5 / 35
5、カレーを食べよう
しおりを挟む
家に帰るとユイは、そういえば、と呟いて僕のことをじっと見た。
「私はまだ、君の名前を聞いていないな? 名前は何だ?」
「僕の名前は伊口晴人(いぐち はると)だよ」
僕も名前を聞かれていないことなどすっかり忘れていた。
「晴人、今日はカレーとか呟いていたが、カレーとは何だ?」
「食べれば分かるよ」
僕はそう言ってから、お米をとぎ始めた。
昼食の量から考えて、ユイは僕の二倍は食べるだろうと思い、いつもの三倍の量のお米を炊くことにした。
「よし、お米はとぎ終わったから炊飯器のスイッチを入れるよ」
「炊飯器?」
「お米をご飯にする機械だよ」
「また機械か。この世界は機械まみれだな」
炊飯器のスイッチを入れると、電子音のメロディーが流れる。
「ほう、歌まで歌うのか!? この炊飯器とやらは」
ユイは珍しそうに炊飯器をまじまじと見つめている。
「ご飯を炊いてる間に、野菜と肉を切って炒めよう。カレーを作るよ」
「うむ! 私は何をすれば良い?」
「じゃあ、タマネギの皮を剥いてくれる?」
「分かった!」
僕が大量のジャガイモや人参を剥いたり刻んだりしている脇で、ユイはタマネギをむき始めた。
「ユイ、タマネギは茶色い部分だけ剥けば良いからね。手で潰さないように気をつけて」
「ああ。分かった。しかし、目が痛い……」
ユイは涙をこぼしながら、何とか皮むきを終えた。
僕はタマネギをみじん切りにして、一番大きな鍋を台所の奥から引っ張り出した。
母さんが「男の子ならいっぱい食べるわよね」と言って、買った後一度しか使っていない。
「油を鍋に引いて、火をつけて、と」
僕がコンロの把手をひねって火をつけると、ユイは驚いて声を上げた。
「なんと! これも魔法の道具か!?」
「ただのコンロだよ。機械」
「機械か。機械とはずいぶん便利な物だな。魔法とは違う力なのか?」
「うん。電気っていうのがいろんな物を動かしてるんだ」
「へー!!」
ユイがコンロに顔を近づける。
「危ないよ!?」
僕は止めたが、遅かった。ユイの前髪がちょっと焦げている。
「あーあ。大丈夫? ユイ?」
「このくらい、ドラゴンの炎を浴びたときに比べれば、傷にもならない」
ユイは無意味に胸を張って、えへん、と咳払いをした。
「後は煮込むだけだから、ユイはテレビでも見てる?」
「うむ」
僕がテレビをつけると、ユイはまた驚いて声を上げた。
「なんと!? この小さな箱には世界がつまっているのか?」
「ちがうよ。これはテレビ」
僕はいちいち説明するのが面倒になってきた。
「じゃあ、大人しくしててね。僕はカレーのそこが焦げないようにかき混ぜていないといけないから」
「……」
ユイはもうテレビに釘付けだった。
僕はしばらくカレーの味見をしたり、ボンヤリしながら、鍋をかき混ぜた。
「人の居る部屋か。ひさしぶりだな……」
僕はユイの姿を見て、にっこりした。
ちょっと風変わりだけど、ユイは良い子だと思う。
「ユイ、カレーが出来たよ!」
「おう、待ちくたびれたぞ!」
僕はお皿にこんもりとご飯をのせてカレーをたっぷりかけてから、座っているユイの前のテーブルに置いた。
「晴人は?」
「僕も食べるよ」
僕の分はユイの半分くらいだ。といっても普通の一人前だけれど。
「いただきます」
「いただきます!」
ユイは、カレーをスプーンですくって一口食べた。すると、悲鳴が聞こえた。
「辛い!!!」
「ええ!? 中辛だめだった!?」
「水、水をくれ!!」
僕は慌ててユイに水を出した。ユイはそれをごくごくと飲み干した。
「はあ、はあ、何て危険な食べ物なんだ!? これは!?」
「ちょっとまって、念のために買っておいた物があるから」
僕はそう言うと冷蔵庫から生クリームと、とろけるチーズを出してユイのカレーにかけた。
「あ、美味しくなった!!」
「良かった」
ユイはパクパクと生クリームとチーズでマイルドになったカレーを食べた。
「おかわりはあるのか?」
「沢山作ったから、あるよ」
「じゃあ、おかわり!!」
結局、僕はユイの為に鍋に残ったカレーの味を直して、甘口カレーにした。
「美味しいな、カレーは」
「ユイが喜んでくれて良かったよ」
僕はユイが食べ終わった後、大きな鍋とお皿を洗ってから、大量の豚汁を朝ご飯用に作った。
「お? まだ何か作るのか?」
「明日の朝ご飯だから、食べちゃ駄目だよ、ユイ」
「はーい」
ユイはお風呂に入って、着替えるとソファで寝ようとした。
僕は慌ててお客様用布団をベットの脇に並べた。
「それじゃ、おやすみ、ユイ」
「おやすみ、晴人」
僕たちは眠りについた。
「私はまだ、君の名前を聞いていないな? 名前は何だ?」
「僕の名前は伊口晴人(いぐち はると)だよ」
僕も名前を聞かれていないことなどすっかり忘れていた。
「晴人、今日はカレーとか呟いていたが、カレーとは何だ?」
「食べれば分かるよ」
僕はそう言ってから、お米をとぎ始めた。
昼食の量から考えて、ユイは僕の二倍は食べるだろうと思い、いつもの三倍の量のお米を炊くことにした。
