優秀すぎる令嬢を助けたのは神ではなく、悪魔と呼ばれる青年紳士でした。

茜カナコ

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17.火炎銃

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 夕食が終わると、アルフレッドがフローラに声をかけた。
「今日の夜、時間をもらえるかな? フローラ」
「……はい、かまいませんが。どのようなご用件でしょうか?」
「ん?」
 アルフレッドはトレヴァーの姿が見えないことを確認してから、フローラに耳打ちした。

「実は、例の火炎銃が完成したんだ。トレヴァーに知られると取り上げられるから、内緒で実験したいんだ」
 フローラはきょとんとしてアルフレッドに言った。
「私と何の関係があるんでしょうか?」
「それは今夜のお楽しみだよ」
 それだけ言うとアルフレッドは自分の部屋に帰っていった。

 夕食の片づけを終えフローラが部屋に戻ると、外出の用意をしたアルフレッドがドアの前に立っていた。何か細長いものを腰にぶら下げている。
「やあ、それじゃあ出かけよう」
「外套を取ってきてもよいですか?」
「そうだね。じゃあ、早くしてね」
 フローラはあわててメイド服の上から外套を身に着け、部屋を出た。

「お待たせいたしました」
「うん、じゃあ森に行こう」
「森?」
「うん。君と初めに会った場所だよ」
 アルフレッドはそれだけ言うと、スキップしそうな上機嫌で外に向かって歩き出した。

「トレヴァーに見つからないように裏口から出るよ」
「……はい」
 屋敷の裏口から森への道は曲がりくねっていて、何回か分かれ道もあったがアルフレッドは何の迷いもなくすいすいと歩いて行った。
「フローラ、そろそろ着くよ」
「はい」
 
 フローラはアルフレッドに追いつくため速足でその後を追った。
「ここで実験しよう」
「ここですか」
 アルフレッドが立ち止まったのは、初めて会ったあの禁足地だった。
「ここなら誰も来ないからね」
「禁足地に立ち入って大丈夫なのですか?」
 アルフレッドはふふふと笑っていった。

「大丈夫じゃないと思うよ。だから誰も来ない」
「え?」
「この森の奥には、魔物がいるとか、おばけがでるとかいろいろなうわさがあるからね」
「……」
 フローラの表情がこわばったのを見て、アルフレッドは吹き出すように笑った。

「さあ、そろそろ実験をしよう」
 アルフレッドは腰につけていた細い棒状のものを取り出した。
「火炎銃。やっと完成したんだ。ちょっと撃ってみるね」
 アルフレッドは火炎銃に魔力を込めてから、銃口を目の前の木に向けて引き金を引いた。
『ボ……』
 小さな火球がひょろひょろと木に向かって飛んでいき、木の表面にあたるとはじけて消えた。

「ああ、やっぱり僕の魔力じゃこの程度か……」
 アルフレッドは火炎銃をフローラに渡した。鉄の重みとアルフレッドの体温が残るそれをフローラは不思議そうに見つめた後、握りしめた。
「力はいらないよ、フローラ。銃に魔力を込めて、引き金を引いてごらん?」
 フローラはアルフレッドに言われた通り、銃に魔力を込め、引き金を引いた。
『ゴオオオッ』 
 
 銃口から大きな火球が現れ、目の前の木が燃えた。
「あ、まずいかも……。フローラの魔力がこんなに強いとは思わなかった」
「え、ええっと……」
 フローラは火炎銃を持ったまま、目の前の木が燃え盛るのを見ていた。
「アルフレッド様、火遊びはやめてくださいと申し上げていましたよね?」
 いつのまにか、トレヴァーがアルフレッドの背後に立っていた。

「あ……」
「森が火事になったらどうするのですか?」
 そういうとトレヴァーは燃え盛る木を斧で切り倒し、土をかけて火を消した。
「いくらご自身の土地だからと言って、やっていいことと悪いことがあります」
「わかったよ、トレヴァー。僕が悪かった」
 アルフレッドは怒られた子供のようにしゅんとした。
「それでは、私が後始末をしておきますので、アルフレッド様とフローラは屋敷に戻っていただけますか?」

 静かだが、有無を言わせない雰囲気でトレヴァーが言った。
「わかった。帰ろう、フローラ」
「はい……」
 フローラは火炎銃をアルフレッドに返した。
「今度は、トレヴァーが留守のときに試そうね」
「アルフレッド様!?」

「っと、トレヴァー、冗談だよ。冗談」
「フローラもトレヴァー様のいたずらに付き合ってはいけませんよ?」
「はい、トレヴァー様」
「じゃあ、先に帰るね」
 アルフレッドはそう言うと、軽やかな足取りで屋敷に帰っていく。
 フローラはそのあとを速足で追いかけた。
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