愛に溺れたい

水玉

文字の大きさ
上 下
3 / 3

第三幕 輝いていた私ー入団します!ー

しおりを挟む



生徒会室へ到着した私と祐希は、騒がしくなっている生徒会室へ入り込む。


ガラッと開けると一斉に視線を集める。


そして、中にいた役員全員が絶叫に近い声で私たちを歓迎?したみたい。


「えぇぇぇぇーーー?!あの、イケメン転校生と榎本先輩の噂は本当なんですか?!?!」


すごい顔をして私に聞いて来た後輩は原 清香はら きよかちゃん。


原ちゃんって愛称で、ちょっとやる気のない感じのある一年生。


原ちゃんとは話があって懐かれている。


「なんの噂?」


原ちゃんを落ち着かせつつ、噂について聞いてみた。


祐希も知りたいって原ちゃんに視線を送っている。


「だって、あんなに息の合ったダンスといい、幼なじみっていう関係といい、もう2人は付き合ってるんじゃないかって!!!」


鼻息荒くして私に迫りくる原ちゃんにタジタジな私。

あれ?なんかデジャブじゃない?

昼間にも同じ話をした記憶があるんだけど…


はぁ…とため息をつき、一から説明しなきゃならないのかと頭を抱えた。


「今は付き合っていないみたいだぞ。そうだろ?榎本、嵩原」


私達2人の後ろから聞こえた声に私はビクッと体が震えたのがわかった。


ゆっくり振り返るとこわーーーい笑みを浮かべる石井先生が立っていた。


「いや、石井先生、あれは祐希の冗談ですよ?」


話を余計にややこしくしないでよぉぉぉ…


「そうですね、今は、まだ、ね」


なぜ強調するように言っているの?

本当に頭が痛くなって来た…


とりあえず、この話は強制的に終わらせて、生徒会の会議を始めることにした。


例の如く会長は不在のため、私が今回も進行させて頂くことになりました。


今日の議題はマナー月間という名の挨拶運動の開始についてだった。


顧問からある程度の説明を受けて、当番制で回していくことになった。


チーム分けは学年均等になるようにして、私は足りないところに入ることになった。


祐希は生徒会役員じゃないけど、本人が既に入る気満々で話にどんどん参加している。


その様子をみて、祐希にサポート役はもう要らないんじゃないかって思ってしまった。


祐希はいつもみんなの中心にいて、私を気にかけてくれて、心強い幼なじみだ。


どんな時でも私の味方をしてくれた。


話し合いは、思いの外早く終わり、次の電車まで1時間ほど時間に余裕ができた。


それまで生徒会室で役員と雑談をして過ごすのがいつもの日課なんだけど…

今の状態は、祐希が女子役員に迫られて色々聞かれている状態。


私は少し離れた席でその姿を見つめて苦笑いしていた。


祐希には失礼かもしれないけど、タジタジしている祐希は可愛いな。


「なぁ、榎本」


ボーッとしていた私に声をかけたのは石井先生だった。

声のした方へ振り向くと石井先生が思いの外近くに座ってて一瞬で緊張してしまった。


「はいっ!なんですか?」


その様子があまりにもおかしかったのか、石井先生はクスクス笑っている。


今日の石井先生はよく笑うよね。



「ちょっと榎本に頼みたい仕事があるんだ。職員室に来てくれないか?」


そう言うと石井先生は立ち上がり、有無を言わせずに私へついて来いよと視線で感じ取ってしまった。


あぁ…NOと言えない私はきっと、石井先生のことが…

それとも、この圧力に屈しただけなのか…


「分かりました。」


席を立ち、ちらりと祐希を見ると可愛い後輩達に囲まれてデレデレし始めている。

ちょっとだけムカついた私は祐希には何も言わず生徒会室を後にする。


数歩先を歩く石井先生を追いかけるように私も歩き出した。


石井先生は職員室とは違う方向へ向かいはじめた。


「え?石井先生?」


私が呼び止めるけれど、石井先生は書類がこっちにあるのを思い出したと言って、連れてこられたのは生徒会の倉庫。


中に入ると行事ごとで使う物品や過去の生徒総会の議案、様々な議事録が残っていて、少し埃っぽい。


窓を開けて近くにあったパイプ椅子を窓の方に2脚設置すると石井先生が着席した。


その自然な動作に私の頭はハテナがいっぱいだ。


「ん?榎本、こっちに座れよ」


ポンポンと空いたパイプ椅子を叩き、こちらに視線を送る。


一瞬反応に遅れた私は慌ててその席へ。


謎の沈黙が広がり、私は頼みたい仕事が何なのか気になっているけれど、何も話さない石井先生。


どうしたものかとおろおろし始めると


「俺も気になってんだけど、嵩原とはどういう幼なじみなの?」


沈黙を破った石井先生の表情は初めて見る表情だった。


真剣な眼差しで、私の心までも見透かすようなその瞳に嘘は見破られそうだと直感した。

なんでも話してしまいそうな…

そんな瞳をしていた。


祐希と…どんな幼なじみ…と聞かれても…みんなが思う幼なじみと変わらないと思う。


「祐希とは…前の街でお隣さん同士だったんです」


何故だか…今までは、昔のことを聞かれても、あやふやに誤魔化してきたのに。


石井先生のその表情や眼差しで、私は昔の事を紐解いていった…。

輝いていた頃の私…

何事にも夢中で、大好きなことに熱中していた私…


いつからそうなったのかなんて…

はっきりと覚えていたのに…

思い出したくなくって…


大好きな人に愛されたいって思っていたのに、それは叶わなくって…

愛される事に恐怖を覚えてしまって…

私みたいな人が愛される資格なんてないって…。

そう思うようになっていた…。


本当はただひたすら…愛されたい。愛に溺れたいだけなのに…。


ずっと心の奥底で本当の私がそう叫んでいる…。


昔の私から、今の私になったきっかけ…


はじめて、第三者に話す…。


胸の高鳴りをそっと押さえて…ポツリポツリと私は言葉を紡いだ。





ーーーーーーーーーーーーー


私と祐希の家はお隣さん同士で、両親共に仲が良かった。


よく、互いの家を行き来して、お泊まりもしたし、ご飯も食べに行ったりもしていた。


小さい頃から一緒だった私達は、周りからよく兄妹と間違われるぐらい仲が良かった。


私達が住んでいた街は、小さくて、遊ぶところといえば公園や学校の校庭などちょっと田舎だった。


その街には、ある劇団があった。


ーーー劇団あおぞら


その劇団はクラスメイトや近所のお兄さん達も所属していて、カッコいい曲でカッコよくダンスをして…


地元の人にとっては知らない人はいないぐらい有名な劇団だった。


その劇団の定期公演会を祐希と一緒に観にいくことになった。


「すごいワクワクするね!」


「どんな劇かな?!俺めちゃくちゃドキドキしてるっ!」


小学校中学年の私達は、中央に位置する席から舞台を眺めていた。

今か今かと劇が始まるのを心待ちにしていた。


会場が暗くなり、いよいよ劇が始まることがわかった。


一筋のスポットライトを浴びた1人の青年。


会場が彼に視線を注いだ。


「これは昔のお話。かの有名な王国の悲しい物語であります。」



凛と響いた声に私達は一瞬にして劇の世界観に飲み込まれた。


ううん。きっと私達だけじゃない。


会場にいたお客さん全てが劇の世界へ飲み込まれたと思う。


そこから始まった劇はある王国のお姫様の話。


お姫様とその許婚の王子様、お姫様を守る騎士2人の切ない物語だった。


敵国へ戦略結婚させられるお姫様に長年思いを馳せていた騎士達は一緒に駆け落ちをしようとお姫様に伝えた。


お姫様は素敵な笑顔で…けれどもどこか切ない笑みで、それは出来ないと騎士達の元から離れてしまった。


敵国へ嫁ぐその日、騎士達を呼び出したお姫様。


そっと騎士達の頬へ口付けをし


ーーー「貴方達を忘れません。私は、貴方達のことを、一生愛しています。けれど、私のことはすぐに忘れて。素敵な人と幸せになって下さい」


そう言ってお姫様は敵国へと嫁ぐのであった。


王子様とお姫様は幸せに暮らし、王国は平和を取り戻した。


そんなお話だった。


自然とお姫様に感情移入していた私はボロボロ泣いていて、隣にいた祐希も泣いていた。


劇が終わり、2人してあの場面が、とか、あそこのセリフがって感想の言い合いが始まった。


両親達はやや置いてけぼりだったけど、私達は今みた劇が本物の世界で起きた物語のようで、決してフィクションではないように感じていた。


興奮冷めやらぬ中、会場から出てロビーへ向かうとそこには劇にいたお姫様と王子様と騎士がいた。


3人は来てくれたお客さんにお礼を言いながら握手したりしていた。


その姿に私達はさらに興奮した。


「お姫様に騎士、お姫様もいるぜ!!!すっげーーー!かっけーーー!この剣は本物?!」


「わぁー!お姫様キレイ!!!」


役者さんの周りできゃーきゃー騒いでいると


「おっ!元気いっぱいな勇者殿かな?これは本物だぞっ!持ってみるか?」


と騎士役の方が祐希に剣を差し出す。


もちろんレプリカだけど祐希はブンブンと顔を横に振っていた。


「これは、これは、小さなレディーではないですか。今日は来てくれてありがとう。」


礼儀正しく一礼し、私の頭を撫でるもう1人の騎士役の方に私は胸がドキッと高鳴り顔が熱くなるのがわかった。


