聖女の母と呼ばないで

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4日目
寝室に差し込む光はキラキラと輝いている。夜半まで続いていた雨が上がり、木々の雫に朝日が反射しているようだ。

遙香は、のっそりと起き上がる。

入浴の補助は、遙香の羞恥心をごりごり削ったが、一緒にモヤモヤとした淀んだ気持ちも削ったらしい。

一晩経って、遙香は、自分が何にモヤモヤしていたかはっきり理解した。

ジーナ・ミッドリードとの会話も、フォン・ヴァッハヴェルからの連絡も、一方通行だった。
遙香に問う形を取っていながらも、それは、答えへの誘導であって、遙香の考えを真に問うものではない。

「はぁ。」

遙香は、明るい部屋にそぐわないため息をつく。

遙香の社会人スキルでは太刀打出来そうにない、と遙香は思った。あれは、人から狸や狐に進化した専務クラス以上のスキルだ。

「でも、やるしかない。」

ここで生きてくために、遙香は知識を身につける必要がある。知識は、口を開けて待っていても、誰も運んできてはくれない。

「大丈夫。ひとりじゃない。」

遙香は拳をにぎり、ベッドの上で気持ちを強く持った。




起床後は慌ただしかった。

朝食を済ませたあとは、イザベルにおでこから鎖骨の下まで念入りにマッサージされ、化粧水やらクリームやらをしっかりと塗り込まれた。

イザベルが遙香の化粧をする間、リンジーが遙香の髪を結いあげる。
右サイドの髪を頭の上に向かって編み込み、そのまま左サイドから後ろへと続けて編んでいく。右耳の後ろでひとつにまとめられ、そのまま肩から前へ流される。毛先は緩く巻かれていた。


リンジーが準備した服に着替える。

黒の光沢のある生地で作られたジャケットとマキシ丈のフレアスカート。襟や袖、スカートには、僅かに黄、緑、青の色が入った銀糸で植物をモチーフにした刺繍が施されている。

白のブラウスは、フリルのついたスタンド・カラーとなっており、ジャケットを着ながらも女性らしい柔らかな雰囲気を醸している。

最後に、リンジーが黒曜石の装飾のついた細いタイを結び、イザベルが口紅を塗る。


姿見に映る自分の姿を見て、遙香は「誰?」と驚いた。
黒のジャケットは、女性騎士の様な凛々しさがあった。一方、編み込まれ片側から流された髪や緩やかに広がるスカートは、穏やかな女性らしさを醸している。濃い茶色で書かれた眉は意思の強そうな様子でありながら、朱にオレンジの混ざった明るさの口許は瑞々しい若さを表していた。

イザベルとリンジーが、遙香の横から姿見を覗き込みながら言う。

「仕事着の「スーツ」のお話を聞いて、準備していました。ドレスよりもハルカ様にはこの様な装いが「戦闘服」になるのでは、と。」

「王でも何でも、バッチこーいですよ。」

確かに、装いひとつで気持ちはぐっと引き締まる。

「仕上げに、私たちから魔法をひとつ。」

イザベルとリンジーは、両側から遙香を抱き締めた。

「今日のハルカ様は、いつにも増して素敵です。大丈夫。落ち着いて話すことが出来ますよ。」

「私たちの心は、いつもハルカ様とともに。」

2人の心遣いに、遙香は胸があたたかくなった。











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