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3オーロラ姫

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きゃっ!う、うそ!!
「しーっ。静かに」
悪友の樹里に呼び出され真夜中。
わざわざ大道具なんかが並んでいる小ホールの舞台裏へやってきた。
懐中電灯を頼りに樹里の後に付いてきた玲於奈は悲鳴を挙げそうになった。

積み上げられた椅子の隙間から見えるのは――――
「ちょっ。あれ、衣装だわ」
玲於奈が大きな声をあげそうになったところを樹里の手が口を塞いだ。
「静かにしてよ。あんた。もう。衣装どころじゃないでしょ」
大きなクラシック・ボンのスカートが水平に円を描いて腰から広がっている。
遠目にも下村鞠が薄いピンクのオーロラの衣装を身に着けているのが判る。
頭にカッと血がのぼる「神聖な衣装を!!」

―――――あっ。ああああ。うううっ。んん。んんん


最高位にあるプリマ式部様とその御付きの少女が二匹の蛇のように絡み合っている。
金襴織の天蓋が四本の支柱のうえにある、
百年の眠りについたオーロラ姫が王子のキスで目覚めるベッドは大切な大道具だ。
寝台のうえにある枕もシーツ類もキラキラとしたラメが光っていた。
側のテーブルに蝋燭が入れられた古風なランプが置いてある。
そのほの明るい光でつぶさに見えるのは濃厚な愛の交歓だった。

辺りの湿度がしっとり高くなったよう。
「これって、つまり式部様はあの子が好きってこと?」玲於奈にはその事実が受け入れ難い。
「黙って玲於奈」
「あの人達に聞こえやしないわ」

団で一番小柄な木下鞠が最高位に位置するプリマの紫雨カノンの膝を割って
その秘所に顔をうずめているのが視える。

―――――クチュクチュ ジュジュジュル
あそこを舐めている。きっとクリトリスも華襞もその奥も。

髪を振り乱してカノンが
枕と反対側に紫雨カノンが両手で自分の黒髪を掴んで喘ぎ悶えている。
こんなしどけない姿も美しい。

のけ反って快感に蕩けた顔も双丘も露わだ。

普段、自分の意思というものがあるのかしらと思うほどおとなしい下村鞠。
『妖精』がはまり役だ。
「空気の精が一番お似合いね。普段も空気的でしょ」などと陰口を叩かれている。
その彼女が、団のプリマで皆の憧れ式部様の腿をがっしり捕まえて離さない。
『身分制度』が逆転しているではないか。
段々、紫雨カノンの脚が段々開いてゆく。
鞠が全能の神さながらに振る舞う。
細い腕が伸びてでカノンのデコルテを撫で両の乳房を揉みしだいた。

―――――ああああっ、ま、ままりっーーーー 
二人とも日光を避けて生活しているため真っ白でほっそりした躰は白蛇を想像させる。
カノンの乳房は大きく乳輪も大きかった。
小さな膨らみの双丘がツンと上向いて先端の小さな乳首は桜色だ。
それは鞠の若さの象徴だった。
首のラインも細く滑らかだ。

レッスン場、嘗てこれほど彼女に存在感があったことはない。
それに綺麗ーーーとっても。

「式部様の光の陰に隠れていたのね。あの子。これから伸びるかも。綺麗なスタイルだわ」
自分と同じ意見を言う樹里にわけもなく腹が立った。

――――なによ。あんな子が日の目をみるとは思えないわ。
式部様が後押ししたって結局は実力がものをいうこの世界だもの。

いきなりシックスナインの態勢に変わった。
式部様が上になり鞠の秘所に唇を這わせた。
下になった鞠は更に激しく恋人の蜜の滴る秘貝を貪っている。


――――はあ はああ。ああ。あああ。んん、あっ!あっ!
式部様の腰が高くあがって乳房が鞠の平たい腹の上で潰される。
鞠の両腕が相手の尻を愛しそうに撫で腰に回されて強くホールドしていた。
完全に鞠がリードしてる。意外だわ。玲於奈は思う。


あっ!

反転して、カノンが鞠に馬乗りになった。
シルク地の枕の下から取り出したのは大きなサイズのバイブだ。

ヴィィィィィィィ ヴヴヴヴィイイイ

機械音が鳴って見物していた二人は息を呑んだ。

ん!ううっ。
あああああああっああっあっあああ!
イやぁ。だめええ。それはイやあ。式部様っ!

