聖女の母と呼ばないで

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馬車に乗ってからの遙香は、控え室での会話が嘘のように静かだった。

「興奮状態だったのだろう。」と、アルベルトは思った。

無理もない。最初は、前に歩き出せないほど緊張していた。
しかし、王の前ではあれだけ堂々とした姿を見せたのだ。遙香は怯えや緊張を押さえつけ、自らを鼓舞し、あの姿を演じたのだろう。


窓の外を見ていた遙香の身体が、ぐらり、と傾く。

アルベルトは咄嗟に遙香の頭を手で支えた。

遙香は眠っていた。

物を支えるような自らの手の出し方に、アルベルトは苦笑し、頭と肩を支えながら遙香をゆっくりと馬車の座席に横たえた。

眠った遙香の顔は、部屋で見せる自然にくつろいだ表情をしていた。










**************************************

「着いたぞ。」

アルベルトの声で、遙香は目を覚ました。革張りの座席の感触に、どこだっけ、と考えた遙香は、ばっ、と体を起こす。

「おはようございます!」

恥ずかしさを隠すように、遙香が勢いよく言った。

気にすることもなく、アルベルトは「降りるぞ。」と声をかけ、馬車の扉を開いた。





「お帰りなさいませ。」

部屋へ帰ると、イザベルとリンジーが揃って遙香を出迎えた。

遙香は、二人に抱きつきながらお礼を言った。

「戦闘服、本当に力になった。二人のお陰で、私、頑張れたわ。ありがとう。」

「とんでもありません。ハルカ様のお力ですよ。」

「当然です。ハルカ様の力になるよう、ものすごく準備しましたもん。」

2人が別々の返事を返し、リンジーがイザベルに小突かれているのを見て、遙香は笑った。

そして振り返り、アルベルトに向かって言った。

「アルベルトもありがとう。歩き出せたのも、あの場であのように振る舞えたのも、アルベルトが後ろにいてくれたからこそ。勇気をくれてありがとう。」

「いや、当然のことをしただけだ。」

遙香は首を振る。

「行動だけじゃないの。皆のその気持ちが嬉しかった。味方でいてくれるって本当に心強かった。だから、言わせて?本当にありがとう。」

遙香は、そう言って3人に頭を下げた。

リンジーは、「ハルカ様っ」と、感極まった様子でいる。

遙香は、ゆっくりと顔を上げるとはにかむように笑った。

「へへっ。改めて言うと恥ずかしいね。これからもよろしくね。」

リンジーが、遙香に飛び付く。

「尊いっ。ハルカ様、一生ついていきますっ!」

イザベルが目を見張ったあと、我に返りリンジーを遙香から引き剥がして叱り付ける。

そんな様子をみた遙香の笑い声が部屋に響いた。









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