僕が学校帰りに拾ったのは天然で、大食いな可愛い女勇者でした

茜カナコ

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27、フレアのアルバイト

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 学校帰りに、葉山さんはどこかに電話をかけてから言った。
「フレアさん、今日の午後は何か予定がありますか?」
「無い」
「それじゃ、よかったら一緒にアルバイトの面接に行きませんか?」
 僕は葉山さんの行動力に驚いた。
「アルバイトをすると決めたわけでは無いが?」
 御崎さんは渋い顔をしている。

「お金、必要なのですよね?」
 葉山さんが笑顔のまま、単刀直入に切り出した。
「ぐぬっ! ……分かった。葉山とやら、案内しろ」
「案内して下さいではありませんか?」
 葉山さんの笑顔が怖い。僕は葉山さんだけは敵に回したくないと思った。
「うぬぅ!! ……案内して下さい……」
「はい」
 にこやかに対応する葉山さんを見て、御崎さんは唇をかみ締めている。

「フレア、アルバイトは楽しいぞ! 仲間も出来るし、お金ももらえるしな!」
 ユイがそう言うと、御崎さんはユイを睨みながら言った。
「貴様に言われたくは無いぞ! ユイ!」
 葉山さんは電話の相手に、面接を今から受けられるか訊ねていた。
「いまから、面接をして下さるそうです。学校から歩いて三十分ほどなのですが、お時間は大丈夫でしょうか?」

「我は孤高の存在だからな。我を縛る者はいない」
「そうですか。それなら一緒に面接に行きましょう」
 いつになく仕切る葉山さんに、僕は不安を感じた。
「伊口さん達も一緒に行きますか?」
「良いんですか?」
「はい、店長の竹田さんは父の友人なんです。お店は駅から10分くらい歩いたところにあります」

 葉山さんを先頭にして、僕達は駅に向かって歩き出した。
「高貴なる我が、愚かなる人間の元で働くことになるとは……」
 御崎さんはブツブツと何か言っていたが、葉山さんは聞き流していた。
「フレア、人間の世界には色々なルールがある。頑張れよ!」
 ユイが言うと、御崎さんは吐き捨てるように言った。
「ユイ、少しばかり早くこの世界に来たからと言って、我に先輩面をするとは生意気だ!」
「はいはい、喧嘩しないで。御崎さん」
 御崎さんは舌打ちをした。

「はい、このお店です」
 葉山さんの言葉を聞いて、僕は示されたお店の外装を見ていった。
「うわ、なんか昭和レトロっぽいお店ですね」
「中は、もっと素敵なんですよ」
 葉山さんがドアを開けると、カランカランとベルが鳴った。
「こんにちは、竹田さん。さくらです」

 店の中は、絵本にでてくるファンタジーの世界のようだった。
 フリルに覆われた椅子と机、人形やぬいぐるみに絵本が飾られた木製の重厚な棚。カウンターの中には高級そうな食器。アップライトのピアノの上には飾り皿が立てかけてあった。
「はーい。お久しぶり! アルバイトしたい子が居るんだって?」
 奥からこぎれいな男性が現れた。三十代半ばくらいだろうか。白いシャツに黒いパンツ、茶色のエプロンを身につけていた。

「はい。御崎フレアちゃんです。きっと竹田さんなら気に入って下さると思って……」
 葉山さんは御崎さんを竹田さんの前に立たせると言った。
「自己紹介をお願いします」
「……何故、貴様が我に命令をする?」
 竹田さんは、フレアの真っ赤なツインテールを見て言った。

「その髪は染めてるの?」
「生まれつきだ」
「御崎さん、言い方気をつけて。面接なんだから」
「うん。面白い子だね。制服も似合いそうだし。言葉使いも、逆にアリかな」
 竹田さんはうんうん、と頷くとにっこりと笑った。

「うん。採用! 名前、ちゃんと教えてね」
 竹田さんは明るい声で言った。
「……御崎フレアだ。貴様、金は持っているのか?」
「ああ、お給料ね。時給1500円で良い?」
「え!? 高いですね」
 僕は思わず声を上げてしまった。喫茶店のバイト代としてはかなり高い。
「うん、その代わり仕事は忙しいよ? 君に出来るかな?」

 竹田さんは首をかしげて御崎さんに尋ねた。
「貴様、我の力を知れば、そのような戯れ言は二度と言えまい」
 御崎さんは自信満々だ。
「じゃ、早速明日の夕方から夜まで、一日三時間。月水金で働いてくれるかな」
「……了承した」
「じゃ、契約書にサインをして」
 御崎さんは渡された書類に名前と連絡先を書きながら、ため息をついた。

「我が下等な人間に使われる日が来るとはな……」
 御崎さんはユイを睨んだ。
「これも勇者が我が国を滅ぼしたからか……ユイ、覚えておけよ……?」
「フレア、仕事が決まって良かったな」
 ユイは笑顔で御崎さんに言った。
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