聖女の母と呼ばないで

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8-4. (密命)

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夕日に朱く照らされる庭園の中を、光と影に紛れるようにイザベルが進んでいく。

レンガで作られた塀まで来ると、生い茂る蔦を避けながら、小石で塀を「カッカカッ」と叩いた。

イザベルの叩いた音に呼応するかのように、塀の外側からも「カッカカッ」と音がする。

イザベルはその音を確認すると、肩ほどの高さにあるレンガのひとつを引き抜いた。



「首尾はどうだ。」

空いた穴の向こうから、男の声が聞こえる。低く抑えた声には、僅かに焦りが感じられた。



「まだ、つかめていません。」

イザベルは、男の声に短く答えた。



「急げ。お前を侍女に送り込んだことを無駄にするな。」

それだけ言うと、男の足音が遠ざかる。



「承知しました。」


イザベルは、遠ざかる足音に小さく返事をした。

レンガを戻して塀から立ち去る頃には、庭園の木々も蔦も草花も、夕闇の中で影同士が交ざり合い、その境界を曖昧にしていた。











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