優秀すぎる令嬢を助けたのは神ではなく、悪魔と呼ばれる青年紳士でした。

茜カナコ

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「どうぞ、おかけください」
 クリフはアルフレッド達を礼拝堂に通し、椅子に座るように言った。
「それでは、失礼いたします」
 アルフレッドが礼拝堂の最前列、中央の椅子に座り、続いてアルフレッドの左隣にアビントンが、右隣にフローラが座った。後から入ってきたトレヴァーは、フローラの隣に座った。

「つい先日、話し合いをしたばかりだというのに、この騒ぎはどういうことでしょうか?」
 クリフが柔らかな笑みを浮かべて、アルフレッドに問いかけた。しわの奥の小さな目が、冷たく光っている。
「いや、どうも町の人たちが……教会に文句があるようでしてね」
 アルフレッドも微笑みながら言うと、アビントンがぶっきらぼうに言った。

「クリフ、お前は変わっちまった……いや、あのころから変わっちゃいない、か?」
「アビントンさん、何が言いたいのですか?」
 クリフはアビントンに問いかけた。
「お前は、恋をあきらめた日から、神を妄信している。この教会も……人々のために開かれた場所から、人々を支配する場所に変わっちまった」

 クリフはアビントンから目をそらして言った。
「教会は、神のための施設です。神を崇めて当然でしょう?」
「やりすぎだって言ってんだよ!」
 アビントンはクリフのほうに向かって立ち上がろうとしたが、アルフレッドがそれを抑えた。

「まあ、先日お話した通りですが。教会は魔女の刻印を刻んだり、高い寄付金を募ったり、人を助けるために高いお布施を強要したり……目に余るものがあります」
 クリフの顔から、一瞬笑みが消えた。
「それで、どうしろというのだ?」
「もう少し、民衆のことを愛していただけませんか?」
「……ふっ。……愛する? 教会をこんな風にしたのは、町の人々ですよ?」
 クリフはおかしくてたまらないというように、笑いをこらえていった。

「人々は教会に求めるだけで、なにも見返りを与えなかった。困窮する教会を見捨てようとした。だから、教会は……神の力を……。かつての教会は……民衆に甘すぎただけです」
 クリフは遠くを見るような眼をして、ステンドグラスから入る色とりどりの光のかけらを見つめていた。

「クリフ! これ以上町の人をくるしめるんじゃねえ! 魔女の刻印も、重い寄付金も、もうやめろ!」
「……神の御心のままに」
 クリフはそれだけいうと、立ち上がら部屋を去ろうとした。

「クリフ神官長、教会はやり方を変えないと言うことですか?」
 アルフレッドが眉をひそめて、クリフに尋ねた。
「教会は……間違っていない。お引き取りください」
「……クリフ神官長、せめて魔女の刻印を刻むことは控えていただけませんか?」
「皆様が正しく生きていらっしゃるのなら、魔女の刻印を刻む必要もないでしょう……」

 クリフは礼拝堂を後にした。
「それでは、話し合いは以上です。どうぞ、お引き取りください」
 カイルがアルフレッド達に、教会から出ていくように促した。
「教会は、やり方を変えるつもりはないということですね?」
「……神の御心のままに」

 アルフレッドはカイルにお辞儀をして、礼拝堂を出て行った。
「まったく、どういうつもりなのかしら?」
 礼拝堂の二階からアルフレッド達を見ていたレイスは、舌打ちをした。
「教会がなくなって、困るのは……ダグラス卿なのにね」

 レイスはそっとつぶやくと、足早に自分の部屋に戻っていた。
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