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34.手紙とペンダント
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翌朝、朝食を食べ終わるとカノンの両親は真剣な面持ちで言った。
「カノン、大事な話をしよう。カノンの聞きたがっていたことだ」
父はきれいに片づけられた食卓に古い手紙とペンダントを並べた。
「カノン、お前は私たちが育てた大事な息子だ。でも、産んだのは母さんじゃない」
「……うん」
カノンは手紙に手を伸ばした。古びた手紙の封は開いている。
「中を見ても?」
「ああ」
カノンは封筒から便箋を取り出し、広げた。便箋には丁寧な文字で、『この子をよろしくお願いします。名前はカノン』とだけ書かれていた。
「カノン、お前は森の教会に捨てられていたんだ」
「え!?」
「父さんと母さんは、子供が授からなくて、毎日森の教会に祈りを捧げに行っていた。そしたらある日、礼拝堂で赤ん坊が泣いていた。……カノンだよ」
カノンは手紙を机の上に戻し、今度はペンダントを手に取った。ペンダントは金色のチェーンと、赤い宝石のはまったペンダントトップで出来ていた。裏には何か紋章が刻まれているようだが、模様が薄くなっていてよくわからない。
「そのペンダントはお前の首に掛けられていた。道具屋で見てもらったら、守りの力が込められていると言われたよ」
「どうして僕に渡さなかったの?」
「お前が……父さんと母さんの子どもではないと気づいたらと思うと……渡せなかった」
カノンの父親は重い罪を犯していたかのように、うつむいて唇をかみしめている。
「カノン、父さんも母さんも。お前のことをずっと、本当の息子だと思っている。今でもそうだ」
「父さん……」
カノンがペンダントを光にかざした。くすんだ金色のチェーンと、赤い宝石が鈍く光る。カノンはそれを机の上に置いた。
「僕を産んだ母さんと父さんは……誰だか分かっているの?」
カノンの問いかけに、カノンの母親は重い口を開けた。
「あなたの本当の父親と母親は……ライラ・クロークと前マジカ国王のデリック・アストリー……かもしれない」
「かもしれない?」
「カノンを見つけた翌日、ライラ・クロークはこの国から追い出され、前マジカ国王のデリック・アストリーは王妃の産んだ息子に王権を譲り、隠居して遠い別荘に引っ越したと聞いているわ。ライラ・クロークとデリック・アストリー前国王は道ならぬ恋に落ちたともいわれていたの」
「でも、それだけじゃ僕の父さんと母さんかわからないじゃない?」
「ペンダントの裏側に、マジカ国の王の紋章が刻まれているでしょう? そして、手紙の文字はライラ・クロークの筆跡とよく似ているわ」
「……それだけ?」
「そう。だから、『かもしれない』と言ったのよ」
カノンはそれ以上何も聞かなかった。ペンダントをもう一度手に取り、父と母に聞いた。
「このペンダントは、僕が持っていてもいい?」
「……いいだろう。もともとお前のものだ」
カノンはペンダントを首に下げてみた。赤い宝石がほのかに光ったような気がする。
「カノン、いままで黙っていて済まない」
「ううん。まだ、父さん、母さんって呼んでもいいのかな……?」
カノンの問いかけに、父と母は涙をこぼして言った。
「父さん、母さんと呼んでくれるのか?」
「だって、僕には父さんと母さんだもの」
「そうか……」
カノンの両親はカノンを抱きしめて、小さな声で言った。
「私たちの大事なカノン、これからもお前は私たちの息子でいてくれ……」
「カノン、大事な話をしよう。カノンの聞きたがっていたことだ」
父はきれいに片づけられた食卓に古い手紙とペンダントを並べた。
「カノン、お前は私たちが育てた大事な息子だ。でも、産んだのは母さんじゃない」
「……うん」
カノンは手紙に手を伸ばした。古びた手紙の封は開いている。
「中を見ても?」
「ああ」
カノンは封筒から便箋を取り出し、広げた。便箋には丁寧な文字で、『この子をよろしくお願いします。名前はカノン』とだけ書かれていた。
「カノン、お前は森の教会に捨てられていたんだ」
「え!?」
「父さんと母さんは、子供が授からなくて、毎日森の教会に祈りを捧げに行っていた。そしたらある日、礼拝堂で赤ん坊が泣いていた。……カノンだよ」
カノンは手紙を机の上に戻し、今度はペンダントを手に取った。ペンダントは金色のチェーンと、赤い宝石のはまったペンダントトップで出来ていた。裏には何か紋章が刻まれているようだが、模様が薄くなっていてよくわからない。
「そのペンダントはお前の首に掛けられていた。道具屋で見てもらったら、守りの力が込められていると言われたよ」
「どうして僕に渡さなかったの?」
「お前が……父さんと母さんの子どもではないと気づいたらと思うと……渡せなかった」
カノンの父親は重い罪を犯していたかのように、うつむいて唇をかみしめている。
「カノン、父さんも母さんも。お前のことをずっと、本当の息子だと思っている。今でもそうだ」
「父さん……」
カノンがペンダントを光にかざした。くすんだ金色のチェーンと、赤い宝石が鈍く光る。カノンはそれを机の上に置いた。
「僕を産んだ母さんと父さんは……誰だか分かっているの?」
カノンの問いかけに、カノンの母親は重い口を開けた。
「あなたの本当の父親と母親は……ライラ・クロークと前マジカ国王のデリック・アストリー……かもしれない」
「かもしれない?」
「カノンを見つけた翌日、ライラ・クロークはこの国から追い出され、前マジカ国王のデリック・アストリーは王妃の産んだ息子に王権を譲り、隠居して遠い別荘に引っ越したと聞いているわ。ライラ・クロークとデリック・アストリー前国王は道ならぬ恋に落ちたともいわれていたの」
「でも、それだけじゃ僕の父さんと母さんかわからないじゃない?」
「ペンダントの裏側に、マジカ国の王の紋章が刻まれているでしょう? そして、手紙の文字はライラ・クロークの筆跡とよく似ているわ」
「……それだけ?」
「そう。だから、『かもしれない』と言ったのよ」
カノンはそれ以上何も聞かなかった。ペンダントをもう一度手に取り、父と母に聞いた。
「このペンダントは、僕が持っていてもいい?」
「……いいだろう。もともとお前のものだ」
カノンはペンダントを首に下げてみた。赤い宝石がほのかに光ったような気がする。
「カノン、いままで黙っていて済まない」
「ううん。まだ、父さん、母さんって呼んでもいいのかな……?」
カノンの問いかけに、父と母は涙をこぼして言った。
「父さん、母さんと呼んでくれるのか?」
「だって、僕には父さんと母さんだもの」
「そうか……」
カノンの両親はカノンを抱きしめて、小さな声で言った。
「私たちの大事なカノン、これからもお前は私たちの息子でいてくれ……」
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