優秀すぎる令嬢を助けたのは神ではなく、悪魔と呼ばれる青年紳士でした。

茜カナコ

文字の大きさ
上 下
43 / 55

43.最後の願い

しおりを挟む
「また、お前たちか……」
 クリフ神官長は小さな声で言った。
「クリフ神官長、アルフレッド様たちが……助けてくださったのです」
 カイルがクリフ神官長に言うと、クリフ神官長は眉をひそめた。
「放っておけばよかったものを……」

「……お礼の一つもないんですか?」
 アルフレッドがあきれたように言った。
「私はもう、長くない。魔女の刻印を刻みすぎた。これはその報いだ」
 クリフ神官長はそれだけ言うと目を閉じた。
「クリフ神官長、今、回復魔法を……」
 フローラがクリフ神官長の体に手をかざそうとしたとき、クリフ神官長がはっきりとした声で言った。

「やめてくれ、フローラ」
「ですがクリフ神官長……」
 フローラの手をアルフレッドが抑えた。
「クリフ神官長の話を聞こう、フローラ」
 クリフ神官長は、少しだけ目を開けて、話し始めた。
「私は……教会のためを思い、民衆が堕落しないために何が出来るかを考え、生きてきたつもりだ……」
 カイルが頷いた。
「でも、その気持ちも、いつからか、ゆがんでしまったのかもしれない」
「クリフ神官長、これ以上はお体に障ります。どうか、静かにお眠りください」
 カイルが言った。
「いや、私はもうだめだ。……カイル、レイス、お前たちはまだやり直せる」
 クリフ神官長は苦しそうだ。

「アルフレッド様、この手紙を大陸の教会本部へ送ってください」
 クリフ神官長は懐から封をした手紙を取り出した。
「ここには、アビントンを次期神官長にしてほしいということと、カイルとレイスは教会のためによく働いているということが書いてあります」
 クリフ神官長はカイルとレイスに微笑みかけた。
「二人には……悪いことをしてしまった。私は……神に仕える身として……間違った選択をしていたようだとやっと気づいた」
「クリフ神官長!」

 カイルとレイスがクリフ神官長の手を取った。
「お前たちは……正しい道を歩んでくれ」
 クリフ神官長は目を閉じた。呼吸が浅くなる。
「私は神のもとで裁きを受けるだろう……」
 クリフ神官長の手が、だらりと下がった。
「クリフ神官長……」

 回復魔法をかけようと手を伸ばしたフローラの肩に、アルフレッドが手を乗せて首を横に振った。
「フローラ、私たちにできることはもう何もない。できるのは、この手紙を……協会本部に送ることだけだ」
「……はい」
「……アルフレッド様、フローラ様、ありがとうございました」
 カイルはそういうと頭を下げた。

「あなたたちがクリフ神官長を殺したのよ!」
 レイスが叫んだ。
 カイルはそれを制止すると、アルフレッドに言った。
「私たちは、なにか大きな間違いをしていたようです。その手紙に何が書かれているのかはわかりませんが……私たちは神の意志に従います」
「……それでは、僕たちはこれで失礼します」
 アルフレッド達は自宅に向け、馬車を走らせた。
 自宅に着き、馬車を降りるとアルフレッドはトレヴァーに声をかけた。
「トレヴァー、この手紙を教会の本部に送ってくれ」
「かしこまりました」

「アルフレッド様……」
 フローラが不安そうな顔でアルフレッドに話しかけた。
「どうしたの? フローラ?」
「これでよかったのでしょうか?」
「うーん。僕たちには……分からないよ」
 アルフレッドはそれだけ言うと、自分の部屋に戻っていった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...