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冒険者だからって冒険するわけではない

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-昼過ぎの酒場

「あぁ、綺麗なねぇちゃんとイチャイチャして酒飲みて~。チェルビー...お酒が欲しいです」
酒場のテーブルにうつぶせながら懇願するジェスター。
冒険者になって数日。
色んな手続きやら、講習やらが終了しやっと依頼を受けてもいいという状況になった昨今。
しかし、やる気が起きない、明日があるさと酒場に入り浸る毎日が今日まで続いている。
諫める筈のチェルビーも同じくだらけていた。
似た者同士の二人。
しかし、現状を俯瞰しヤバいと判断したチェルビーはやる気に満ち満ちているが、ジェスターは変わらない。
二人の違いはこの違いだろう。
その為、本日の二人のモチベーションは大きく違っている。

「ダメよ、しっかり依頼を受けたらお酒くらい飲んでもいいわよ」
都市部に来る前の馬車の中でのひと悶着により、ジェスターの財布はチェルビーが管理することになっている。
その為、酒を飲むにしてもチェルビーの許可がいる状況。
それゆえに、チェルビーの方がジェスターよりも立場が上になっているのだ。

酒を飲むには金が要ると言う当たり前の仕組みを身をもって理解したジェスターはゆっくりと腰を上げる。
彼もそろそろ動かねばと思っていたようですんなり事が運んだことに少し驚くチェルビー。
「しゃーなしだなぁ...」
のそのそと歩みを進め、依頼が張り出された壁へ向かう。
この酒場の一階部分は、酒場エリアと受付エリアの二つに分けられる。
その受付付近にある壁には、依頼と言う名の紙が張り出されている。
この依頼は、誰でもここの受付を通して出すことができ、冒険者の手を借りたいという人はこぞって依頼をする。
冒険者たちは対価となるカネ、その他の物品を求め、生活を送っているというわけだ。

そんな先輩達に倣って、生気のない目をしながら、張り出される依頼書を眺めていくジェスター。
無言で視線をさまよわせるジェスターが声を上げたのは数分後。

「おぅい、チェルビー、この依頼受けようぜ」
ジェスターが手頃な依頼を見つけたらしくチェルビーを手招きする。
駆け寄りジェスターが指さす依頼を覗く。

「どれどれ....あぁ、大通りの八百屋さんからの依頼ね。うん、いいわよ」
壁に張り出された"依頼書"を手に取り、受付に持っていき、手続きを進める。

提出するのは、可愛いと二人の間で話題の受付嬢さんの受付だ。
「ジェスターさん、チェルビーは偉いですねぇ」
差し出された依頼書を受け取った可愛い受付嬢さんは何かに感心しているようだ。

「まぁ、俺は偉いの擬人化した姿だかんな。おい、チェルビー、偉い俺に酒をよこせ」
「はいはい、依頼の後でね。...それより何が偉いんですか?」
調子に乗るジェスターを軽くあしらい、チェルビーは受付嬢の言葉の真意を聞く。

「あぁ、初心者の方は直にモンスターの討伐をしたい!! とか地味な仕事はしたく無い!! と仰る方が多いもので...おふたりのように初心者のうちから進んで細々した依頼を受ける方は珍しく...」
「あぁ..成程。」
尻すぼみになっていく受付嬢の言葉に納得した2人。

「確かに、冒険者といえばモンスターを倒し輝かしい栄光を!! とかのイメージを持っても不思議ではないか...」
「はい、更に言うと、適正を持っている方は...その危険を省みないでモンスターに挑むケースが多発しまして。ベテランの方々にそれとなく新人を観ておいてくれと頼んでいる次第なのですよ」
「まぁ、突然、不思議な力がバンバン使えて、尚且つ、華々しい冒険者としての活躍をイメージしている人なら、そうなっちゃうわよね..」
チェルビーも理解はできると同意した。

「その点、おふたりは堅実な選択肢を取っておりますし、何と言うか自分の力を先ずは理解しようとなさっているので、私共の間では評判良いですよ!」
「適正もそうだが、まぁ、戦うのって面倒だしな」
「肉体労働は村での作業で慣れてるし、なんか怖いしね」
ねぇーと声を揃える。
普段は憎まれ口を言い合う二人だが、その思考回路は似通っており、何をするにも面倒と言う結論を出す。
十数年も一緒に居られるのも、この要素が大きい。

二人の妙な中の良さに微笑みながらテキパキと書類を整理していく。
しゃべりながらも手は休ませない、受付嬢の手本の様だ。
「最初のうちはそれでいいのです。焦って力をつけるよりも大切な事がこのような依頼から学べますから!」
「...大切なこと..?」
「ですか...?」
またもや二人の頭に疑問符が浮かぶ。
早急に考えを放棄する癖のある二人には当然のことながら答えは分からない。

「はい、冒険者にとって大切なことですよぉ....ほほほい...はいっ! 手続き完了です。依頼主さんには此方から連絡しますので、記載の場所へ向かってください」
何やら引っかかる物言いに、妙なむず痒さを覚えたが依頼が先決と気持ちを切り替える。
依頼書に記載された場所を確認し、酒場を後にする。

「いってらっしゃい!!」
手を振る受付嬢、ギルド職員達も酒場を後にする二人を見送る。
「いってきまーす」
太陽の光に目を細めながら、姿勢悪く歩くジェスターが寝起きのような覇気が感じられない声で返す。
チェルビーは受付嬢と談笑していたのか、気付いた時にはジェスターの背中が見えなくなりそうだ。

「ちょっっと! きちんと挨拶くらいは...行ってきまーす!」
ジェスターとは対照的に活力にあふれた声で挨拶し、ジェスターの背中を追っていく。

手を振り見送る職員達は騒がしい新人達の初依頼の成功を祈っていた。
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