73 / 75
15-2.
しおりを挟む遙香とイザベルがダイニングテーブルでゆっくりしていると、程なく興奮が冷めやらぬ様子のリンジーと、ぐったりと疲れた様子のアルベルトが加わった。
リンジーは、自分の胸に手を当て深呼吸をしてから、アルベルトに向かって話し始めた。
「失礼しました。我が家の商会とつながる方法は、会長である父から権限が渡された、2人の会長代理いずれかの判断を受けることです。」
「会長代理なんて、初めて聞いたぞ。」
「はい。公にはしていません。父に比べると未熟な面があるため、それぞれ与えられた権限の中でしか決定権を持ちません。」
「まさかとは思うが、そのうちの一人は、」
「はい!私です!」
アルベルトはがっくりと脱力した。
「ここに来るまで長すぎではないの?」
イザベルは、リンジーをたしなめた。
「申し訳ありません。私が代理をする条件の一つなんです。」
「これが?」
「正確には、小娘相手に恥をかいてもお願いができるかどうか、です。」
リンジーはアルベルトを見る。
「シェリスフォード様は、私の提示した条件に逡巡なさっていました。本来であれば、我が家の商会とつなぎを作りたい方が条件を満たす必要があるのですが、その横から抜群の破壊力でハルカ様がかっさらって行きましたので。。。
今回はハルカ様ための買い物とのことなので、特別によしとさせていただきました。」
リンジーはアルベルトにお辞儀をする。
「改めまして、レクレスター商会会長代理のリンジーです。数ある商会から我が社をお選びいただき誠にありがとうございます。
お望みのものをお望みの場所へいち早く、をモットーに努めてまいります。」
リンジーは、普段の気さくな雰囲気とはうって変わり、真摯な態度でアルベルトに向き合う。
「当商会へのご要望を、このまま引き続きお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「いや、昼食の後にしてくれないか。長くなりそうだ。」
「承知しました。」
**************************************
昼食を終え、アルベルトが近衛騎士に本邸への伝言を頼んだあと、遙香達はソファに座り改めてレクレスター商会への依頼をリンジーに行うことになった。
テーブルの上には、昼食を残さざるを得なかった遙香のためにパウンドケーキと飲み物が並べられた。
いつもと変わらないメンバーにも関わらず、僅かに緊張した空気が流れている。
「まずは、当商会がシェリスフォード様のご要望に添えるかどうかを判断させていただきます。」
最初に口を開いたのはリンジーだった。
「その判断のための応答を、他者に漏らすことがあるか?」
「会長である父には伝える可能性があります。しかし、商品の契約の如何によらず、お答えいただいた内容を商会の外へ漏らすことはありません。」
「・・・わかった。」
「全部で4つの質問をいたします。お答えいただく際は、嘘偽りがないようお願いいたします。答えられない場合は、その旨をお伝え頂ければ結構です。」
アルベルトが首肯する。遙香は不安そうな顔で、二人のやり取りを見守った。
「まず、1つ目ですが、当商会を選ばれた理由をお聞かせください。」
「ハルカに関わることで、他に漏らしたくないからだ。」
「ヴァッハヴェル公爵家からの支援ではだめだと言うことでしょうか?」
リンジーは最初から際どい部分を攻めてくる。
「・・・そうだ。」
「では、2つ目、秘匿する範囲をお知らせください。」
「現段階では、ハルカ、俺、イザベル以外のすべてに対して。」
「貴族のみならず、王族も対象と言うことでよろしいでしょうか?」
「それだけじゃない。国民も対象だ。」
「わかりました。」
リンジーは、顔色を全く変えずに返事をした。
「3つ目、犯罪に関わることでしょうか。」
アルベルトは悩んだ。聖女の母を国外に連れ出すことは、犯罪になるのだろうか?王や国民が考える国益を損なうことにはなるだろう。そして、追われる身になることも重々承知だ。
だが、犯罪かと問われると答えに窮する。
「・・・わからない。」
アルベルトは絞り出すように答えた。そして、リンジーを正面から捉えてはっきりと告げた。
「だが、自分の信念に基づいた行動だ。」
リンジーは、アルベルトの視線をまっすぐに受け止めた。
「シェリスフォード様の信念とはなんでしょうか。」
「ハルカを護ることだ。」
リンジーは目を伏せた。眉間に僅かにシワがよっている。静かに、何かを考えているようだった。
暫くして、目を開いたリンジーは、先程と変わらず真剣な顔つきで、アルベルトに最後の質問をした。
「最後に、当商会が商品の提供をお断りさせていただいた場合、どうなさいますか?」
「やるべきことは変わらない。取れる手段がなくなれば、異なる方法を探すだけだ。」
「その「やるべきこと」を中止することは?」
リンジーの問いに、アルベルトは遙香を見て言った。
「中止はない。」
遙香も、アルベルトの顔を見る。アルベルトの表情には、強い決意が現れているかのようだった。
リンジーは、小さく頷いてから言った。
「お答えいただき、ありがとうございました。
私は、会長代理としてレクレスター商会で取り扱える案件と判断いたしました。ただし、想定されるリスクは金額に上乗せさせて頂きます。よろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む。」
「リンジー、ありがとう。」
「良かったですね。」
二人の応答を見守っていた遙香とイザベルが、安堵のため息とともに声をかけた。
リンジーは、自分のコップを手に持ち傾けると、一気にそれを飲み干した。
「ぷはぁ。堅苦しいのは疲れますね。これ、私も食べていいですか?ちょっと休憩しましょう。」
遙香の部屋に笑い声が響き渡り、一気に取り巻く空気はいつもの穏やかなものに戻った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる