、思い付きで婚約なんて……まあ、冷静に考えれば言いそうですね」
 フローラは炊事場で食器を洗いながら、ため息をついた。
「私だってロマンティックな方ではないですけれども……いくら何でも、あの言い方は……」

 だったら、どんな風に言われれば自分は満足だったのだろう、とフローラは考える。花束を持って片膝をつき、自分に求婚するアルフレッドを想像して、フローラは苦笑した。アルフレッドがそんなことをするはずがないだろう。

「仕方のない方ですね、アルフレッド様は」
 フローラは機嫌を直し、食事の片づけを終わらせた。

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