5 / 7
チェシャ犬の忠告
しおりを挟む
木の上。
張り出した太い枝に頬杖をついて男が微笑む。
「誰だ、」
『どうも、アリス。わたしは、チェシャ猫、・・・と言っても犬なんですけどね。ふふふ、』
「・・・なんだよ、それ。」
笑顔を絶やさない男の頭には、耳。
尻尾も生えているようだが、たしかに猫というよりもフサフサの犬毛だ。
「笑ってないで助けてくれないか? 」
『あ~、すみません。私、あなたたちに興味ないんですよ。というか、どうなっても関係ない? 』
あくまで頬笑みを絶やさず毒を吐く。
逞しい体つきと柔和な顔立ちのなかなかの男前だが、親切ではなさそうだ。
「・・・なんてやつだ。」
『でも、アリス。』
「なんだよ、」
『私、高いところって得意じゃないんですよね~。一応、上ってみたんですけどね。降りるのを手伝ってくれたら、あなたの質問に一つ答えてあげても良い。』
「えぇ? 」
大きいお兄さんの踏み台になるという屈辱を味わったアリスだが、チェシャ猫(犬)は和やかに笑っている。
「いや~、助かりましたよアリス。私は、チェシャ猫の黄耳。高い所になど上るものでは、ありませんね。やはり猫は、嫌いです。」
「もう上らないでくれよ・・・・」
「大丈夫、アリス? 」
きょとん、としているアレンに「お前のためだろう」と言いたいのをぐっと飲み込む。
「で、助けたんだから約束通りに」
「ええ、質問は一つだけ。慎重にどうぞ。」
「この白いバラ、どうにかならないかな? 」
「そんなことは知りません。」
「なっ!! 」
「質問は以上ですか? では、私はこれで。」
「ちょっちょと待って! さすがにそれは、酷いんじゃないか?! 」
「アリス、チェシャ猫はいつもあんな感じだよ? 」
「・・・質問を変えるよ」
「はぁ、なんですか? わたし、これでも忙しいんですよ。夫人の元に帰らねばなりませんし。女王様の様子も覗きに行きたいし・・・」
「困ったなぁ」と、言いつつ笑顔を浮かべる。
「女王様を知ってるのか、女王様って、どんな人なんだ? 教えてくれないか」
チェシャ猫は、少し首を傾げてアリスを見つめ返した。
「・・・あの人は、優しい人ですよ。」
「え? 」
帽子屋は、「美しいが、怖い人」と言っていた。
庭師も「怒られる」と、怯えている。
「優しい、のか。」
呟くアリスにチェシャ猫が微笑む。
「親切なアリスに一つ助言を与えてあげましょう。」
人差し指を唇にあてて怪しくほほ笑む。
「このゲームに勝ちたければ、“エース”を引かないこと。」
「は? ゲームって、」
音もなく、空から降り注ぐ大量のトランプ。
赤、黒、赤、黒・・・
ひらひらと舞い、すぐに足元に積って山を作っていく。
「エースは、躊躇わない。」
ーーThe Hearts of Ace. 女王様が最も信頼を置く、最高のカード。
「エースは、一番早く動くカード。彼は、女王様のためならあなたを殺せる。きっと誰のことも同じように斬れる。誰もアリスを傷付けられない。けど、エースは違う。」
囁くようにチェシャ猫は、歌う。
「アリス、皆にとってあなたは特別だ。だけど、彼にとっての“特別”は、あなたじゃないんですよ。」
その頬笑みがトランプの嵐に掻き消されていく。
そして、アリスの手元に残ったカードは、一枚。
「・・・・あ」
覗きこんだ庭師が微妙な顔をする。
「―――ハートのエース、かよ。」
呆然とするアリスの耳に、奇妙な音が届く。
「ん? 」
「あー・・・ごめん、お腹すいちゃって・・・」
お腹を押さえるアレン。
歳の割に無邪気な庭師の笑顔に吊られてアリスも肩の力を抜いた。
「君は、女王様ってどんな人か知ってるかい? 」
「うん。お城のお庭で仕事をしているとたまに見かけるよ。」
「そう」
「とっても綺麗な人だよ。」
「やっぱり美人なのか・・・君が言うんだから綺麗なんだろうな。」
「ふふっ、」
帽子屋も顔の綺麗な男だった。
アリスが乙女ならこの世界は、さぞかし甘い世界だっただろう。
「でも・・・女王様は、淋しそうだよ。」
「え? 」
「とっても寂しそうな眼をしている。きっと悲しいことがあったんだろうね、」
「そうか・・・」
いったいどんな人なのだろう、アリスはエースのカードをポケットにしまって首を傾げた。
張り出した太い枝に頬杖をついて男が微笑む。
