ダンプ・サイト ~秘密組織に入った俺は王都の平和を陰から守る~

あねものまなぶ

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本当の依頼

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鈍い足音を響かせながら、白の集団が目の前に現れた。
抜刀した剣を光に反射させながら、書庫内を徘徊する。
勿論、"勇者の証拠"が盗まれたことも、外部への大穴が開いていることも直ぐに発見する。
そして、俺達の事も...。

「と思ったら...なんで目の前には茶菓子が...」
突入してきた騎士団員に発見されるや否や、ダニエリーさんが前に出て何かを言う。
その途端に仰々しい態度をとったかと思うと、ダニエリーさん含め、俺達は客室に通された。
フカフカの椅子に、高級そうなテーブル。
目の前の茶菓子は、王族御用達と話題の物。
田舎から出てきた俺でも知ってるくらいに有名な、いや、一生口に出来ないであろう品だ。

「ちょっと、ダニエリーさん。どうなってんすか?」
「どうって?」
「だから、なんで俺達がこんな丁重に持て成されてるんすか? 俺達は不法侵入の現行犯で捕まるはずだったでしょ?」
誰が聞いているのか分からないからと言う理由で、小声で話してみたが、それがダニエリーさんの笑いのツボに入ったのか吹き出しそうになっている。
意味が分からん。

「うっふふふ、ジェスター君って案外小心者なのね? いいわよ、私はそういう男の子はスキよ?」
「んな事はいいんすよっ! 訳を教えて下さいよ!」
俺がダニエリーさんに絡んでいると、目の前の茶菓子を掠め取ろうとする茶色い物体が視界の端に見えた。

「あっぶねっ。何すんですか、これは俺のお菓子っすよっ! マルコニーさんの分もあったじゃないっすか!」
行き場のなくした手を引っ込め、残念そうに溜息を吐く、目の前のハゲマッチョ。

「いいか、お菓子ってのは食べたら無くなっちまう。そうだろ?」
「それが?」
「だからこそ、他人の分まで食べたくなるってのが...人間の心理って物だろう?」
「んな訳ねぇよ! 理屈っぽく言ってるけど、それは只の食い意地だから。 アンタのは只の泥棒だから!」
「何を失礼なっ! これから泥棒を捕まえようと言うのに、その俺に向かって泥棒と呼ぶかっ!」
「呼びますよ、やってることは犯罪っすから。盗んだものが違うだけで、アンタも犯罪者っすよ」
俺達の口喧嘩は更に加熱していき、等々、ハゲと直接対決するかと思われた時、俺たちが居る客室の扉が開いた。

「いつの間にか、マルコリーの喧嘩相手が出来ていたとは...賑やかになったものだなぁ"ダンプサイト"も」
入ってきたのは、黒のスーツに身を包んだ金髪の女性。
訓練で話した女隊長を更に、老けさせたような感じだ。
誰もが振り向く美人...なんだとは思うけど、しぇべり方なのか、彼女の雰囲気なのか見た目以上に年を重ねているように感じた。

「おうよ、コイツは期待の新人よぉ!」
背中を思いっきり叩いてきたと思ったら、目で合図をしてきやがった。

「自分はジェスターと思うします。よろしくお願いします」
「うむ、挨拶もしっかりできる。いい後輩を見つけたじゃないか」
「えぇ、ジェスター君が居ると周りが賑やかになりますから、口数が少ない私も助かってます」
ダニエリーさんってそんな口数少なくないよな?
なんだろう、自分の事をきちんと評価してないんじゃないの?
行ってやるべきかな、自分が思っているほどアンタは無口でもないって。
ダニエリーさんの口ぶりからは、私はバカ騒ぎしているアンタ達とは違うのよ...みたいな考えがチラリと見える。
魔法使いだからって、知的なイメージを保ってるとでも思っているのか?
やれやれ、これだから年ってのは取りたくないよね。
自分の事を客観視出来なくなっちまう、周りの人間も言えなくなっちまうんだよね、こういうパターンの人には...。

「ジェスター君...何を考えていたの?」
魔法使いってのは、他人の考えを読めるのか?
笑顔という物は本来ならば、場を和ませるもの。
しかし、目の前の仮面のように張り付いた笑顔からは、それは感じない。
俺が出来るのは、思考を放棄しこの数秒間の記憶を消すこと。
そうしなければ、外部からの衝撃で、数秒どころか数年単位で記憶が消されかねない。
消えるのは記憶だけならいいが...。

