聖女の母と呼ばないで

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8-2.

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「この国の人の寿命ってどれくらい?」

イザベルとリンジーが食事を再開したのを見て、遙香は聞いた。

「90を越える人は稀ですね。だいたい70位でしょうか。」

「召喚の周期は30年から50年って言っていたよね。魔の森の瘴気が増える周期と一緒?」

「はい、同じはずです。」

「聖女が生きていることもあるでしょう?2回浄化したりはしないの?」

「浄化の力は1度で無くなるらしい。」

「使いきり?戻らないの?」

「そんな例は、聞いたことがない。」

「浄化した後の聖女はどうなるの?」


イザベルとリンジーは顔を見合わせる。


「わかりません。」

「え?」

遙香は、アルベルトを見る。

「記録がない。少なくとも、俺が見られる範囲にはない。」

「生きている記録がないの?」

「いや、死んだという記録もない。」

「それって、どういう。」

遙香は言葉に詰まった。
聖女の生死に関する記録が、国に管理されている。

「聖女は、この国では神が遣わした者だ。ただの人になってその辺をぶらついてたら、国にとって不都合なことがあるんだろう。」

アルベルトが軽く言う。

「王家所有の別荘あたりで、隠居してるんじゃないか?」

「10代のうちに隠居?」

「じゃあ、幽閉か?」

「もっと悪いわー!」

遙香は、勢いあまってテーブルを叩く。
食器が、カシャンと音を立てて揺れた。

「ハルカ様、落ち着いてください。シェリスフォード様も、憶測であってもあまり良いものではありませんよ。」

イザベルが、遙香をなだめる。


「今日の謁見を聞いていて、思ったことがある。」

アルベルトが口を開いた。

「聖女が生まれるまで。宰相も王もそういう言葉を使っていた。なんで、「聖女が生まれるまで」なんだ?」

「・・・」

「国は聖女に関して印象操作している。用心しておいた方がいい。」








アルベルトが言っていることはもっともだった。遙香も、「聖女が生まれるまで」という期限が気になっていた。

宰相の最初の口上もそうだ。

遙香を召喚したのはフォンを筆頭とする魔術師達であり、召喚を決行したのは王だ。しかし、宰相は、神の意志で「聖女の母」が召喚されたとした。

そこには、どの様な思惑があるのだろうか。



今考えても、情報が不足していて答えがでない。

遙香は、頭を振って気持ちを切り替え、違う質問をした。


「王太子殿下の第三子って、知ってる?」

「わかりますよ。ウィリード殿下ですね。御年2歳の可愛らしい王子殿下です。」

リンジーが答える。

「聖女が生まれたら、婚約者になるんだそうよ。」

「王族と婚約ですか。なんだかすごいですね。」

「あと、聖女は、王宮の庇護のもと養育するんだって。これって、」

「なんですか、それは!」

リンジーが、遙香の言葉を食い気味に叫んだ。

「ハルカ様のお子様は、私が大切に大切にお育てする予定なのに。横取り、ダメ!きっとハルカ様に似て、黒目がくりくりして可愛くて。ほっぺすりすりして、「リーちゃん」って呼んでもらおうと思っていたのにー!」

イザベルの制止も間に合わず、リンジーは欲望と妄想を全開にした。


遙香は冷静に言った。

「あ、やっぱり王宮に取り上げられるってことだったのね。」



しん、と、部屋が静まり返る。


アルベルトが食事を終え、お茶を飲みながら言う。

「貴族院で承認されれば、だ。だが、王族の婚姻と王族以外への例のない過大な庇護だ。慎重な意見も出るだろう。
今出来ることはないが、まだ時間がある。ハルカはどうしたい?」

琥珀の瞳が、じっと遙香を見つめる。

遙香は、アルベルトの瞳から逃れるように自分の手を見て言う。

「まだ、わからない。」

「そうか。」

「薄情だ、って怒らないの?」

「実感がないんだろ?」

「・・・」

「焦ることはない。さっきも言ったが、まだ時間はある。自分の足元を固めてから、ゆっくり考えても遅くはない。」

「そういうものかな。」

「腹の子が成長するのとともに、親側の子を慈しむ気持ちも一緒に育つもんだと思うぞ。」


アルベルトの言葉に、遙香は思わずアルベルトの顔を見上げる。


「アルベルト、すごいね。経験談?」

「・・・俺に子はいない。」

「ごめん、冗談。ありがとう。」

「ハルカ様、私達もそばにいます。」

「一緒に成長していきましょう。」



「うん、ありがとう。」













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