「よし、お米はとぎ終わったから炊飯器のスイッチを入れるよ」
「炊飯器?」
「お米をご飯にする機械だよ」
「また機械か。この世界は機械まみれだな」
炊飯器のスイッチを入れると、電子音のメロディーが流れる。
「ほう、歌まで歌うのか!? この炊飯器とやらは」
ユイは珍しそうに炊飯器をまじまじと見つめている。
「ご飯を炊いてる間に、野菜と肉を切って炒めよう。カレーを作るよ」
「うむ! 私は何をすれば良い?」
「じゃあ、タマネギの皮を剥いてくれる?」
「分かった!」
僕が大量のジャガイモや人参を剥いたり刻んだりしている脇で、ユイはタマネギをむき始めた。
「ユイ、タマネギは茶色い部分だけ剥けば良いからね。手で潰さないように気をつけて」
「ああ。分かった。しかし、目が痛い……」
ユイは涙をこぼしながら、何とか皮むきを終えた。
僕はタマネギをみじん切りにして、一番大きな鍋を台所の奥から引っ張り出した。
母さんが「男の子ならいっぱい食べるわよね」と言って、買った後一度しか使っていない。
「油を鍋に引いて、火をつけて、と」
僕がコンロの把手をひねって火をつけると、ユイは驚いて声を上げた。
「なんと! これも魔法の道具か!?」
「ただのコンロだよ。機械」
「機械か。機械とはずいぶん便利な物だな。魔法とは違う力なのか?」
「うん。電気っていうのがいろんな物を動かしてるんだ」
「へー!!」
ユイがコンロに顔を近づける。
「危ないよ!?」
僕は止めたが、遅かった。ユイの前髪がちょっと焦げている。
「あーあ。大丈夫? ユイ?」
「このくらい、ドラゴンの炎を浴びたときに比べれば、傷にもならない」
ユイは無意味に胸を張って、えへん、と咳払いをした。
「後は煮込むだけだから、ユイはテレビでも見てる?」
「うむ」
僕がテレビをつけると、ユイはまた驚いて声を上げた。
「なんと!? この小さな箱には世界がつまっているのか?」
「ちがうよ。これはテレビ」
僕はいちいち説明するのが面倒になってきた。
「じゃあ、大人しくしててね。僕はカレーのそこが焦げないようにかき混ぜていないといけないから」
「……」
ユイはもうテレビに釘付けだった。
僕はしばらくカレーの味見をしたり、ボンヤリしながら、鍋をかき混ぜた。
「人の居る部屋か。ひさしぶりだな……」
僕はユイの姿を見て、にっこりした。
ちょっと風変わりだけど、ユイは良い子だと思う。
「ユイ、カレーが出来たよ!」
「おう、待ちくたびれたぞ!」
僕はお皿にこんもりとご飯をのせてカレーをたっぷりかけてから、座っているユイの前のテーブルに置いた。
「晴人は?」
「僕も食べるよ」
僕の分はユイの半分くらいだ。といっても普通の一人前だけれど。
「いただきます」
「いただきます!」
ユイは、カレーをスプーンですくって一口食べた。すると、悲鳴が聞こえた。
「辛い!!!」
「ええ!? 中辛だめだった!?」
「水、水をくれ!!」
僕は慌ててユイに水を出した。ユイはそれをごくごくと飲み干した。
「はあ、はあ、何て危険な食べ物なんだ!? これは!?」
「ちょっとまって、念のために買っておいた物があるから」
僕はそう言うと冷蔵庫から生クリームと、とろけるチーズを出してユイのカレーにかけた。
「あ、美味しくなった!!」
「良かった」
ユイはパクパクと生クリームとチーズでマイルドになったカレーを食べた。
「おかわりはあるのか?」
「沢山作ったから、あるよ」
「じゃあ、おかわり!!」
結局、僕はユイの為に鍋に残ったカレーの味を直して、甘口カレーにした。
「美味しいな、カレーは」
「ユイが喜んでくれて良かったよ」
僕はユイが食べ終わった後、大きな鍋とお皿を洗ってから、大量の豚汁を朝ご飯用に作った。
「お? まだ何か作るのか?」
「明日の朝ご飯だから、食べちゃ駄目だよ、ユイ」
「はーい」
ユイはお風呂に入って、着替えるとソファで寝ようとした。
僕は慌ててお客様用布団をベットの脇に並べた。
「それじゃ、おやすみ、ユイ」
「おやすみ、晴人」
僕たちは眠りについた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】
平木明日香
ファンタジー
年に一度の筆記試験に失敗した『見習い天使』勅使河原サユリは、下界への修行を言い渡される。
下界での修行先と住まいは、夏木りんという先輩天使の家だった。
りんは彼女に天使としての役目と仕事を指導する。
魔族との戦い。
魔法の扱い方。
天使の持つ「属性」について。
下界に転送され、修行を重ねていく最中、街に出現した魔族が暴走している場面に遭遇する。
平和だったはずの烏森町で暗躍する影。
人間の魂を喰らう魔族、「悪魔」と呼ばれる怪物が彼女の目の前に飛来してきた時、彼女の中に眠る能力が顕現する。
——痛快バトルファンタジー小説
ここに開幕!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる