時計技師コンラッド

茜カナコ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

プレゼント

しおりを挟む
 ウッド家は、代々時計職人を生業としていた。

 その家の次男として生まれたコンラッドは、たぐいまれなる時計職人の才能があった。
「コンラッド、今度の仕事の相手は貴族様だ。失礼の無いように気をつけろ」
「分かったよ、父さん、兄さん」

 三人は壁時計の修理を頼まれたブライアント家に出かけていった。
「こんにちは、時計屋です」
「あら、はやかったですね。こちらへどうぞ」

 三人が通されたのは客間で、そこの立派な柱時計が止まっていた。
「この時計ですか?」
「ええ」
 ウッド家の三人は時計と柱に傷を付けないように気をつけて、柱時計を外した。

「それでは来週には直して、こちらにお持ちできると思います」
 ウッド家の父親と兄が時計を運んだ。コンラッドは、ドアを開けたり、ぶつかりそうな物は無いか、すこし先に歩いていた。
 その時、ふいにコンラッドは一人の少女に声をかけられた。

「あの、いまこれを落としましたよ?」
「あ、ありがとうございます。壊れてないと良いけど」
「それは何ですの?」
 少女はコンラッドの手の中の懐中時計をのぞき込んだ。

「これは仕掛け時計です。ほら」
 そう言ってコンラッドが懐中時計を開くと、その中では小さな天使が動いていた。
「素敵!」
 少女は目を輝かせた。

「よろしかったら、差し上げますよ」
 コンラッドは懐中時計を閉じて、少女に差し出した。
「え!? こんな高価な物、頂くわけには……」

「僕の家は時計技師ですから。いくつか、練習のために作ってるんですよ」
 コンラッドはそう言って笑った。
「そうなんですか? それではお言葉に甘えて頂きます」

 少女は懐中時計を受け取ると、それを開いて天使をじっと見つめた。
「何て綺麗なのかしら」
 少女はしばらく時計に見とれていたが、はっとして、コンラッドを見た。

「申し遅れました。私、アグネス・ブライアントと申します」
「僕はコンラッド・ウッドです。よろしく」
 アグネスはポケットに時計をそっとしまうと、手を差し出した。

「よろしくお願いします」
 アグネスとコンラッドは握手をした。
「おーい! コンラッド、帰るぞ!?」
「はい、父さん、兄さん」

 コンラッドは慌てて二人の後を追った。

 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

シャワー

こぐまじゅんこ
児童書・童話
保育園のシャワーのお話。 2歳さん向けです。

月からの招待状

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。 🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。 ●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG ●オチが分かってしまうような画像や説明はNG ●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。 声劇用台本も別にございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

超ポジティブ委員長の桂木くん

またり鈴春
児童書・童話
不登校の私の家に委員長がやって来た。 「この僕がいるのに、なぜ学校に来ないのですか?」 「……へ?」 初対面で、この発言。 実はこの人、超ポジティブ人間だった。 「同じクラスで僕と同じ空気を吸う、 それは高級エステに通ってると同じですよ」 自己肯定感の塊、それが委員長の桂木くん。最初は「変なヤツ」って思ってたけど… バカな事を大まじめに言う桂木くんを、「学校で見てみたい」なんて…そんな事を思い始めた。 \委員長のお悩み相談室が開幕!/

月夜に秘密のピクニック

すいかちゃん
児童書・童話
日常生活の中に潜む、ちょっとした不思議な話を集めたショートショートです。 「月夜に秘密のピクニック」では、森で不思議な体験をする子供達。 「不思議な街の不思議な店主」では、失恋した少女と不思議な店主。 「記憶の宝石箱」は、記憶を宝石に封じた老人と少年というお話です。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

城下のインフルエンサー永遠姫の日常

ぺきぺき
児童書・童話
永遠(とわ)姫は貴族・九条家に生まれたお姫様。大好きな父上と母上との楽しい日常を守るために小さな体で今日も奮闘中。 全5話。

オルゴールの妹と呪われた兄

ミクリ21
児童書・童話
オルゴールの妹はくるくる踊る。

指輪を見つけた王子様

森乃あかり
児童書・童話
森の奥にあるお城にちょっと臆病な王子様が住んでいました。 王子様はみんなで一緒に食事をしたいと思っているのに、自分の気持ちを伝えることができません。 ある日、王妃様から贈られた『勇気の指輪』という絵本を読んだ王子様は、勇気の指輪を探すために森へ出かけていきます。 .・。.・゜✭・.・✫・゜・。. 王子様が読んだ「勇気の指輪」は絵本ジャンルにあります。あわせてお楽しみください。 ※表紙はAI生成したものです。 ※挿絵はありません。

処理中です...