調律師カノン

茜カナコ

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36.古びた館

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 まだうす暗い早朝、カノンは家をそっと抜け出した。
「僕の本当の父さんに会いに行こう……」
 カノンは首にかけたペンダントをぎゅっと握り、前を向いた。

 町を抜け、崖の上の屋敷を目指す。
 草むらの中を歩きながら見上げた空は、薄曇りだった。
「結構遠いんだな……」
 カノンは持ってきた水筒から水を飲み、また歩き始めた。

 太陽が頭の上からすこし逸れた頃、崖の上の屋敷の前に着いた。
「着いちゃった……。これからどうしよう……」
 建物は石でできた高い壁に囲まれていて、正面に門扉がある。

 カノンは門扉が開くか、押してみた。
 ギッギギッときしむ音が響き、扉が開いた。

「失礼します」
 カノンは門扉から中に入った。庭は思っていたよりも手入れされていて、わずかだが花が咲いていた。
 建物の扉の脇には呼び鈴がついていた。カノンは深呼吸をしてから、呼び鈴に着いた鎖を引っ張った。
 カラン、カラン、と硬質な音が響く。

「……だれもいないのかな?」
 カノンが引き返そうとしたとき、ドアが開いた。
「どちら様ですか?」
 召使がドアから顔をのぞかせた。
「カノンと申します。あの、元国王……デリック・アストリー様はこちらにいらっしゃいますか?」
「ご用件は?」
「あの……僕の母さんの話を聞きたくて……」
 そう言ってカノンはペンダントを召使に見せた。

「少々お待ちください」
 召使は扉を開け、カノンを玄関に通した。
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