その隣で美しい微笑みを浮かべるお姫様があまりからかってはダメよ。と話をしていて、本当に劇の中の人物がリアルの世界に飛び出してきたんだと思った。


「君たち、もし良ければ俺たちと一緒に劇をやらないない?」


先程まで祐希とじゃれあっていた騎士役の方がポスターを指差しながら話しかけてきた。


そのポスターには劇団あおぞらの団員募集の文字。


「入る!!俺、やりたい!!!ねぇ、お母さん、いいでしょー?!」


興奮している祐希は即答でおばさんの許可を得るために駆け出した。


その姿に私は呆然としていた。


「小さなレディーはいかがします?」


その優しくて大人の色気のある声色に私はハッとして、私も入団したいとお母さんにお願いした。


こうして、私と祐希は劇団あおぞらへ入団することになった。



ーーーーーーーーーーー


入団してはじめての稽古の日。

この日は新規入団員のお披露目会が行われた。


緊張している私に祐希は大丈夫っ!て励ましてくれた。


稽古場所である公立の体育館に集まり、学年別で整列し座って待機していた。


プリントが配られ、週3回の稽古や劇団の年間スケジュールなどなど沢山の情報が盛り込まれており、それについていくのに必死だった。


そして、劇団員の現メンバーとの顔合わせが始まった。


舞台に並んだ劇団員たちが歓迎のダンスを披露し、一緒に頑張りましょう!とよく通る声で歓迎してくださった。


そして、メンバーの挨拶。


一歩前に出てきた青年に私は目を奪われた。


あの人だ。

すぐにわかった。


「初めまして。私はこの劇団あおぞらの団長を務めています、柊木 和哉ひいらぎ かずやです!よろしくお願いします!」


柊木和哉先輩は、私に頭をポンポンと撫でてくれたあの騎士役の人だった。


騎士役の時はキャラクターが違って、爽やかな笑顔がとても印象的だった。


周囲にいる同世代の女の子達はその笑顔に頬を赤らめていた。


私もそのうちの1人だ。


「副団長の本村 紘幸もとむら ひろゆきです。よろしくっ!」


副団長と名乗った本村紘幸先輩に隣にいた祐希はあっ!と小さな声を上げた。


祐希とじゃれあっていた騎士役の方だった。


騎士役のキャラクターとぴったりな元気の良い先輩だ。


「同じく、副団長を務めています、神谷 志帆やみや しほと申します。よろしくお願いいたします」


次にニッコリと微笑んだのは神谷志帆先輩だった。


あの劇のお姫様…


笑顔が綺麗なのに、どこか冷たい印象を感じてしまった私は少し神谷先輩を怖い、と感じてしまった。


一通りの挨拶が済んで、次は私たちの入団員する新規メンバーの自己紹介。


先輩方は舞台からおり、今度は私達が舞台へ。


舞台に上がることなんて滅多にないから緊張してしまう。


次々と挨拶が済んでいよいよ、祐希の番になった。


「初めまして!嵩原祐希です!本村先輩みたいなパワフルな演技に憧れて入団しました!!よろしくお願いいたしますっ!!!」


今までのメンバーの挨拶より元気でハキハキとした祐希に現メンバーもおぉーと声を上げていた。


「おう!よろしくなー!祐希ー!」


本村先輩から返事が来た事にびっくりした祐希だったけど、はいっ!て笑顔で答えてた。


次は私だ…。


「は、初めましてっ!榎本、鈴華です!わ、私は、セリフ一つ一つで劇の世界観に飲み込む先輩方に憧れて入団しましたっ!私もそんな演技が出来る様になりたいです!よろしくお願いしますっ!!!」


緊張して、時々詰まってしまって、声も裏返ってしまったかもしれないけれど…


でも、大きな声で言えた。


「鈴華ちゃん、そう言ってくれて、僕たちも嬉しいよ!一緒に頑張りましょう!!!」


ーーードキン!!!


