調律師カノン

茜カナコ

文字の大きさ
上 下
25 / 42

25,食堂

しおりを挟む
 食堂のテーブルに着くと、カノンたち三人はため息をついた。
「あーあ、これからしばらくトイレ掃除か……」
 ベンジャミンは頬杖をついて、カノンを横目で見た。
「仕方ないね」
 カノンは両手を組んで、顎を乗せたままベンジャミンを見つめ返した。
「みんな、ごめんね……」
 アデルは手を膝に乗せたまま、うつむいている。

「おやおや、みんなどうしたのかい? カノン、昨日はずいぶんご活躍だったみたいじゃないか?」
 にやにやとしながら、ミランが話しかけてきた。茶色の髪が朝日に照らされ、オレンジ色の目がきらりと輝いた。
「なんだい? ミラン、なにか用?」
「森に探検に行ったんだって? 僕たちはまだ学生だっていうことをわかってないんだね」
 ミランはさげすむような眼で、カノン、ベンジャミン、アデルをじろじろと眺めた。

「あっちに言ってちょうだい、ミラン」
 アデルがしかめ面でいうと、ミランは口元だけで笑って言った。
「アデル、ずいぶん偉くなったんだな。お前のせいで罰掃除をすることになったやつがいるのに」
「それは……」
 アデルは唇をかみ、涙を浮かべて黙り込んだ。

「ミラン、いいかげんにしてよ!」
 カノンが立ち上がると、ミランは一歩下がってから言った。
「カノン、ちょっと調律魔法が使えるからって調子に乗るなよ? 調律魔法士は血の気が多いらしいからな……国を裏切ったやつもいるし」
「え?」
 カノンが聞きなすと、ミランは右手をひらひらと動かしながら首を振った。
「お前、知らないのか? まあ、わざわざ教える義理もないしな……」
 ミランはそれだけ言うと、カノンたちを嘲笑するような表情をのこし、立ち去った。

「国を裏切った調律魔法士……ベンジャミン、アデル、何か知ってる?」
「うーん……」
「……私、すこしだけ……お母さんから聞いたことあるかも……」
 アデルはうつむいたまま、小さな声で言った。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...