汲み敷かれたオーロラ姫の涙が光る頬に太い先端が反り返ったバイブの先を当ててる。
それは首筋をなぞり右の乳房の周りをゆっくり刺激した。

あっああああ。あん ああ  い、いいいや

「これが好きなくせに泣いても無駄よ、鞠」
細い腰のラインをなぞり思いっきりスカートを広げ何も身に着けていない襞へと降りた。

きゃあ ああああああっ!あああー――あああーーー

巧みに動くバイブの先が多分クリトリスを虐めているのだろう。
鞠はイヤイヤと首を振りながら泣いた。
「ふふ。かわいいわよ。ここはどう?」
鞠の躰が大きくうねった。
華襞奥へ埋められているのだわ。
玲於奈にも判る。
きっととっても気持ちいいんだわ。
美しい式部様にあんなにされたらーーーわたし、わたしだったら??

「ベッドで泣くのは毎回ね。ふふふ」
切れ長の瞳に弧を描く眉。残忍ともいえる表情でカノンは華奢で今にも折れてしまいそうな鞠を嬲って薄ら笑いを浮かべる。
「とっても可愛いくってよ、鞠」


鞠の着ている衣装はスカートもひしゃげ、胸の宝石も取れかかっていた。
よれよれの肩紐も大きくずらされる。
右手が塞がっているカノンは左手で鞠の右胸を優しく揉んだり乳首を摘まんで口に含んだりを繰り返す。

苦悩の表情で顔を背ける少女を薄明るいライトが浮かび上がらせている。
犯されるオーロラ姫。
官能の色香に全身を包まれた下村鞠は『マノン』の役もこなせそうだ。

なんだろ。
変なカンジ。
わたしったら!カンジテルんだわ。
こんな場面を見せられてあそこが濡れている。
早く自分のベッドに戻りたい、直ぐに。
「ねえ。見つかるとやばいし。もう眠い。かえろ?」
「ふん。そうね」



その日の昼間は、
次の日は一般科目を返上して、
バーレッスンのあと今年の12月公演『くるみ割り人形』の個別レッスンが始まった。
ピーターライト版のため、クララに選ばれても玲於奈は脇役である。
主役はプリマである紫雨カノンが躍る金平糖の精だ。



―――なんて美しい。日本人でもあんな脚を持ってるなんて!
この団のプリマである紫雨カノンは身長は168センチある。
手足は長く特に膝から下が弓なりに反りかえっている。その先には高い甲がカーブしている。
生まれつきこの形の脚だったそう。
普通は厳しいアスリート顔負けの鍛錬の末に造り上げる脚なのに。

『選ばれた者がバレエを踊る』それは西園寺校長の口癖だった。

その上、なで肩で指が長い。勿論、顔は小さく東洋人離れしている。
「メイクが薄いわよね。式部様」
「元がいいから」
「でも相手役がいないとはねぇ」
「あの長身だから仕方ないわ。外国からゲストを呼べばいいだけよ」
「あら。知らないの?その度に物凄い出費らしいわよ。90万とか」
「いいじゃない」
「そうよ。オペラ座級でしょ」

紫雨カノンは下級生達に敬意を込めて「式部様」と呼ばれている。紫式部の「式部」だ。
玲於奈もプリマのカノンには憧れていた。
「ねえ。玲於奈」
カノンと仮の相手役男子がパ・ドゥ・ドウを練習しているのに見入っていたのを邪魔され
「何よ。後にしてよ。樹里」
「ふふふ。なんともなあ。憎いことで。式部様も」
もったいぶった言葉を耳元で囁かれ苛々して振り向いた。
「早く言いなさいよ」
「式部様って今回が引退公演になるらしいわよ」
「え!?」
「驚くわよね。でも花盛りで幕引きしたいところよ。
こうなるとヒエラルキーが変わってくるわよね。
あなたなんか一足飛びにプリンシパルだったりして」
生唾を飲む。それはあり得る。厳しいピラミッド型の『身分制度』が敷かれている。
トップはプリマ。ファーストソリスト・ソリスト、ファーストアーチスト、アーチスト、準団員、その他。
今時は「プリマ」を「プリンシパル」という。
「でも。あの『小間使い』があとを継ぐかもね。ふふふ」
「玲於奈も意地悪ね。あの子って不思議な存在よね。
とんでもなく花開くか、その逆か?みたいな感じ。
「一生、あのまま式部様の御付きの人で終わりでもいいんじゃない?」
「どうして?」
「『クロウサギ』ですもん。既に」そう口にして樹里はしまったという顔をした。
「え?くろ?うさぎ?」
「なあんでも。なんでもないよ」
「なんなの?」
「クロネコヤマトの宅急便でうちからクッキーの缶が届いたの御裾分けするわ」

感嘆の溜息がどよめく。
白いスクリーンで直射日光を遮っているものの大きな天窓から射す柔らかい自然光がスポットライトになっている。
薄紫のレオタードに白いロングの巻きスカートがふわりと躰に巻き付くカノンが汗一つみせずにピルエットを5回転やってみせたのだ。
総裁が「ダメだ!ここは三回だろ。
多く回ればいいわけじゃない。おまえさんが知らないわけないよな」と怒鳴る。
余裕の笑みを浮かべて「なんとなくね。こうしたかっただけよ」

人間離れした軽いステップは重力が無いのかと思わせるプリマの踊りにみんなが見とれている中で同級の玲於奈と樹里はそっと輪から離れた。


「すっごい秘密。教えてあげる」
「何よ。もっと式部様の踊り見てたかったわ」
友に半ば強引に腕をひっぱられバックステージの隅の暗がりに連れ込まれた。
「だからぁ。あのね。怒らないで聞きなさいよ。なんと」
「なに?」もったいぶった樹里から情報を引き出すにはひたすら待つしかない。本人が満足するまで。
悪いニュースは一番に自分が喋りたいという種類の女だ。
「あのね耳かして」
煤けたカウチに座ったなり鞠が玲於奈に耳打ちする。
「うそ!!」
「今晩。現場を押さえましょうよ。あたしだけなのよね。知ってるのって。
ヒエラルキーに風を通してもいい頃よ。
特に小間使いが私たちの上に組み込まれたらあなた平気?18ですって」
ぶんぶんと玲於奈は首を振った。
そんなの許せない。
ずっと年下で式部様の身の回りの世話をしている地味な子が贔屓だけで自分の上に立ったら悔しくて堪らない。
いや。それより普通のレッスン場で時々視線が下村鞠に吸い寄せられることがあるのに今更気づいた。
眼にひっかかるーーーそれは『華がある』のかもしれないーーーううん。
玲於奈は首を振って自分の考えを否定した。
でも、今回の『くるみ』で一応は「友人役」の一人に選ばれている。見る人には「才能」があると判るのだ。
「あのね。18っていう嘘みたい」
「はあ!?上なの?下!?」
樹里は謎めいた顔で笑い「今夜、小ホールで面白い場面がみられるのよ」と玲於奈を誘ったのだった。






次の日の朝。
朝食のカフェテリアのテーブルで、
「ねえ。玲於奈。昨日のことだけど」スクランブルエッグにベーコン二枚。
軽焼きパン一切れ。バナナとヨーグルト。御粥の一鉢が樹里の前に並んでいる。
「うん」ブルーベリーソースのかかったブラマンジェをスプーンでつつく玲於奈は憂鬱な気分だった。
「ウソみたいね。時々、鞠が式部様と第三スタジオ使ってるの見てね。これは秘密の特訓してるんだ。鞠、マジでズルい。そう思ったの。あの自主練で使えるスタジオの鍵ってなかなか回って来ないでしょ?でもやっぱり式部様の力はすごいわけよ。あの二人は一か月に一回は使ってる。そんな特訓なら私だって受けたいわ。だからーーー追求しちゃったわけ。その結果が昨日のアレだったの。百合かぁ」
「うん」横目で「樹里。食べすぎ。太るよ。第三スタジオだけ廊下窓ないよね。外から覗けない」
「秘密特訓のためでしょ窓ないの。動画、どうしよ。スマホで撮ったの昨日の」
「え?」
玲於奈は、まさか樹里がそんな大胆な事をしていたとは隣にいて気づかなかった。
でもはっきりさせておきたい、
「アイツを蹴落としてもいいわ。でも式部様に迷惑かかるなら、やんない。何も。それは樹里も同じでしょ」
「玲於奈はいいんだよね。ソリストだし。私なんかアーチストのままだよ。ずっと」
「昇格のために誰か脅すの?」
「それはーーーね。わかったよ!やめとく取り合えず」






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