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13-2.
しおりを挟むダイニングテーブルの上には、豪華な夕食が並ぶ。遙香が昼食をとらなかった事を気にして、料理長が腕をふるい、いつもよりも品数を多くしたのだ。
実際には本邸で昼食をとったが、考え事をしていたためあまり食べた気がしなかった。並べられた料理はどれも美味しそうだ。
アルベルトが遙香の隣に座り、イザベルは遙香の前に座った。
「いただきます。」
遙香は手を合わせてから食べ始めた。
スープ、サラダを食べ、メイン料理に進む頃、遙香は、イザベルに話しかけた。
「今朝、本邸から執事のフェリックスさんが来たでしょ?あの時に、急ぎ本邸に来るように言われたの。」
「ヴァッハヴェル様からの呼び出しですか?」
「んー、フォンさんじゃなくて、現ヴァッハヴェル家当主のディードリヒ・ヴァッハヴェル公爵。」
「えっ?公爵閣下ですか?」
「そう。」
「・・・ご本人にお会いになられたのですか?」
「名乗ってたから本人だと思うけど、初めて会ったからなぁ。アルベルトは面識あった?」
「王城で見かけたことはある。影武者かどうかまでは、考えなかったな。」
「いえ、そうではなく、公爵閣下の直々のお呼び出しだったのですか?」
「そうね。」
「王に次ぐ地位をお持ちの方が、ハルカ様を呼び出されたのですか?」
「そう。」
「どの様なご用件だったのでしょうか?」
「んー、今まで挨拶できずにすまないってことと、生活に困ってることはないかってことかな。」
遙香は、メインの肉料理を切りながら言った。アルベルトは、黙々と料理を食べ進めている。
イザベルは、遙香の言葉の続きを待った。しかし、遙香は切り分けた肉料理を口に運び、そして両手に持ったナイフとフォークを使って次の一口を切り分けている。イザベルはアルベルトを見たが、こちらも料理を口にするばかりで、話をする気がなさそうだ。
イザベルは、意を決して遙香に尋ねた。
「それだけですか?」
遙香は、イザベルを見ずに自分のお皿だけを見つめ、料理を口に運んでいる。
「ハルカ様。」
少し強い口調のイザベルの声に、遙香はびくっと固まる。肉を切っていた手を止め、口の中の物を飲み込んでから、遙香は言った。
「ごめん、話せることはそれだけ。」
遙香は正直にイザベルに言った。召喚された初日から、遙香の心の機微に気づくイザベルを、ごまかし通すことはできなかった。
だが、安易に魔の森の真実を明かすことはできない。
「そうですか。」
イザベルは、少し寂しそうな顔をしながら、自身の皿の方に目線を下げた。手に持ったカトラリーを握ったままで、食事を口に運ぶ様子はない。
イザベルは、遙香の方を見ずに聞いた。
「話せない理由を伺っても?」
遙香は、アルベルトをちらっと見た。アルベルトは、遙香の困った表情を見て、かわりにイザベルに答えた。
「理由は、本邸での話の内容が、国の機密事項に触れるからだ。」
「・・・」
「知ることで、危険にさらされる可能性がある。」
イザベルは、ばっと顔を上げてアルベルトに聞いた。
「ハルカ様は?お話を聞かれたハルカ様に危険はないのですか?」
「ハルカは、聖女に関わる当事者だ。・・・知ることで危険が増えたのではなく、危険があることを知らされたんだ。」
「そんな。ハルカ様に危険が生じるなんて、一体どういう状況ですか!」
イザベルは、カトラリーを持った手を握りしめ、ドンとテーブルを叩く。菫色の瞳が、キッとアルベルトを見据えていた。
普段冷静なイザベルの感情的な行動に、遙香は少し驚いた。
「イザベル、落ち着いて。深刻にならなくて平気だよ。公爵家の別邸で保護されているなら、滅多なことは起こらないだろうし。」
遙香は、イザベルに心配をかけないよう、努めて明るく言った。
「詳細が話せないから、イザベルの不安を解消出来ないかもしれないけど、大丈夫だから。」
「ハルカ様。。。」
イザベルは、気丈に振る舞う遙香を気遣うように問いかけた。
「公爵閣下から、無理な依頼はされてないですか?」
「ないない。依頼とかはなかったし、個人的な望みとしても、「聖女を生んで欲しい」っていう事しか言われてないよ。」
「本邸で、嫌な思いはしませんでしたか?」
「ディードリヒさんもフェリックスさんも、丁寧に対応してくれたから、大丈夫。」
「悲しかったり、辛かったりすることはありませんでしたか?」
「・・・アルベルトがいてくれたから、大丈夫。」
「あったのですね。」
「いや、あのね、酷いことをされたりした訳じゃないよ。考え方とか価値観とかが合わなかっただけで、相手に悪気がないのは分かってるの。で、ちょっと、落ち込んだだけだから。」
イザベルが悲しそうに言った。
「ハルカ様の気持ちに添えないことが、悲しいです。私の事を案じてくださるのは分かります。でも、それと同じ様に、それ以上に、私もハルカ様のことを案じています。」
「イザベル。」
「悲しいこと、辛いこと、楽しいこと、嬉しいこと、ハルカ様には、この部屋にいる間だけでもご自分の心が一番自然な状態でいて欲しい。」
「・・・」
「無理には聞きません。ですが、ハルカ様が私達を気遣うあまり、部屋で寛げず、気持ちを吐き出すことができなくなってしまうのは、ハルカ様にお仕えしている私にとっては何よりも辛いことなのです。」
「・・・ごめんね。」
「謝るのは、私の方です。ハルカ様のお力になれず、不甲斐ないです。」
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