返ってきた返事に私は胸がドキドキと加速した…


だって、あの柊木先輩から…名前を呼ばれて頑張ろうって…


「は、はい!お願いしますっ!!!」


嬉しくて、笑顔で一礼した。


あんなに素敵な人にそう言ってもらえたことが嬉しくて…

ずっと頬が緩んでいたと思う。



挨拶が全員終わり、この劇団あおぞらの総責任者兼監督を務める田中さんから名前を呼ばれてグループ分けをされた。



「よーし、並んだかー?実は、さっきの自己紹介は入団実力テストの一部だ。」


その言葉に私達は驚きを隠せずざわつく。


「舞台から観客のいるお客様へ届く声が出せるかって言うことだ。こっちのグループはどんな共通点があると思う?」


視線を向けられた私達のグループ…

と言っても私と祐希だけ。


2人して顔を見合わせた。


「えっと…元気がいい?」

祐希が頭にはてなマークをいっぱい散らしながらも答えた。


「鈴華はどう思う?」


田中さんに聞かれて私も精一杯考えた。


「私と祐希の共通点…あ、先輩方から返事が来た、ことですか?」


そう言うと田中さんはうなずき


「そうだ。君たちは声がとてもよく通る。観客のいる所まで聞こえてきたよ。その発声ができる君たちはダンスはもちろんだが、役者の先輩方に指導してもらう。」


そう言いながら、グループ分けをされたメンバー達に説明しながら今後はどう言った流れになるのかを説明を受けた。


稽古開始から2時間はグループ関係なくダンスの練習。


その後、グループに分かれて、グループ担当の先輩方からダンスの特訓や発声の練習、簡単なセリフの練習などを受ける。


「では、早速だがダンス練習だ。今日は混合で構わない。和哉、頼んだぞ」


そう言って田中さんは舞台の近くに椅子を出して私たちの様子を見ていた。


柊木先輩が指名され、みんなの前に出てきて的確に指示を出す。


「それではダンス練習を始めます!まずは先輩方のダンスを見ててください。そのあとはグループで特訓です!」


私のグループには本村先輩と神谷先輩が来ていた。


チラリと舞台にいる柊木先輩を見つめて少しため息が漏れてしまう。


あわよくば柊木先輩からって思っていた私は贅沢な事を思ってしまったと心で感じていた。


「じゃ、見ててね!」


神谷先輩の可愛らしい笑顔に女の子の私でもドキドキしちゃうと思う。


でも、なんか、怖い。


曲が始まり先輩達は一斉に踊り出す。


場所がそれぞれバラバラなのに息がぴったり。


曲の途中から走ってきたのか柊木先輩も合流して一緒に踊り出した。


あまりにも突然で私と祐希はびっくりした。


途中から来たのに息ぴったりなダンス。


やっぱり団長クラスは違うんだなぁ…


「じゃ、これからやっていくぜ!祐希ー、お前は俺がみっちりやってやるぜー!」


わしゃわしゃと祐希の頭を撫でる本村先輩に祐希は嬉しそうにはいっ!って返事して本村先輩にくっついて行った。


「じゃ、女の子同士で組んでもらって、何かあったら呼んで」


ニッコリ笑った柊木先輩に神谷先輩が優しく分かったわと返事をした。


柊木先輩は本村先輩の所へ行って祐希と戯れあいつつもダンスの練習を始めた。


「ここじゃ狭いから移動しましょうか?」



神谷先輩に言われて私達は移動した。


祐希達のいるところから対角線上の端っこに移動し、私は壁際に立っていた。


神谷先輩は綺麗なさらさらロングヘアーをなびかせて一言。


「さっきのダンス見てたなら少しは出来るわよね?じゃ、始めて?」


神谷先輩は腕を組んでめんどくさそうな表情…


声のトーンも低くって冷くって怖いって言う私の直感はすごく当たった気がする。


「なに?出来ない訳?ダンスしなさいよ。はい、スタート!」



めんどくさそうな声で持っていたプレイヤーから先ほどの曲を流す。


まだ1回しか見ていないダンスを覚えてるわけないじゃない…


私は見様見真似でダンスをして、分かんない所はアドリブでする事にした。


普段ダンスなんてした事がなかった…

たまにテレビでやってるアイドルのダンスを少し真似するぐらい。


でも、こんな本格的なダンスなんて出来ないよ…


曲が終わり、なんとか踊りきった。

息が切れてはぁはぁしか出てこない。

言葉も発せないくらい。


「なに、あのダンス。ダサすぎ。全部違うし、リズム崩れてるし。何を見てきたの?ほんっとやってらんないわ。」


神谷先輩の表情は恐ろしいぐらい冷たくて怖い。


何か私は悪い事をしたのかな?

気に入らない事とかあったのかな?


完全に萎縮してしまい、どうにもできない。


「あ、あと。和哉に色目使わないでくれる?私の彼氏なの。アンタみたいなブス、相手にされないから。この事誰かに言ってみなさい。どうなるか分かるわよね?」


俯いた私に神谷先輩はトドメの一言を発した。


いろんな情報がありすぎて頭が追いつかない。


なにより、柊木先輩と付き合ってるって事に驚きを隠せなかった。


はじめてみた時から柊木先輩に恋心を抱いていたんだろうか…


だって、今…こんなに胸が痛くって切ないんだもん…


恋と知る前に失恋してしまった…


「ねぇ?先輩が言ってる事に対して返事は?」


ドスの効いた声に私は小さな声ではいと答えた。


神谷先輩はトイレと言ってどこかへ行ってしまった…。


1人ぼっちになってしまった私。


本当なら祐希達の所に行きたいんだけど…


さっきの神谷先輩の様子だと余計逆鱗に触れられそう…


せっかく、入団して素質があるって認めてもらえて一歩踏み出せたと思ったのに…


私はこのまま時間が過ぎていくのをただ待つばかりで良いのだろうか?


ううん!良くないっ!


失恋したばかりで、神谷先輩の当たりが強くって、辛いことばかりだけど…


柊木先輩と同じ空間で劇ができる。


憧れの先輩の演技が見れるだけで良い。

あわよくば…共演できればもっと良いけれど、そんな高望みはしない。


柊木先輩の姿が遠くでも良いから見られるだけで私はいいや。


でも、私はこの劇団に入ってやりたいことはたくさんある!

これは誰にも邪魔されたくないし、邪魔していいものじゃない!


よし!なんとかしてダンスを覚えなきゃ!!


私は自分自身を奮い立たせ、近くのグループに混ぜてもらう事にした。


「あの、練習中にすみません。私にも教えていただけませんか?」


先輩へ声をかけると少し驚いた顔をしていたけど、笑顔でいいよって混ぜてもらえた。


一から指導してもらい、サビの部分だけでも完璧に覚えられた!


