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『The clooked moon. ~歪んだ月~』
ーーレンは、俺が欲しくないの?
キエナは、誘う。
後ろ手に戒めれた手が痛いと、露骨に嘆いて見せる。
細い首を傾げて、もっとそばに来てほしいと囁く。
暗い部屋の中、キエナの赤い瞳だけが真っ直ぐに鋭い光となってレンの胸を刺す。
(くっ…)
痛い、と思えるほどの飢え。
欲望以上の感情。
キエナは、誘う。
人の欲望を掻き立てて、乱して、そして思いのままに殺してしまう。
そういう生き物なのだ。その性、魔。
他人のスピリットを奪い、食い尽くす。
まさに魔性の業。
「マンイーター、」
「ふふっ…そんなことしない。俺はマンイーターみたいに効率の悪いことは、しない。知っているだろ? 」
「同じようなものだろ…肉体を食すか、精神を食すかの違いしかない。」
嘲笑うキエナが憎い。
そして、愛おしい。
「ねぇ、…」
ねぇ、
ねぇ、
耳の奥に粘りつく声。
「ダメだ…」
「まだなにも言っていない、」
「そうだけど…」
視線を反らすレンに構わず、キエナは少し上体を捻った。
白い素足が艶かしく絨毯を撫でる。
「これ、外してよ」
ジャラジャラと音を立てる鎖。
椅子に座したままキエナは、後ろ手に拘束されている。
首輪から伸びた細い鎖が手錠に連結されている。
足首にも同じように枷がつけられた。
その鎖は、全て背後の壁に穿(うがたれ)た杭に繋がっている。
ホテルの一室。
突貫の拘束具だが、奏者の術が効いている。
明かりは、つけない。
見つめあう奏者とスペルバ。
「ねぇ」
「っ…だめだ。」
「レン、」
親しみを込めて呼ぶ。
「苦しい」
「…わかってる」
捕らえたのは、レン。
明日になればキエナは、もっと厳重な場所に移送される。今夜は、奏者である自分が見張らなければならないだろう。
「レン…」
零れる溜め息。
「痛い、」
「キエナ…」
痛い、苦しい、キエナがそう言う度に、レンは目を反らした。
「…はぁ…っ」
苦しいというのは、本当だろう。うっすらと浮かんだ汗。
僅かに乱れる息。
スピリットを欲する彼にとって、スピリットを制限されることは、この上ない苦痛。
「我慢してくれ。」
「外してくれないのなら…せめて、こっちに来てよ」
「…でも」
躊躇うレンにキエナは、首をかしげる。白い首がそのまま折れてしまいそうな錯覚に陥る。
「噛みついたりしない。もっとそばに来てよ…レン」
「レン。」キエナが、そう呼ぶから拒めなくなる。
「キエナ、…っ」
どうにもならない。
ただ、近づきたい。その一心でレンは、キエナとの距離を縮めてしまった。
「ん、…いいよ。レン、もっと」
嗤う。
暗闇すら焼き尽くすほどの赤い瞳。
膝まずいたレンを見下ろす瞳は、おそろしく冴えていた。
「キエナ、…っ」
自由にならない腕の代わり、とばかりにキエナは足を伸ばす。白く浮き立つ肌。その爪先が器用にレンの胸をつつく。
「レンは、俺がほしくないの? 」
「うっ」
「俺は、ほしいよ。レンが欲しい。」
囁く。
「教えて、レン…」
とろけるような笑み。冷たい瞳。囁きは、夢への誘い。
甘く痺れるような痛み。
キエナの爪先は、悪戯にレンを踏みつける。直接的な快楽と、もどかしさにレンは、息を詰める。
「俺も…俺もキエナが欲しいよ」
「なら、」
つ、と足がレンから離れる。
その軌跡を追ってしまったのも、足首を掴んでしまったのも本能としか言いようがない。
「レン…? 」
「愛してる、愛してるんだ…キエナ」
僅かに驚いた後、キエナはすぐに目を細めた。
「そう、…俺も、だよ…レン? 」
ーーレンは、俺が欲しくないの?
キエナは、誘う。
後ろ手に戒めれた手が痛いと、露骨に嘆いて見せる。
細い首を傾げて、もっとそばに来てほしいと囁く。
暗い部屋の中、キエナの赤い瞳だけが真っ直ぐに鋭い光となってレンの胸を刺す。
(くっ…)
痛い、と思えるほどの飢え。
欲望以上の感情。
キエナは、誘う。
人の欲望を掻き立てて、乱して、そして思いのままに殺してしまう。
そういう生き物なのだ。その性、魔。
他人のスピリットを奪い、食い尽くす。
まさに魔性の業。
「マンイーター、」
「ふふっ…そんなことしない。俺はマンイーターみたいに効率の悪いことは、しない。知っているだろ? 」
「同じようなものだろ…肉体を食すか、精神を食すかの違いしかない。」
嘲笑うキエナが憎い。
そして、愛おしい。
「ねぇ、…」
ねぇ、
ねぇ、
耳の奥に粘りつく声。
「ダメだ…」
「まだなにも言っていない、」
「そうだけど…」
視線を反らすレンに構わず、キエナは少し上体を捻った。
白い素足が艶かしく絨毯を撫でる。
「これ、外してよ」
ジャラジャラと音を立てる鎖。
椅子に座したままキエナは、後ろ手に拘束されている。
首輪から伸びた細い鎖が手錠に連結されている。
足首にも同じように枷がつけられた。
その鎖は、全て背後の壁に穿(うがたれ)た杭に繋がっている。
ホテルの一室。
突貫の拘束具だが、奏者の術が効いている。
明かりは、つけない。
見つめあう奏者とスペルバ。
「ねぇ」
「っ…だめだ。」
「レン、」
親しみを込めて呼ぶ。
「苦しい」
「…わかってる」
捕らえたのは、レン。
明日になればキエナは、もっと厳重な場所に移送される。今夜は、奏者である自分が見張らなければならないだろう。
「レン…」
零れる溜め息。
「痛い、」
「キエナ…」
痛い、苦しい、キエナがそう言う度に、レンは目を反らした。
「…はぁ…っ」
苦しいというのは、本当だろう。うっすらと浮かんだ汗。
僅かに乱れる息。
スピリットを欲する彼にとって、スピリットを制限されることは、この上ない苦痛。
「我慢してくれ。」
「外してくれないのなら…せめて、こっちに来てよ」
「…でも」
躊躇うレンにキエナは、首をかしげる。白い首がそのまま折れてしまいそうな錯覚に陥る。
「噛みついたりしない。もっとそばに来てよ…レン」
「レン。」キエナが、そう呼ぶから拒めなくなる。
「キエナ、…っ」
どうにもならない。
ただ、近づきたい。その一心でレンは、キエナとの距離を縮めてしまった。
「ん、…いいよ。レン、もっと」
嗤う。
暗闇すら焼き尽くすほどの赤い瞳。
膝まずいたレンを見下ろす瞳は、おそろしく冴えていた。
「キエナ、…っ」
自由にならない腕の代わり、とばかりにキエナは足を伸ばす。白く浮き立つ肌。その爪先が器用にレンの胸をつつく。
「レンは、俺がほしくないの? 」
「うっ」
「俺は、ほしいよ。レンが欲しい。」
囁く。
「教えて、レン…」
とろけるような笑み。冷たい瞳。囁きは、夢への誘い。
甘く痺れるような痛み。
キエナの爪先は、悪戯にレンを踏みつける。直接的な快楽と、もどかしさにレンは、息を詰める。
「俺も…俺もキエナが欲しいよ」
「なら、」
つ、と足がレンから離れる。
その軌跡を追ってしまったのも、足首を掴んでしまったのも本能としか言いようがない。
「レン…? 」
「愛してる、愛してるんだ…キエナ」
僅かに驚いた後、キエナはすぐに目を細めた。
「そう、…俺も、だよ…レン? 」
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