調律師カノン

茜カナコ

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20.変身魔法

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「それではみなさん、席に着きましたか? 今日の変身魔法は少し難しいですよ」
 変身魔法を教えてくれる二コラ・テルス先生は、白髪をなでながらグレーの目で生徒たちを見回した。口元には穏やかな笑みがたたえられている。
 二コラ先生は変身魔法の説明をしてから言った。
「それでは実技にはいりましょう。今日はみなさんにネズミになってもらいます。ネズミになった姿を強くイメージして、呪文を唱えてください」

 みんな、鼻だけとがったり、しっぽが生えたり、教室は大騒ぎだった。
「カノン、うまくいったか?」
 右手だけ小さくなったベンジャミンがカノンに話しかけた。
「うーん、むつかしいなあ」
 カノンの耳は小さくなり、ピコピコと動いている。

 授業の終わりには、クラスのみんなもカノンたちも、小さなネズミに変身することができるようになっていた。
「今日の変身の授業は面白かったな」
 ベンジャミンが夕食の時にカノンに言った。
「うん、楽しかった」
 カノンがアデルのほうを見ると、アデルは豆のスープをスプーンですくっては皿に戻していた。

「アデル? やっぱり何かあったの?」
「カノン……」
 アデルはカノンを見つめた後、ぽつりと言った。
「あの……お母さんが……学園のそばの森に薬草を取りに行ったまま、帰ってこないって……手紙に書いてあったの」
 
「アデル……」
 カノンはちょっと考えてから言った。
「……探しに行こう」
「でも、どうやって?」
 カノンはアデルの耳元で小さな声で言った。

「ネズミに変身して、学校を抜け出そう」
 アデルは真剣な表情で頷いた。
「カノン、アデル、内緒話かい? 俺も混ぜてよ?」
 ベンジャミンが肉のソテーをほおばりながら、カノンたちに話しかけた。

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