練習時間が終わり、元のグループへ戻るように指示が出て、指導してもらった先輩方へお礼を言って戻った。


神谷先輩はまだ帰ってきていないみたい。


「鈴華、どう?ダンスできた?!」


戻ると祐希はキラキラの笑顔で聞いてきた。


いいなぁ、祐希は本村先輩と柊木先輩にみっちり教えてもらえて。


「うーん、サビの所だけね。私、覚えが悪くって」


苦笑いになる私に祐希は自慢げに


「俺ほとんど完璧だぜー」


へへって笑う祐希。

運動神経抜群だから、覚えるのも早いんだろうなー。


「ね、祐希。私にも教えてくれないかな?なかなか難しくて…」


祐希にお願いすると、意気揚々ともちろんって承諾してくれた。


少しぐらい踊れるようにならないと次の稽古の時また色々言われてしまいそう。


それに、今日の感じだとちゃんと指導してもらえなさそうだし…

でも、何か私が言うと神谷先輩怒ってしまいそうだし…

どうなるか分かるよね?って言ってたし…


何をするか分からないけど神谷先輩が怖くって何もできない。


「ーん?鈴華ー?鈴華ちゃん!」


ぽんっと肩に誰かの手が置かれて名前を呼ばれた。

「っ?!」


びっくりした私は呼ばれた方を向くとそこには柊木先輩がいた。


いきなりの事で声も出なくってただ口をパクパク動かすだけ…。


「大丈夫?声かけてもなかなか返事してくれなかったから」


心配そうな表情で私の顔を見つめる柊木先輩。


カッコいいなぁ…

こんな人に愛される神谷先輩が少し…

ううん、すごく羨ましい。


「あ、はい…大丈夫です。」


でもこの場面を見られていたら、神谷先輩が怒ってしまうから、あまり近寄れない。


そりゃ、そうだよね。

彼氏が女の子とイチャイチャしてたり、楽しそうに話していたら私だって嫉妬しちゃうと思う。


まぁ、彼氏なんていた事なかったけど…。


「そう?でも顔色悪いよ?」


「えっと、その…」

それでも心配してくれる柊木先輩は私の顔を覗くように屈んできた。


ドキドキしてしまったのと神谷先輩の事で頭がいっぱいで何も答えられない。


「ダンスで疲れたんだって。そうだろ?鈴華」


私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる本村先輩。


ウィンクした本村先輩に私はうんうんと頷き、なんとかその場を回避した。


柊木先輩は監督に呼ばれて席を外し、私は本村先輩にお礼を言った。

「ありがとうございました」


すると本村先輩は何もしてないぜって言ってまたぐしゃぐしゃに頭を撫でてくれた。


「次は俺も教えるから、みんなで練習しようか」


本村先輩はそう言ってくれた。

気付いていたのだろうか?

私があまりダンスを教えてもらえていなかった事…


「いいんですか?」


申し訳ない気持ちでいっぱいで、本村先輩に迷惑かけていないか心配だった。


「当たり前のことだろー?先輩が後輩に教える。それが先輩の仕事!後輩はそれに甘えとけば良いんだよ」


ニッコリ笑った本村先輩。

祐希が憧れる理由が分かった気がする。




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。【現在他サイトにて連載中です(詳細は近況ボードまたは最新話部分をご確認ください)】

宵月葵
恋愛
  現実をしばし離れて 胸きゅんな “時の旅” へおこしやす…… 今年中の完結をめざしつつも 永遠に続いてほしくなる非日常を……お送りできたらさいわいです せつなめ激甘系恋愛小説 × シリアス歴史時代小説 × まじめに哲学小説 × 仏教SF小説  ☆ 歴史の事前知識は 要りません ☆ 歴史と時代背景に とことんこだわった タイムスリップ仕立ての 愛と生と死を濃厚に掘り下げた ヒューマンドラマ with 仏教SFファンタジー ラノベ風味 ……です。 これは禁断の恋?―――――― 江戸幕末の動乱を生きた剣豪 新選組の沖田総司と 生きる事に執着の持てない 悩める現代の女子高生の 時代を超えた 恋の物語 新選組の男達に 恋われ求められても 唯ひとりの存在しかみえていない彼女の 一途な恋の行く末は だが許されざるもの…… 恋落ち覚悟で いらっしゃいませ…… 深い愛に溢れた 一途な可愛いヒロインと “本物のイイ男” 達で お魅せいたします…… ☆ 昔に第1部を書いて放置していたため、現代設定が平成12年です   プロットだけ大幅変更し、初期設定はそのままで続けてます ☆ ヒロインも初期設定のまま高3の女の子ですが、今の新プロットでの内容は総じて大人の方向けです   ですが、できるだけ若い方たちにも門戸を広げていたく、性描写の面では物語の構成上不可欠な範囲かつR15の範囲(※)に留めてます  ※ アルファポリスR15の規定(作品全体のおよそ1/5以上に性行為もしくはそれに近しい表現があるもの。作品全体のおよそ1/5以下だが過激な性表現があるもの。) の範囲内 ★ …と・は作者の好みで使い分けております ―もその場に応じ個数を変えて並べてます ☆ 歴史については、諸所で分かり易いよう心がけております   本小説を読み終えられた暁には、あなた様は新選組通、は勿論のこと、けっこうな幕末通になってらっしゃるはずです ☆ 史料から読みとれる沖田総司像に忠実に描かせていただいています ☆ 史料考察に基づき、本小説の沖田さんは池田屋事変で血を吐かないのは勿論のこと、昏倒もしません    ほか沖田氏縁者さんと病の関係等、諸所で提唱する考察は、新説としてお受け取りいただければと存じます ☆ 親子問題を扱っており、少しでも双方をつなぐ糸口になればと願っておりますが、極端な虐待を対象にはできておりません   万人の立場に適うことは残念ながら難しく、恐縮ながらその点は何卒ご了承下さいませ ※ 現在、全年齢版も連載しています  (作者近況ボードご参照) 

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...