聖女の母と呼ばないで

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15-1.

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別邸の部屋についた遙香達を、イザベルとリンジーが出迎えた。遙香は土産に渡されたパウンドケーキをリンジーに手渡した。

2階の遙香の部屋に戻るなり、アルベルトが遙香に言った。

「お前は昼食時につわりで体調が悪くなったことにして、午後の本邸でのお茶会を休むことはできるか?」

「できるけど、何故?」

「体調が悪くなって、すぐには旅行ができそうにない、そう思われるように振る舞ってほしい。」

「分かった。」

「連絡は、近衛騎士に行かせる。リンジー、お前の家の商会は、ハルカに必要なものを貴族の面々に気づかれずに揃えることはできるか?」

パウンドケーキを仕舞い、遙香の飲み物を用意していたリンジーは、突然アルベルトに声をかけられ、驚いて振り返った。

「え、うちですか?お金次第では大抵のものは揃いますよ。貴族に内密にと言う方は、犯罪じゃないことと商会に利があることが最低条件ですね。あとは、父の判断になりますが。理由をお聞かせいただいても?」

「お忍びで出掛けたい。」

「良いですね!お忍び。」

「金は俺が払う。お前の父親と会って話がしたい。」

「えーと、シェリスフォード様がうちの商会にお越しになると、多分、モロバレになりますよ?」

「リンジー!」

リンジーの言葉遣いに、イザベルの肘打ちがお見舞いされた。

「うっ、秘密裏にというのが難しくなると思います。」

「転移の魔法陣はないのか?」

「・・・ありますけど、無駄にお高いですよ。購入履歴管理品ですからすぐに足が付きますし。」

「・・・」

リンジーの言葉に、アルベルトは思い出した。国内外の人の往来を管理できるよう、転移の魔法陣の金額は高く設定されており、売買には販売者、購入者、数量、使用予定の出発地と到着地の届出が必要となる。

王城では魔術師団がその場で展開していたため、失念していた。

「他の客はどうしている?」

「他のお客様のことは、漏らすことができません。」

リンジーは、そう言って、申し訳なさそうにアルベルトにお辞儀をした。アルベルトが黙ったままでいると、リンジーが腰を折ったまま顔だけばっと上げて言った。

「ですが、シェリスフォード様がどうしてもとおっしゃるなら、「一般的な」方法はお伝えできるかと。」

「頼む。」

アルベルトの言葉に、リンジーが首を振る。

「そんなんじゃ駄目です。可愛らしく両手を握って「お願い」と首をかしげて言うか、跪いて手を取り「お前が必要だ」と凛々しく言うかの、どちらかでお願いします!」

アルベルトはそれを聞いて固まってしまった。イザベルですら、あっけにとられてツッコミを忘れていた。

「私も見たい!」

遙香が悪乗りした。

「・・・」

アルベルトがジトッと遙香を見る。

「お願い?」

遙香が、手を結んで首を傾けながらアルベルトに言った。

「・・・っ。」

「ぐわぁ。」

アルベルトが目を見開き固まり、リンジーが胸を抑えてうずくまった。

「・・・冗談でやったのに、大げさな。」

二人のリアクションを見て、遙香は真顔に戻り、冷たい声色で言った。

「いえいえ、ハルカ様。リンジーもシェリスフォード様も、不意打ちの天使のおねだりに胸を撃ち抜かれてしまったんです。」

イザベルが、僅かに興奮した声で言った。

「天使のおねだりって。30過ぎた私のわざとらしいぶりっ子が可愛い訳ないでしょうが。」

遙香がため息混じりに呟く。

「ぬわぁんと!ハルカ様。ハルカ様のおねだりなら、このリンジー、何でも叶えてみせます!ですから、もう1回、今度は私に向かってやって下さい!」

リンジーが、遙香に詰め寄る様に言う。

「いい加減になさい。」

イザベルがリンジーの頭を小突いた。

「正面からの不意打ちを受けたシェリスフォード様の様子をご覧なさい。まだ、固まったまま復活できてないんですよ。」

イザベルの言葉に、遙香とリンジーがアルベルトを見た。

「アルベルト。アルベルト、おーい。」

遙香がアルベルトの目の前で手を振る。はっと我に返ったアルベルトは、一度遙香をまじまじと見たあとにバツが悪そうに目を逸らして言った。

「他でやるなよ。」

「見苦しいものを見せてごめんなさいね。」

「・・・」

遙香が憤慨したように言ったが、アルベルトは黙ったままだった。

「えーと、商会とのコネクションの方法はよろしいのでしょうか?」

リンジーが空気を読まずに聞いた。

「やるから、待て。」

アルベルトは心の整理をしているのか、なかなか動かない。

「もう、こういうのは時間を掛ければ掛けるほどやりづらくなるの。」

遙香はソファから立ち上がり、リンジーの前に進み出た。跪き、リンジーの手を取る。

「リンジー、あなたの力が必要なの。」

遙香はそのままリンジーの手の甲に触れるか触れないかのキスをする。

「ひゃぁぁぁぁ。」

リンジーの歓喜の悲鳴が部屋にこだまする。アルベルトは今度はあんぐりと口を開けたまま固まった。

遙香は立ち上がりながら、困ったように首を傾げてイザベルを見た。

「大げさよね。」

「いえ、なかなかに衝撃的な出来事でした。とりあえず飲み物をお持ちしますので、ダイニングテーブルの方でお寛ぎ下さい。二人が正気になるまで、話もできませんから。」

イザベルは、残念そうな目でリンジーとアルベルトを見た。







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