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7-5.
しおりを挟む馬車に乗ってからの遙香は、控え室での会話が嘘のように静かだった。
「興奮状態だったのだろう。」と、アルベルトは思った。
無理もない。最初は、前に歩き出せないほど緊張していた。
しかし、王の前ではあれだけ堂々とした姿を見せたのだ。遙香は怯えや緊張を押さえつけ、自らを鼓舞し、あの姿を演じたのだろう。
窓の外を見ていた遙香の身体が、ぐらり、と傾く。
アルベルトは咄嗟に遙香の頭を手で支えた。
遙香は眠っていた。
物を支えるような自らの手の出し方に、アルベルトは苦笑し、頭と肩を支えながら遙香をゆっくりと馬車の座席に横たえた。
眠った遙香の顔は、部屋で見せる自然にくつろいだ表情をしていた。
**************************************
「着いたぞ。」
アルベルトの声で、遙香は目を覚ました。革張りの座席の感触に、どこだっけ、と考えた遙香は、ばっ、と体を起こす。
「おはようございます!」
恥ずかしさを隠すように、遙香が勢いよく言った。
気にすることもなく、アルベルトは「降りるぞ。」と声をかけ、馬車の扉を開いた。
「お帰りなさいませ。」
部屋へ帰ると、イザベルとリンジーが揃って遙香を出迎えた。
遙香は、二人に抱きつきながらお礼を言った。
「戦闘服、本当に力になった。二人のお陰で、私、頑張れたわ。ありがとう。」
「とんでもありません。ハルカ様のお力ですよ。」
「当然です。ハルカ様の力になるよう、ものすごく準備しましたもん。」
2人が別々の返事を返し、リンジーがイザベルに小突かれているのを見て、遙香は笑った。
そして振り返り、アルベルトに向かって言った。
「アルベルトもありがとう。歩き出せたのも、あの場であのように振る舞えたのも、アルベルトが後ろにいてくれたからこそ。勇気をくれてありがとう。」
「いや、当然のことをしただけだ。」
遙香は首を振る。
「行動だけじゃないの。皆のその気持ちが嬉しかった。味方でいてくれるって本当に心強かった。だから、言わせて?本当にありがとう。」
遙香は、そう言って3人に頭を下げた。
リンジーは、「ハルカ様っ」と、感極まった様子でいる。
遙香は、ゆっくりと顔を上げるとはにかむように笑った。
「へへっ。改めて言うと恥ずかしいね。これからもよろしくね。」
リンジーが、遙香に飛び付く。
「尊いっ。ハルカ様、一生ついていきますっ!」
イザベルが目を見張ったあと、我に返りリンジーを遙香から引き剥がして叱り付ける。
そんな様子をみた遙香の笑い声が部屋に響いた。
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