「いやいや、あれっすよ。盗まれたものの行方についてですよ...」
「そう...」
仮面の笑顔が消えた。
脅威は去った、よかったよかった。

「では、私も自己紹介を。この騎士団の団長を務めている"ゼノビア"だ。そして、今回の依頼を出させて貰った張本人でもある。勿論、君達の組織については理解しているから、安心してくれたまえ」
確か、社長も国の一部の人は知っているみたいなことを言ってたな。
それにしても騎士団長かぁ...雲の上の人って感じだったけどまさか、こんなあっさりと会えるとは。
ダンプサイトってどんな立ち位置なんだろうか...もしや、国の中枢を担っているとか...そんな訳ないか。

「成程...もしかして、勇者の証拠が盗まれるって事前に知ってました?」
「ほう、どうしてそう思った?」
「まずは、勇者の証拠って言う歴史的価値の高い、それこそ国宝級の物が盗まれたと言うのに、ゼノビアさんは顔色一つ変えていない」
「それは、私が元々、こういう性格だからだよ。組織の長足るもの、いつでも冷静にいるべきではないか?」
俺の指摘に何を当たり前の..というように顔色変えず答える。

「次に、俺達への依頼は不穏分子の調査と捕縛。アンタは不穏分子の存在を事前に察知していたということは、この依頼内容から分かる。そして、俺達は不穏分子の犯行を見逃し、捕縛できず、さらには証拠も獲得していない。と言うのに、アンタは悠長にも俺達に茶菓子を振る舞い、こうして雑談をしている。...余りにも、余裕を持ちすぎている。それこそ、ここまではシナリオ通りだと言わんばかりだ」
俺の言葉に何度か頷くゼノビアさん。

「うんうん、中々周りを見ているな。動ける、状況も見れる、そして物怖じしない、中々良い人材じゃないか。どうかね、君さえよければ騎士団に入らないか? 君ほどの実力があれば、直ぐ隊長の補佐辺りには行けるだろう。数年も経験を積めば、隊長だって夢じゃないさ」
なにそれ、魅力的。
俺ってそんなに凄いの?
もしかして、石ころに交じっていた原石的な?

「そいつは、すみませんね。ジェスターは家に永久就職なんですわ」
なにそれ、初耳。

「そうか、それは残念だ」
なにそれ、引き際速すぎ。
まぁ、いいけどね。
朝の訓練で分かったんだ、騎士は向てないって。

「では、ジェスター君が言ったように次のシナリオに行こうではないか? 勿論、役者は君達だ」
「うっす」
ゼノビアさんは懐から両手サイズくらいの地図を取り出した。
この王都と周辺の地理が書いてある。

「いいか、勇者の証拠を盗んだ犯人には心当たりがある。と言っても、そいつの裏に居る奴らだがな。そいつらの全貌は掴めてはいない物の目的はハッキリしている。それは、勇者の証拠のみを集めていること」
「なんでまた、勇者の証拠を?」
首を横に振るゼノビアさん。

「それは不明だ。しかし、金品などではなく勇者の証拠のみを集めている所を見ると、奴らだけしか知らない"ナニカ"があの品には隠されているのかもな」
段々と、俺の両手では受け止められないスケールになってきている。
勇者の証拠にナニカがあるって...。

「と言う訳で、犯人が盗んだ勇者の証拠には位置が特定できるように魔法を仕込んである。勿論、バレてはいないさ。それを追って、奴らのアジトを突き止めて欲しい。出来るならば...」
「捕縛しろ...ですか」
俺の言葉に頷く。
もしかしてと、俺にはある疑問が湧いていた。

「あの、マルコニーさんもダニエリーさんも初めっから、こうなることが分かってました?」
「おうよ、勿論さ!」
「そうね、最初は潜入しないって話だったんだけど、ゼノビアさんがどうせなら訓練に参加していけっておっしゃるから。ゴメンね?」
やっぱりか。
まぁ、この人たちに振り回されるのは、今に始まったことじゃないし、なにより、これくらいで息を荒くしていたらこの先、やっていけなさそう。

「そんじゃ、敵さんのアジトを突き止めに行きましょうよ。こういうのは、速い方がいいでしょ?」
立ち上がる俺達にゼノビアさんが声を掛ける。

「待ちたまえ、ジェスター君。君の武装は、その訓練用の剣だけでいいのかね?」
「まぁ、これでいいかなと。切れ味はないっすが、出来ないことは無いかなと」
「そうか、君にはもっと相応しい剣があると思ってな...女神の名がついた聖なる剣...とかな?」
動揺はしない。
感情も表に出さない。
疑問は、心の中で処理をする。
どうしてだ?
いや、騎士団長ならばその情報網を使ったという線もあるが。
その口ぶりは、まるで俺が...。

動揺を悟られぬように、その言葉を受け流す。
疑問渦巻く中、俺達は犯人のアジトへ向かう。
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