「誰だ、」
『どうも、アリス。わたしは、チェシャ猫、・・・と言っても犬なんですけどね。ふふふ、』
「・・・なんだよ、それ。」
笑顔を絶やさない男の頭には、耳。
尻尾も生えているようだが、たしかに猫というよりもフサフサの犬毛だ。
「笑ってないで助けてくれないか? 」
『あ~、すみません。私、あなたたちに興味ないんですよ。というか、どうなっても関係ない? 』
あくまで頬笑みを絶やさず毒を吐く。
逞しい体つきと柔和な顔立ちのなかなかの男前だが、親切ではなさそうだ。
「・・・なんてやつだ。」
『でも、アリス。』
「なんだよ、」
『私、高いところって得意じゃないんですよね~。一応、上ってみたんですけどね。降りるのを手伝ってくれたら、あなたの質問に一つ答えてあげても良い。』
「えぇ? 」
大きいお兄さんの踏み台になるという屈辱を味わったアリスだが、チェシャ猫(犬)は和やかに笑っている。
「いや~、助かりましたよアリス。私は、チェシャ猫の黄耳。高い所になど上るものでは、ありませんね。やはり猫は、嫌いです。」
「もう上らないでくれよ・・・・」
「大丈夫、アリス? 」
きょとん、としているアレンに「お前のためだろう」と言いたいのをぐっと飲み込む。
「で、助けたんだから約束通りに」
「ええ、質問は一つだけ。慎重にどうぞ。」
「この白いバラ、どうにかならないかな? 」
「そんなことは知りません。」
「なっ!! 」
「質問は以上ですか? では、私はこれで。」
「ちょっちょと待って! さすがにそれは、酷いんじゃないか?! 」
「アリス、チェシャ猫はいつもあんな感じだよ? 」
「・・・質問を変えるよ」
「はぁ、なんですか? わたし、これでも忙しいんですよ。夫人の元に帰らねばなりませんし。女王様の様子も覗きに行きたいし・・・」
「困ったなぁ」と、言いつつ笑顔を浮かべる。
「女王様を知ってるのか、女王様って、どんな人なんだ? 教えてくれないか」
チェシャ猫は、少し首を傾げてアリスを見つめ返した。
「・・・あの人は、優しい人ですよ。」
「え? 」
帽子屋は、「美しいが、怖い人」と言っていた。
庭師も「怒られる」と、怯えている。
「優しい、のか。」
呟くアリスにチェシャ猫が微笑む。
「親切なアリスに一つ助言を与えてあげましょう。」
人差し指を唇にあてて怪しくほほ笑む。
「このゲームに勝ちたければ、“エース”を引かないこと。」
「は? ゲームって、」
音もなく、空から降り注ぐ大量のトランプ。
赤、黒、赤、黒・・・
ひらひらと舞い、すぐに足元に積って山を作っていく。
「エースは、躊躇わない。」
ーーThe Hearts of Ace. 女王様が最も信頼を置く、最高のカード。
「エースは、一番早く動くカード。彼は、女王様のためならあなたを殺せる。きっと誰のことも同じように斬れる。誰もアリスを傷付けられない。けど、エースは違う。」
囁くようにチェシャ猫は、歌う。
「アリス、皆にとってあなたは特別だ。だけど、彼にとっての“特別”は、あなたじゃないんですよ。」
その頬笑みがトランプの嵐に掻き消されていく。
そして、アリスの手元に残ったカードは、一枚。
「・・・・あ」
覗きこんだ庭師が微妙な顔をする。
「―――ハートのエース、かよ。」
呆然とするアリスの耳に、奇妙な音が届く。
「ん? 」
「あー・・・ごめん、お腹すいちゃって・・・」
お腹を押さえるアレン。
歳の割に無邪気な庭師の笑顔に吊られてアリスも肩の力を抜いた。
「君は、女王様ってどんな人か知ってるかい? 」
「うん。お城のお庭で仕事をしているとたまに見かけるよ。」
「そう」
「とっても綺麗な人だよ。」
「やっぱり美人なのか・・・君が言うんだから綺麗なんだろうな。」
「ふふっ、」
帽子屋も顔の綺麗な男だった。
アリスが乙女ならこの世界は、さぞかし甘い世界だっただろう。
「でも・・・女王様は、淋しそうだよ。」
「え? 」
「とっても寂しそうな眼をしている。きっと悲しいことがあったんだろうね、」
「そうか・・・」
いったいどんな人なのだろう、アリスはエースのカードをポケットにしまって首を傾げた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる